第12話 野盗本拠地潜入

「着いた。見てくれ、あれが奴等の本拠地だ」


 ノオン達と共に森を越え、ようやく目的地近くの丘陵へと辿り着く。

 それで合図の下、隠れながら丘先を覗いてみたのだが。

 目の当たりにしたのは結構な規模の根城だった。


 恐らく森の大型遺跡を利用して仕立てたのだろう。

 石壁に囲まれた砦とも言える場所で、更には木々に囲われている。

 おまけに灯一つ付いておらず、空から探しても見つけ難そう。


 しかし警備はとても厳重だ。

 夜目が利く人員を配置しているのだろう、何人かが巡回しているのは見える。

 この調子だと石壁の先にも見張りがうようよしているに違いない。


 先程までの罠といい、この厳重さといい、只の賊とは思えないな。

 この手際の良さはまるで軍隊の様だ。


 父からもこういった戦場における戦略法を教えて貰った事がある。

 敵地へと侵攻する際には攻められ難い中継砦を造るのが良いのだと。

 そこが重要拠点となる場合、突破されない為の防衛網を張る事もな。


 父曰く。

敵射崩穴ワイ・ブトゥドゥ、敵に抜け目を与えるな。僅かな隙であろうと見せてしまえば防備など無為となる。防衛を担うならばまず穴を塞ぐのだ〟


 この場所はまさにその重要拠点そのもの。

 だからこれだけ厳重に防衛網を張っていたのだろう。

 まるで父の教えを賊どももが知っているかの様に。


 けど、俺はその先を行ってみせるさ。

 そう出来る様にと、教えを伝えたその父から鍛え上げられたからな。

 それでここまでの罠も全て解く事が出来た。


 お陰でどうやら俺達の存在にはまだ気付いていないらしい。

 警備の一人がとても眠そうにあくびをしているのが見える。


 なら忍び込むのも容易そうだ。


「さて、では乗り込むとしようか」


「いや待て。ここは俺が斥候として出る」


「アークィン一人でかい?」


「あぁ、これでも隠密行動には自信があってな」


 俺は知覚遮断系の魔法も扱える。

 場合によっては敵地に忍び込み、中から暴れる必要もあるからだ。


 敵が多い場合、無駄な戦闘は避けなければならない。

 いくら猛者でも何十人と戦っていては消耗は免れないからな。

 それに、その間に本命が逃げてしまえば元も子も無いし。


 なら最初に本命たるリーダーを潰す。

 これが父から教わった対集団戦術の基本さ。


 その戦術を確実とする為にも、ノオン達にはちょっぴり協力して貰わねば。


「まず俺が一人で侵入する。それで機を見て合図するから、そうしたら皆も続いてくれ。少し時間は掛かるだろうが、必ず道は作る」


「わかった。アークィンを信じよう」


 信じてもらった所で悪いが、これは嘘だ。

 俺は終わるまで合図を出すつもりなど無い。


 この戦術は俺一人だからこそ叶う戦い方だからな。

 そこにノオン達がいると逆に戦い辛くなってしまう。

 それにこの防衛網を正面突破するなど彼等には不可能だろう。


 だからここで大人しく待っていてくれ。

 頭目を潰した後、落ち着いたら本当に合図を出すからさ。


「【光音遮絶パーセクト】、【気空滑レベイラー】……!」


 そう心に想いつつ、自分に知覚遮断魔法を掛ける。

 ついでに足元が僅かに浮く空滑魔法も。

 これで他人には俺の姿がほぼ見えなくなり、足音も最小になる。

 後はノオンの頭をはたいて出発を伝えておくとしよう。


 それで早速、砦へ。


 大丈夫だ、魔法はしっかり掛かっている。

 警備にも気付かれていない。


 ただそれでも行動は冷静に、慎重に。


 いくら知覚遮断していてもバレる時はバレる。

 目の前で動いたり、近くで呼吸したりすれば気配が出るからな。

 それに相手が手練れなら例え離れていても気付かれる可能性がある。


 なので一人通り過ぎた後に裏を空滑すべり抜け、石壁を跳んで越える。

 その後ツタなどを揺らさない様に壁上を伝い、拠点内へと向かえばいい。


 にしても見張りの人数が本当に多い。

 一〇人じゃ利かないぞ、これは。

 仮に半日交代制として、一体何人規模の賊なんだ。


 そんな防衛網を潜り抜け、本丸の遺跡構内へと足を踏み入れる。


 幸い、入口には門番が居ないので侵入は楽だった。

 構内は狭いし明かりがあるからな、常駐する必要が無いのだろう。

 よほどの自信の表れだな。


 その予想通り、中はほとんど敵がいない。

 大概が寝室で寝ている様だ。

 話したり遊んだりしている暇は無いって感じだな。


 でも侵入する側にとっては助かる。

 このまま奥まで行かせてもらうとしよう。


 そう思った時だった。

 ふと目前の部屋の扉が開き、甲高い悲鳴と共に人が出て来る。


 賊の一人だ。

 しかもその手で年端も行かない少女を引きずりながらに。

 泣き叫んで嫌がろうが構う事無く、髪を掴んで強引に運んでいる。


 まるで物を運ぶかの如き冷淡さ。

 人を人として扱っていない!

 これがこいつらの本性か……!!


 なら、俺も貴様等を人としては扱わん。


 まず颯爽と賊へと駆け寄り、手刀で喉を潰して。

 悶絶した所で空かさず後頭部へと膝蹴りを見舞い、手早く事を済ます。

 倒れる音が響かないよう、地面へ落ちる前に捉えてな。


 そしてそのまま少女の口に指を充て、こう囁くのだ。


静かにしていろ。この部屋で待つんだ」


 状況を理解出来ていない相手なら、こうやって主導権を握ればいい。

 それだけで少女は把握し、思う通りに動いてくれるハズ。

 

 この少女は恐らく奴等に捕まった国民の一人だろう。

 となるとこの傍の部屋は鹵獲ろかく者収容室といった所か。

 放って置く訳にはいかないな。


 ならばと部屋へ入り、監視の賊も素早く仕留めて。

 それで先の賊の遺体と共に少女を置いておく。

 ひとまずこれで少女達はもう心配いらないだろう。


 にしても、捕まっていた人数もとんでもなかったな。

 ぱっと見で五〇人近くいたぞ。

 しかも一〇人程しか入れなさそうな空間に押し込められて。

 これもまた酷い話だ。


 ただ、彼等にはもう少しだけ耐えていてもらおう。

 下手に解放した所で、勝手に動き回られても困るからな。


 そう少女にも伝え、頷き返してもらった所で先へと進む。




 どうか待っていてくれ。

 もうすぐ貴方達を捕らえて苦しめた元凶を倒してみせるから。

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