第9話 普段通りになんて…

「本当に来ちゃった…」


まさかお母さんが言ってたことが本当になるなんて思わなかった。


「うぅぅ…ちゃんと顔見て話せなかったよぅ…」


驚いたのもそうなんだけど顔見たら本当に蓮お兄さんなんだもん…

思い出すだけで顔に温度が上がっていくのが分かった。


「はぁ…どうしよう…咄嗟に明日も来てって言っちゃったけど迷惑じゃなかったかな…」


お礼を言わないといけないと思って明日も来てってついそう言ってしまった。

でも、お仕事忙しそうだったし来てくれるか分かんないのに…

さっき見た蓮お兄さんのことを思い出すと昔の事が鮮明に思い出してしまう。

そしてまた顔が真っ赤になる。


「どうしよう…来ちゃったらどうしよう…」


布団を顔にかけたり出したりして恥ずかしさを紛らわせていると


-コンコン


「失礼します。体温測りに来ました。」


看護師さんが入ってきた。


「あわわっ…は、はい…」

「どうしたの?」

「なんでもないんです…」


見られたちゃったかな…恥ずかしくて看護師さんの顔もまともに見れなかった。


「じゃあ体温測っていくね。」


よかった、気づいてなかった。と思ったのも束の間だった。


「さっき来てくれた男の人ご家族?」

「ええっ!?ち、違います…」


突然言われてまた顔が熱くなってきた。


「大丈夫?顔赤いわよ?」

「だっ大丈夫です…」


看護師さんはそう言いながら体温計を取った。


「あれ?体温少し高いわよ?熱でもある?」

「ち、違うんです!だ、大丈夫ですから…」

「そう?ならいいけど。」


蓮お兄さんの事考えて体温が上がったなんて絶対に言えない…


「じゃあまた来るわね。何かあったらすぐ呼んでね。」

「はい…」


色々検査とか質問とか聞かれて看護師さんは部屋を出ていった。


「はぁ…もうやだ…」


今はもうまともに人の顔を見れないから布団で全身を覆った。

顔を真っ赤にして思い出されるのは蓮お兄さんと手を繋いでるあの頃…





-翌日

昨日はよく眠れなかった…と言えば嘘だ。なぜか家に着いてやること済ませたらよく眠れた。

今日も病院に行かなければいけないこと以外は普段通りにやればいい、普段通りに…


「あれ?菊月さん、これ間違ってません?」


岡山の声で我に帰る。


「何を間違えったって?」


またお前がやったのかと思い少しキレ気味で聞いた。


「これ、菊月さんがやったやつ間違ってません?」


まさかなと思いながら俺のやった物を見てみると


「やべぇ、間違えてる…」

「ですよね…どうします?」


普段通りになんて出来なかった。そりゃあ、昨日あんなこと聞かされたら考えないわけはない。


「太田さんに見つからないようにすぐ仕分けるぞ!岡山手伝え!」

「ええ!?あ、はいっ!」


そんな大した量やってなかったからすぐに終わった。太田さんに見つかるかと思ったが、なんとか乗り切れた。


「サンキューな岡山!助かったよ。」

「いいっすよ!全然!」


岡山の方を叩きながらそう言う。


「じゃあ、一昨日の借りはもらった。」

「こんなことでいいっすか?」

「あぁ、助かったからな」

「了解っす!!」


時計を見るともう昼ごはんの時間になっていた。


「飯行くか岡山!」

「行きまーす!」


バレたらやばかったなとかそんな話しながら食堂へ向かった。


食堂に着いた。


「岡山、今日の昼飯奢ってやるよ。」

「えっ!?いいんすか?」

「おう、いいぞ。」

「あざーっす!」


なんかすごく助かった気がするから気前も自然に良くなっていた。

それぞれ昼食を選び、席についた。

席に着いた途端岡山が話しかけてきた。


「そういえば、昨日ちゃんと病室行きましたか?」

「行ったよ。」

「それはよかったっす!」

「なんで嬉しそうなんだよ。」


今は少し病院関連の話はさけておきたかったが、仕方がない。


「そういえば、今日も来てほしいなんて言われたな。」

「お、マジすか!絶対行くっすよ〜!」

「だからなんで嬉しそうなんだよ。」


やけに嬉しそうな岡山を見て気になった。


「いや〜、全く女性の話のない菊月さんからまさか女の子の話があるなんてなんか絶対あるって思ったんすよ!」

「なんもないからな。」

「で、昨日何話したんすか?」

「……」


まさかただ挨拶して自己紹介して帰ったなんて言えない。


「え!?まさかコミュ症全開で行ったんすか!?」

「うるせぇ!!」


お前が的確な回答をするなと頭にチョップを入れた。


「いってぇ…あ〜あ〜女の子可愛そうすね〜」

「俺は女と全く話したことないんだよ!仕方ないだろ!」

「まぁ、無理もないっすねぇ〜」


岡山は休憩時間になると休日に女に会ってきただ、出かけてきただ自慢してくるやつだった。なんでこんなチャラチャラしたやつがいいのか全然分からん。

こういうことに関して苦労してない岡山が羨ましく見える反面ムカついてきた。


「で、今日も行くっすよね?」

「仕事が片付ければな。」

「今日もちゃんと行ってあげてくださいっす。」

「そうだな…昨日はちょっと失礼だったかもしれないからな…」


確かにと昨日の病室のことを思い出しそう思った。


「じゃ、自分失礼するっす!ごちそうさまでしたっす!」

「おう。」


そのまま岡山とは食堂で別れた。




仕事に戻り、昨日のことは思い出すのを我慢して仕事をやっていた。順調に行っていたが、問題が起こった。


「あっ、やばいな…定時に終わらないぞ…」


今日に限って仕事量が多く、定時の17時に少し間に合わないくらいだった。


「くっそぉ…どうするかなぁ…」


黙々とやるも間に合う兆しがない。

(今日はダメか…)

と思ったが、


「菊月さん!」


両肩を叩かれた。


「お!?な、なんだ岡山か。今手が離せないんだ悪いけど後に…」

「自分代わりにやるっすから菊月さん行ってくださいっす!」

「な、なんで!?」

「いいから、いいから行ってくださいっす!」

「本当にいいのか?」

「もう、往生際が悪いっすね!こっちはいいっすから!気にしないでください!」

「分かった。あと頼んでもいいか?」

「OKっす!今度飯奢ってくださいね!」

「仕方ねぇなぁ。」


まさか岡山が肩代わりしてくれるとは思わなかった。

急いでロッカールームへ向かった。



「ここの資料とこっちの資料まとめておいてくれるか?おーい、杉野聞いてるか?」

「あっ、はい!分かりました!」


(最近やたら帰るの早いし急いで帰るし…もしかして…!って、やなこと考えるのやーめよー)

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