第8話 使命なのかも
「君には伝えておかなければいけないね…」
そう白衣の男が言うと真剣な顔でこちらを見た。
「えっ、なんですか?」
突然そんなこと言う白衣の男の言葉に驚きを隠せなかった。
「まずは、私の名前から…私は木塚(きづか)だ。楠木さんの担当医師をしている。君の名前は?」
「自分は菊月蓮です。」
「菊月くんだね…まずは…」
木塚という医師は重い口調で俺に話しかけてきた。
「まず、楠木柚子さんのことなんだけれど…」
「は、はぁ…」
いきなりなことすぎてうまく今の状況を把握できなかったが、どうやら柚子ちゃんのことを言っているようだった。
「では、今の楠木さんの容体なんだが…」
と言ったところでそれは両親に言うことでは?と疑問に思ったのでそのまま聞いてみた。
「ちょっと待ってください。」
「はい。」
「あ、あの、そう言うことってご両親に言うべきではないんですか?」
すると、木塚さんの表情が曇った。
「確かに、これは本来ならご両親にお話しすべきことなんですが、菊月さんには話しておきましょうか。」
「はぁ…」
もう何が何だか分からなかった。
「楠木さんのご両親は事故でお亡くなりになっていたみたいなんだ。」
「えっ…」
突然のことすぎて頭が真っ白になった。
真っ白になりながらも質問をした。
「それってどういうことなんですか?」
「これは警察の方から聞いた話なんだが、私も実際に聞いたわけではないからよく分からないんだ。」
「そうなんですか…」
そんなこと俺に言ってもいいのかと思いながら話を聞いていた。
「それと今日面談に来たのは菊月さんだけしか来てないんだ…」
「そんな嘘みたいな話ありますか!?」
「事実なんだよ。私も驚いている。」
と言われ、今日柚子ちゃんの病室に来た人の履歴を見せてもらった。
そこには、警察や全く関係のなさそうな大人の名前しか書いてなかった。
「マジですか…」
1番落胆したいのは柚子ちゃんの方だと思うのに、何故か自分がものすごく落胆していた。
そこで1つ思い出した。
「あっ、だから帰り際また来てほしいって言ったのか…」
病室を出る時なんであんなことを言ったのか分からなかったが、今納得のいく答えを見つけた。
「そうかもしれないね…私からも君に頼んでもいいかい?今楠木さんと同じ状況だったら私だったら耐えかねない。」
俺もその通りだと思った。俺もそんなの死んでしまった方がいいと思ってしまう。
「分かりました。なるべく明日もここに来るようにします。」
「よろしく頼むよ…」
なんだかとてもしんみりした空気になってしまった。
「あ、あと君にはもう1つ伝えたいことが」
「なんでしょうか」
こんな特殊な状況になったことは今まで1度もなかったが、もう受け止め切れる覚悟はできていた。
「手術も私が担当したんだが、楠木さんは今元気ですが、とても危険な状態と言えます。」
「元気そうに見えましたが…」
「本当だったらもう良くない状態になってもおかしくないんだが、生きたいという執念かなんとか息を繋いでいるという状態なんだ。正直この例は見たことがない。とりあえず処置は完了しているが、いつ容体がおかしくなっても…」
「そうなんですね…」
まさかそんな状態になっているとは思わず、とても驚いた顔をしてしまった。
続けて木塚さんは言った。
「君みたいな人が今日来てくれて良かったよ。楠木さんもそう思っているはずだろう。こういう精神状態の時誰かがいてくれるということは心強いと思うよ。」
本当に今日来て良かったと心の底から思った。もし行くのを躊躇って行かなかったらもっと悲惨なことになっていたかもしれない。
「明日もここに来れるようになんとか調整します。いろいろお話してくださってありがとうございました。」
もうなぜか、ここのお見舞いに来ることが使命に思えてきた。
「君いくつだい?」
先生にそう聞かれるので
「え?22です。」
と言うと驚いた顔をされた。
「君若いのにしっかりしてるね。」
「い、いや、そんなことないですよ。はははっ…」
人と喋るのは正直得意ではないし、今までうまく喋れたとは一瞬も思ってなかったから苦笑いで返した。
「それでは、僕はここで失礼します。」
「長話すまなかったね。ありがとう。」
会釈して部屋を出た。
「明日も行けるかな…いや行くんだ。」
そう決心して病院を後にした。
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