第3話 自殺志願者

-ピンポーン


「楠木さんいますよね?返事してください。」


毎日同じ時間、同じ人にインターホンを鳴らされる。

だけど私はそれに応答しない。したくない。

だってそれが借金取りって気づいてるから…



私の名前は楠木柚子(くすのきゆず)2週間前まで普通の女子高生だった。

けど2週間前に起こった事故で私の生活は急変した。

2週間前に何があったのかというと…




私の家族はお父さん、お母さんそして私の3人家族。最近はお父さんのお仕事とかお母さんも病院に通ってるとかであまり家族が揃うことが少なかった。それでも不自由な生活はしてなかった。




それは久々に家族が揃ったのでお父さんとお母さん、私で外食することになった。

ここ最近家族が揃うことがあまりなかったから、無駄にはしゃいじゃってたなぁ…


「今日はなんでも食べていいぞ!」


お父さんのこの言葉に思いっきり甘えた。

ただのファミレスだったけど本当に嬉しいかった。


だけど、この嬉しい瞬間は一瞬で消え去った。


ファミレスからお父さんの車に乗って帰る途中、その事故は突然起きた。


隣の車線で走っていたトラックが横転した。

横転しただけならいいんだけど、そのトラックはお父さんの走る隣の車線まで届く大きさだった。


そして運悪くも私たちの乗ってた車はトラックの下敷きになった。



「うっ…」


あれ?痛くない?あ、もう私死んじゃったのかな…?


と思ったけど目を開けたら光が刺した。

周りはサイレンの音でうるさかったし、すごく焦げ臭かった。


「君!大丈夫!?返事出来たら返事して!」


誰かに呼びかけられてる。男の人の声だった。


「ん…?誰?」


その呼び掛けに答える私。

ゆっくりと目を開けると、そこは車の中じゃなくて道端だった。


「え?どういうこと?お父さんは?お母さんは!?」


私は状況を理解できず、呼びかけた男の人の肩を強引に揺らして問いかけた。


「君のお父さんとお母さんはもう…」

「え…」


私は言葉を失ってその場から崩れ落ちた。

よく周りを見渡すと、消防車が何台も来てて目の前には車から炎が上がっていた。

呼びかけた男の人をしっかり見ると消防士の人だった。


「ごめんね、お父さんとお母さん、助けられなくて…でも君を助けることが出来てよかったよ。」


私は何も言えなかった。ありがとうございましたとも言えなかった。

あの時ちゃんとお礼を言えてたらなって今でも後悔してる。



あの日私のお父さんとお母さんはトラックの下敷きになった。

お父さんとお母さんのことを考えると涙が溢れて止まらなくなる。

お葬式は出来なかった。

なぜって?その時に私の家にはお金が無いということを知ったから。

そんなこともうどうでもよかった。

ただただお父さんとお母さんに会いたいという気持ちが募るだけ。

まだ死んじゃったことだって受け入れてない。

次第には


“なんで私だけ生き残っちゃったのかなぁ…?“

“死んじゃえばお父さんとお母さんに会えるかな?”


なんて考えるようになった。


そう、だから今からお父さんとお母さんに会いに行く。


“私は自殺志願者”


夕方から夜になるくらいに借金取りの人は帰って行った。

いなくなったのを確認して外へ出ていった。


最初は首を吊って死のうかなって思ったけど自分でやるのが怖かったからやめた。

外をとぼとぼ歩いていると横断歩道を見つけた。


「轢かれて死ねばすぐかな…?」


もう頭の中は死んでお父さんとお母さんお母さんに会いたいって考えることでいっぱい。

もうすぐでお父さんとお母さんに会えると思うと涙が溢れてきた。


ふと一瞬小さい頃の記憶を思い出した。


“あ、そういえば蓮お兄さんにあれ以来会えなかったな…あの時ちゃんとお礼言えなかったし…”


そしてお母さんの言葉も同時に思い出す。


“蓮くんにまた会ってちゃんとお礼を言わないとね…”


昔お母さんを助けてくれた人。

あの時まだ小学生で恥ずかしがってたから上手く言葉で伝えることが出来なかった。

だからもう一度会えたらなって思ってた。


でももうそれも叶わない。


「ごめんね、お母さん。私ももうダメなの…」


生きてても辛くて、泣いても泣いても止まない涙で1日が過ぎるのは本当に辛かった。


「お父さん、お母さん、助けて…もうダメだよ…」


また涙が溢れてきた。もう泣きたくないのに。悲しみたくないのに。苦しくなりたくないのに。


横断歩道の方を見るとトラックが通り過ぎようとしているところだった。


死ぬための絶好のチャンスだと思った。


“お父さん、お母さん今から行くよ…”


トラックが来た瞬間私は飛び出した。

やっぱり怖かった。でも覚悟は決まってた。


“やっと会いに行ける…”


私が覚えているのはトラックとぶつかる瞬間まで。そこからは何も覚えていない。


“これで私もようやく…”


だんだんと視界が無くなっていく。

でも何も怖くなかった。

だってもう会えるんだから…


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