第7話 お見舞いに

看護師に案内され、病室にたどり着いた。

そこには“楠木柚子”と名札に書かれた部屋だった。


「お客様着きました。ここが楠木さんのお部屋です。まず私が入りますのでその後によろしくお願いします。」


看護師が部屋にノックして失礼しますと言って中に入っていった。

数分後看護師が出てきた。


「どうぞ、お入りください。まだ楠木さん目覚めたばっかりなのであまり刺激するようなことはお控えださい。」


と言って看護師は去っていった。

俺は看護師が去るのを見届けて恐る恐る部屋の中へ入った。


「失礼しまーす…」


俺の声が虚しく響き渡った。


「はい」


返事があったので中に入った。

が、なにを話そうか何も考えてなかった。


「あ、どうも」


と言いながら入っていき、ベッドの方を見ると昨日見た同じ顔の女の子が横たわってた。


が、入ってからは2人とも無言の時間が続いた。

見つめ合う形になってしまい、女の子は顔を少し赤らめて布団で顔を隠してしまった。


「あ、ごめんね!あの覚えてるかな?昨日一応声…かけたんだけど…」


覚えてもらってる自信がなくて最後は声が小さくなってしまった。


「あ、はい。覚えてます。昨日は本当にありがとうございました。」


女の子は落ち着いた声で俺にお礼を言ってくれた。


「そのあとは大丈夫だった?まだ体とか痛むかな?」


「あ、えっと…まだ腕とか痛いです。」


女の子はまだ恥ずかしいのか顔にまだ少し布団をかけて話していた。


「そっか、よかった。とりあえず元気そうでよかったよ。」


俺はそう言いながら女の子のベッドの横の椅子に腰掛けた。

隣に来たが女の子はなかなか目を合わせてくれなかった。


「あっ、そうだ、今日お見舞い持ってきたんだけど…」


俺は持っていた袋をそのまま女の子に渡した。


「水ようかんなんだけど、食べれる?」


女の子は渡した袋の中身を確認すると少し表情が和らいだように見えた。


「ありがとうございます。これ貰ってもいいんですか?」


「うん、食べれるようになったら食べてね。」


受け取った水ようかんを横に置くとまた恥ずかしそうに口元を隠した。


「あー、えっと柚子ちゃんでいいかな?元気そうでよかったよ。早く退院できるといいね。じゃあ俺はそろそろ…」


2人きりの空気に耐えれず俺は席を立ち上がってその場を去ろうとすると服の裾を引っ張られた。


「あ、あの…!お兄さんはお名前なんて言うんですか?」

「あ、お、俺の名前?俺は菊月蓮。」


本当に恥ずかしそうに顔を真っ赤にして言うのでこちらも恥ずかしくなってきた。


「菊月蓮…」

「どうしたの?」


名前を聞いた柚子ちゃんは少し考えるような顔をしたので気になった。


「あ、い、なんでもないんです。あ、あの、蓮お兄さんって呼んでもいいですか…?」

「あ、うん、別にいいけど…」


蓮お兄さんなんてあの時以来呼ばれたことなんてなかったので少し戸惑った。

おどおどしていると柚子ちゃんが、


「あの…また明日も来てくれますか…?」


次は恥ずかしそうな顔ではなく少し悲しそうな顔で言った。


「あっ、うん。明日もこれくらいの時間に仕事が終われれば行けるかな。」

「あっ!ごめんなさい…お仕事忙しかったら…大丈夫なので…」


柚子ちゃんは慌てて悲しくなってといろいろ大変な感情になっていた。


「じゃあそろそろ俺行くね。」


と言ってバイバイと手を振ると柚子ちゃんも会釈をしながら手を振ってくれた。


俺は病室の引き戸を静かに閉めるとため息をついた。


「はぁ…女の子と話すのってこんな難しいのか…」


俺は病室の前でうなだれていた。

うなだれていると肩を叩かれた。


「うわっ!!ごめんなさい!」


叩かれた方に驚いて振り向くと白衣の男が立っていた。


「すまないね、驚かせてしまったかな?」

「あ、いえ、少し考え事していたので…」

「そうかい、すまないが少し時間貰えるかな?」

「えっ?あっはい…」


突然のことに頭が追いつかず、ただ言われるまま部屋に案内された。


「あ、あの、話とは?」

「そうだね、とりあえず聞きたいんだけれど、あの子とは知り合いかい?」


また看護師と同じことを言われた。


「あ、いえ、知り合いではないです。ただ昨日僕の目の前であの子が轢かれたんですよ。」

「そうだったのか…」


俺はさっきから聞かれる柚子ちゃんと知り合いなのか保護者なのかと言われることの疑問を投げかけた。


「自分、さっきも看護師さんから保護者かどうか聞かれたんですよ。柚子ちゃんのご両親が何かあったんですか?」

「それは…」


白衣の男は変に口ごもった。


「何かあったんですか?」


もう一度聞くと


「君にも知っておいてもらった方がいいかもしれないね…」


白衣の男は俺の顔を真剣に見るなりそう言った。


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