第12話 衝撃の事実

今俺は車椅子に乗せた柚子ちゃんを押して病院の外を歩いている。

この病院には車椅子で散歩ができるコースがあった。

今は冬で植物とかはあまりないが、春や秋などは花が咲いたりして綺麗な花道になるらしい。


「今日は晴れてよかったよ。」


周りを見渡して柚子ちゃんに言う。


「そうですね。晴れてよかったです。」


柚子ちゃんはニコニコして言った。

すると、柚子ちゃんは俺を見上げていた。


「どうしたの?」

「蓮お兄さん、何か気まずそうな顔してたから…どうしたのかなって。」


そんな顔してたのかと、慌てて手で直そうとした。


「そんな顔してたかな?」

「気のせいならいいんですけど…」


と柚子ちゃんは言って正面を向いて


「私の家族のことについてですか?」

「えっ!?」


柚子ちゃんから図星な解答をされるとは思わなかった。


「やっぱり、そうですよね。」


柚子ちゃんは少し寂しそうなトーンで話した。


「ああ、うん、やっぱり面会の人って俺以外来てないのかなって。」


やはり、気になった。家族がそんな不幸にあって、そして今日まで面会に来る人がいないなんてそんなことはあるかとずっと考えていた。


「私の家族は交通事故で亡くなったんです。」

「うん…」


そこまでは木塚さんに聞いたけど…


「今まで、知り合いというかおじいちゃんとかおばあちゃんにも会ったことないんです。」

「えっ…」


驚愕の事実だった。

俺は驚いて声も出なかった。


「だから、面会には1人も来ないんだろうなって思ってました。でも、寂しくないんです。」

「どうして?」

「だってほら!」


するとまた顔を見上げて


「蓮お兄さんが来てくれるから!」


とびっきりの笑顔で言った。


「そんなことでいいの?」

「うん!だって普通、助けた人がお見舞いに来てくれるなんてことないでしょ?」

「うん…まぁ、確かに。」

「それが嬉しくって!だから寂しくないんです。」


そんなこと言われてしまったら…少し泣きそうになった。


「あっ!蓮お兄さん!あそこ行きたい!」


少し感情的になっていると、車椅子を押すスピードが落ちてたみたいだった。

今通ってる散歩コースはかなり入り組んでいて迷路みたいになっていた。


(もう絶対に柚子ちゃんの前では悲しい顔はしない…)


俺はそう決心した。

そのあとは柚子ちゃんに言われるままあっちこっちに車椅子を押して散歩を楽しんだ。

柚子ちゃんはすごい楽しそうにしていたのでよかったと思った。

しばらく散歩をしてから部屋へ戻った。


「また、私を持ち上げてベッドに戻してくれませんか…」


また照れた顔でそう言った。


「う、うん、そうだね…今度はどうしよっか。」


すると、柚子ちゃんは両手を広げて照れた顔を横に向けていた。

何をしていいか分からなかったので何も出来ずにいると、


「だ、抱っこです…抱っこなら大丈夫です…

よね?」

「そういうことだったか。それなら大丈夫か…」


がしかし、再度女の子の体を触る。やはり慣れない。


(これも同意の上…これも…)


と、言い聞かせて抱っこをした。今までは気にしないようにしていたから気づかなかったが、


(女の子ってこんなに軽いんだな…)


口には決して言わないように、自分自身に釘を打った。

ベッドに移し、布団をかけ直して、


「これで大丈夫?」

「はい…大丈夫です…」


まだ柚子ちゃんは照れてるようだった。


「じゃあ今日はこれくらいで帰るね。また明日も来れたら来るよ。」

「あっ、明日は面会はやってないって言ってました。」

「そうなのか、じゃあまた日を改めて行ける時は行くよ。」

「無理して来なくても大丈夫ですよ…私最近1人でも大丈夫なんですよ!」


少し自慢げに柚子ちゃんは言った。


「で、でも会いに来てくれたらうれしい…です…」


柚子ちゃんはまた照れて布団の中に隠れていった。


「うん。また来るよ。」


ここに来ることが日課みたいになってたから明日が行けないとなると何か物足りない気がしたが、仕方がない。


「じゃあまたね。」


手を振ると柚子ちゃんも手を振り返してくれた。


「明日は何するかな…」


そんなこと考えながら寒い冬の夜を帰宅して行った。

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