第6話 私が生きて伝えなきゃいけないこと

救急車の音がうるさい。

でも体が痛くて目も開けられなかった。

だんだんと気が遠くなってきて、目を瞑ってるのに目の前が真っ白になってきた。


「ん…」


さっきまで目が開けられなかったのに急に目が開くようになった。

ゆっくりと目を開くと


「ここはどこ…?」


周り1面真っ白な場所に私1人立っていた。

周りをキョロキョロしていると声が聞こえた。


「柚子…」


聞き覚えのある懐かしい声。もう一生聞けないと思った声。


「お母さん!!」


声がした方を見上げるとそこには他の誰でもない私のお父さんとお母さんが全身真っ白な服を着て立っていた。


「お父さん…?お母さん…?なんでそんな格好でいるの…?ここはどこなの?」


私は疑問と疑問を両親に問いかけた。


「ごめんね、柚子。今はまだここに来ちゃいけないの。」


「なんで!私はお父さんとお母さんに会いに来たんだよ!ずっとずっと会いたくて、やっと会えたのに!」


私は両親に受け入れてもらえず、悲しくなってその場で泣き崩れた。


「なんで…なんで…」


「顔上げて柚子。」


涙でくしゃくしゃになった顔をゆっくりとあげる。


「柚子、助けてくれたお兄さん覚えてる?」


「え…?蓮お兄さんのこと…?」


「そう、私たちの心残り。」


お母さんが私の頬を撫でながら言う。


「あの人にお礼を言いたかったのに言えなかった。お母さんは死んでからあなたを1人置いて行ってしまったのもそうだけれどあの人にお礼を言えなかったのも後悔してる。」


「何を言ってるの?」


「柚子、お願い。蓮くんに私たち家族3人分の感謝の気持ちを伝えてほしいの…!」


「どうやって!?私もう死んじゃったんだよ!」


「まだ死んでないわ。これは神様が私たちにくれた最後のチャンス。あなたしか伝えられないの!だからお願い…」


「蓮お兄さんに会えるかどうかも分からないのに!どうすればいいの!」


「大丈夫、きっとあなたの前に現れるわ。」


「頼むぞ柚子。」


するとお父さんとお母さんは遠く離れていった。


「待って!お父さん!お母さん!行かないで!」


私は一生懸命追いかけた。でも追いつけなかった。


「お父さん!お母さん!」


どんどん遠くなる。どれだけ手でかき分けても、思いっきり走っても追いつけない。どんどん涙も溢れてきて視界が滲んできた。


またあの辛い現実に戻されるの?

あとどれだけ泣けばいいの?


不安と絶望しかないと思った。なんでこうなるのか全然分からなかった。もう蓮お兄さんに感謝の気持ちなんて伝えられることなんてないかもしれないのに。


「んん…さん…お母さん…」


目を開けるとそこは見知らない場所だった。

なんか周りは消毒臭いし、まだ夜中みたいだった。


「あれ?ここはどこ?」


起き上がるとベッドで寝ていたのが分かった。


「びょう…いん…?」


私が今いる場所は病院とやっと気づいた。消毒臭かったのも納得した。

すると左横から


「あ!気がついた?ここは病院よ。あなた名前は?」


左横を見ると看護師さんがいた。


「名前?私は楠木…柚子です。」


戸惑いながらも名前を聞かれたので答えた。


「楠木さんね。目覚めてくれてよかったわ。ところでお父さんやお母さんは心配してないかな?お家の電話番号教えてくれれば今から連絡取れるけど教えてくれる?」


私は下を向いて俯いた。


「どうしたの?」


看護師さんはすぐに様子を察したみたいだった。


「うっ…おとう…さんとおかあ…さんは半年…前事故で…」


私は泣きながら看護師さんにそう伝えた。


「だから…だから…」


「もういいわ。ありがとう。ごめんね。辛いこと思い出させて。」


そう看護師さんは言うと優しく私を抱きしめてくれた。


「うわぁぁぁん!」


私は大きな声で泣いてしまった。

看護師さんは抱きしめてくれるだけじゃなく、頭もそっと撫でてくれた。

それが無性にお母さんに思えてきてもっと涙が溢れてきた。


「今日は一旦体を休めた方がいいわね。今日はおやすみなさい。」


「はい…」


ありったけ泣いたあと私は眠りについた。



起きたらもう朝で9時は回ってたみたい。

朝から色々看護師さんとか色んな人に話を聞かれた。

色んな人と話してもやっぱりお父さんとお母さんのことは聞かれてその度苦しくなった。


「はぁ…これからどうしよう…」


これから先行く宛てもなく、蓮お兄さんに感謝の気持ち伝えるなんてどうしたらいいか正直分からなかった。

体もすごく痛いし。


近くに窓ガラスがあったから開けて外を眺めてた。

窓ガラスから下を覗くとかなりの高さがあった。


「もう1回同じこと…」


と考えた時胸が激しく痛んだ。


「…いたい…」


死のうとすると痛むのかな?これは呪い?

もうなんでもいいやと思ってまたベッドに横になった。


しばらく時間が経ったみたい。

私はまた眠っていたみたい。

誰もいない病室で1人寂しいなって思ってたら入口の引き戸からノックが聞こえた。


「楠木さん、失礼します。」


「はい、どうぞ。」


ノックして部屋に入ってきたのは看護師さんと、見覚えのある男の人が入ってきた。


(蓮お兄さん…!!)

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