第2話 いつも通りの日になる…はずだった
「もうすぐで終わる…かな?」
今俺は何をやっているのかと言うと、後輩のミスを尻拭いしてるところだ。
当初は膨大な量に絶望したが、なんとか1時間半くらいの時間で片付きそうな目処がたっていた。
「菊月さん!こっちあと2つで終わるっす!」
「よし、こっちもあとひとつだ!早く片付けて帰るぞ!」
単純で簡単な作業は1つのミスで複雑で時間がかかる苦行の作業に変わる。今日とても役に立つ教訓を覚えた。
今まで自分はミスをしてこなかったので今までやってきてしまった人達は同じ気持ちを抱いていたんだろうなと心の中でそう思った。
なんとか入れ替えの作業を終えた俺たちは後片付けをして、ロッカールームへ移動するところだった。
「菊月さん、ありがとうございましたっす!菊月さんいなかったら多分今日中じゃ終わってなかったすよ!」
「次巻き込んだら承知しないからな!」
「もうしません!誓います!」
「まぁ、いいけどさ。特にすることなんてないし。」
「え?休日に友達とかと遊ばないんすか?」
「その理由を説明すると長くなる。」
帰って、ご飯食べて、風呂入って、ゲームやって寝る。休日も同じような過ごし方しかしてない。
それはなぜかと言うと…
「あれ?菊月くんじゃん!どうしたの?こんな時間に?」
話そうとしたタイミングで後ろから声がした。
俺は逃げようと思ったが、岡山に変に思われたくなかったから仕方なくそのまま歩いた。
「やっぱり、菊月くんだよね!なんでこんな遅いの?しかも後輩くん連れて!」
走ってこっちへ来るなり、俺の顔をジロジロ確認する女性。
この女性の名前は杉野あかり。
社内では高嶺の花とか嫁にしたいランキング1位なんか言われてるらしい。
俺と同期で同じ高卒のくせにこの会社ではエリート。
どれくらいエリートかと言うと、入社1年目から課長の秘書をやるくらいの実力だ。
なぜここまで差がついてるのか全く分からない。
「えーと、誰でしたっけ?」
杉野とは冗談を言える仲だと自分で思っている。入社してすぐ話すようになったのは杉野くらいではないだろうか。
「あたしだよ~!杉野あかり!忘れちゃったの?酷いなぁ!」
え〜みたいな困り顔をしながらそう言う。
「そういえばいましたね。」
「もう!やめてよね!忘れられちゃったのかと思ったじゃん!」
笑いながら冗談だと察してくれた。
「で、本題。なんでこんな遅いの?」
とてつもなく説明がめんどくさくて、早く帰りたかったので端折りに端折って説明した。
「こいつがミスしました。太田係長に一緒にやれと命令されました。」
「あー!連帯責任ってやつだね!」
杉野はなるほどなるほどと頷いた。
「そういう杉野はなんで遅いんだよ。」
俺も杉野が残ってる理由が知りたかったので聞いてみた。
「あたし?あたしも仕事だよ~。課長に頼まれた資料作成時間かかちゃったの!」
もっとも普通な返答だった。
「才色兼備の杉野でもミスするんだなぁ。」
「あたしだって人間!ミスしまくりだよ!」
と言って手に持っていた赤ペンでものすごい量で書き込んであるプリントを見せた。
「分かった?あたしもミスしますよ!」
そう言うとクルっと振り返って
「じゃあ気をつけて帰ってね~!久々に話出来てよかった!またご飯でも食べに行こ〜!後輩くんもバイバイ!」
「また今度な。」
杉野は手をヒラヒラ振って女子ロッカールームへ入って行った。
「菊月さんってあの会社のアイドル、杉野さんと仲良かったんすね!なかなか喋れないって聞くっすよ!」
今まで口を開かなかった岡山が喋りだした。
「あんなに仲良いなんて羨ましいっす!もしかして付き合ってたりするんですか!?」
岡山が興味の眼差しを向けてくる。
「うるさい口はこれか?喋ってないでさっさと帰るぞ!」
「あ、はひ~」
岡山の頬を引っ張った。
俺はすぐ着替えて会社を後にした。
車に乗るともう19時半を回っていた。
「今日もコンビニでなんか買って帰ろっかな。」
いつも俺の晩ご飯はコンビニ弁当か外食。ぶっちゃけ食事を作ろうとすると多分失敗する。
そんなことは置いといて、いつも通り家の帰る途中にあるコンビニによってコンビニ弁当とビール買ってアパートの駐車場へと到着した。
「もう冬なだけあってあたり真っ暗だな。」
駐車場を照らす心許ない電柱の灯りが暗さを際立たせる。
あとは横断歩道を渡って家に帰るだけと思って車を降りて横断歩道の方へ向かうと1人の女の子が歩いていた。
セミロングヘアーで、暗闇でよく顔は見えなかったが、最近はあまり聞かないけどゆるふわ系?ゆるかわ系?と言うのか?そんなふうに見えた。
ただ女の子が歩いているだけなら気にならないのだが、歩いていた女の子には気になる点が幾つかあった。
まずその女の子はこんな真冬なのに上着を来ておらずどこから見ても薄着だというのが分かる。
それ以上に気になるのが、下を俯いて泣いているのが分かった。
そしてかすかに、
「…さん、…さん…けて…もう…だよ…」
女の子と距離があったから上手くは聞き取れなかった。
その状況を見て少し心配になったので声をかけようと思った。
小走りで女の子のもとへ行こうとすると運良くもその女の子はいつも俺が渡る横断歩道でトラックが通り過ぎるのを待っていた。
「おーい、君!大丈夫?」
と言いかける瞬間だった。
突然女の子はトラックが横断歩道を通る瞬間飛び出したのだった。
「危ない!行くな!」
と言葉にして発する時にはもう遅かった。
トラックが大きなクラクションを鳴らして急ブレーキを踏む音で響いた瞬間、
バンッ!!!
と何かと何かがぶつかった大きな音が響いた。
その音が響いた時トラックの目の前にはあの女の子はいなかった。
俺はかろうじて目だけは少女を追えていた。
少女はトラックとぶつかった瞬間体ごと宙に舞っていた。
俺は何を思ったのか分からなかったが、体が勝手に走り出したことは分かった。
俺は宙に舞った女の子の落下点に入って女の子を受け止めた。
力にはあまり自信はなかったのだが、女の子を抱き上げる力はあったみたいだった。
受け止めた瞬間、女の子の体温がとても低いことに気づく。女の子が無事かどうかなんて全く分からなかったが、すぐに体を温めた方がいいと思った。
受け止めた俺はすぐさま歩道へ戻り着ていたコートを地面に敷き、女の子をゆっくり下ろした。
緊急措置など全く分からなかったからとりあえず息があるのかどうか確認する。
(どこを見ればいいんだっけ?お腹の動きを見るんだっけ?呼吸を見るんだっけ?)
とりあえずお腹の動きを見たが暗くてよく分からなかった。
次に口元に手を当てると僅かだけれど息をしているのが分かった。
「よかった、まだ生きてる。」
その確認ができた瞬間に救急車を呼ぶ。
プルルル…プルルル…
「はいこちら緊急外来…」
「もしもし!すいません今女の子がトラックに轢かれて重体です!まだかすかに息はあります!」
もうテンパりすぎて向こう側の声は全く聞こえなかった。
数秒後今から向かいますだけ聞き取れたから救急車は無視をした。
とりあえず今は女の子が心配で仕方なかった。
息をしているのは分かったから意識を確認した。
優しく肩を叩きながら
「大丈夫?俺の声聞こえる?聞こえたら返事して!」
と、何回叫んだか分からない。何回か叫んだ後女の子の目が少し空いた。
「…にいさん?…てくれた…?…っと…た…」
かすれた声で女の子は喋った。
「よかった!まだ喋れる?俺の声聞こえる?」
俺は状態を確認しようとした。すると女の子はゆっくり自分の手を俺の手に重ねて、小さな声で
「もう私の手を離さないで…」
さっきまで聞き取れないくらいかすれた小さな声だったけどそれだけははっきり聞こえた。
「分かった!手を握ればいいんだね!」
俺は言われた通り手を握る。
女の子も弱々しい力で握り返した。
握ったあと女の子は何か喋ったと思ったが、聞き取れなかった。
そのまま女の子は気を失ってしまった。
「大丈夫?俺の声聞こえる?おーい!」
返事はなかったけれどずっと俺の手を離さなかった。
数分後救急車がサイレンを鳴らして近づいて来るのが分かった。
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