第11話 姫亡き後、青の世界は涙に沈む

 まさか王国兵団が野盗ごときに倒されるとはな。

 確かにあの野盗どもは妙に戦術がこなれていたけれど。


 その影に一体何があったって言うんだ?


「君は三年前の事件を知っているかい? 第一王女エルナーシェ姫の滑落事故を」


「いや……すまん、理由があって世俗には疎いんだ。その人物が誰かという事もわからない」


「なら姫の事から説明しようか。フィー頼むよ」


「わかった~ま~かせて~」


 すると今度はフィーが得意げに錫杖を振り回していて。

 短い足でトテテと走りながら俺達の前に躍り出る。


 それも振り向き、後ろへ跳ね進み続けながら。


「エルナーシェ姫はこの国の第一王女で虹の象徴姫とも呼ばれて世界を束ねる人だったんだでも三年前に【陽珠】の下へと向かった際に足を踏み外して滑落事故を起こして帰らぬ人にそれで国民は嘆き悲しみ生きる気力も失って今に至るの」


「待って、なんで説明だけ口調が倍速なんだ?」


「しかも姫が各国の絆を繋いでたから彼女がいなくなった事で情勢が悪化その結果青空界と他国の関係は断ち切られる事になったのそれで青空界も助けを呼べずに自分達で何とかしなきゃいけないけど兵力は育たないし兵士も士気が落ちて支援も無いのでどうしようもなーいーてー」


 ……まぁ大体わかった。

 

 つまりだ、そのエルナーシェ姫とやらが居ない今、助けてくれる国は無い。

 国民もショックで落ち込んで成されるがまま。

 それで国力も落ちて、ますます貧困になっていく――という訳か。


 悪循環だな。

 このままじゃ賊に国ごと乗っ取られかねないぞ。


 だがこの話には若干、不可解な事もある。

 それはエルナーシェ姫が亡くなった後の動きだ。


「少し教えてくれ。エルナーシェ姫は象徴だったんだよな? 皆の手本になる様な人物だったのか?」


「そうさ。彼女はとても素晴らしい人だった。ボクも一度お逢いした事があるけれど、誰にでも優しく、聡明で美しい。混血にさえ愛を与えてくれる女神みたいな方さ。それでいて気高く気丈で逞しくもある。皆の憧れだったんだ」


「それだよ。それが何かおかしい」


「え?」


 普通、人とは憧れる者がいたら同じ様になりたいと思うものだ。

 俺が父に憧れるのも然り、ノオンが騎士に憧れるのも然り。


 だけど青空界どころか他の国でさえ同じ様な人物が出ていない。

 もし出ているなら青空界に手を貸す事も吝かではないハズ。

 国内で出たなら恥を忍んででも助けを乞いてもいいだろう。


「誰か姫の代わりに国を背負って立とうって奴はいなかったのか?」


「いないね~みんな委縮しちゃった~ね~」


 それすら無いのが何か不自然に感じてしょうがない。

 一般民ならともかく、国政周りでそういった人物が出ないなどとは。


 今の状況はまるで、姫が死んだ事を待っていたかの様な感じだ。

 それだけ姫の死をキッカケに全てが動いている様に思える。


 それが不可解に思えて仕方なかったんだ。


「実際そうなんだろう。だからもう誰にも頼れなくて流れ者に託すしか無かった。それでボク達が引き受ける事にしたのさ。それからテッシャに探ってもらって本拠地を見つけたんだ。そしたらそこから出兵した奴等がいて。それで追い駆けたら君を見つけたってワケ」


「なるほどな。そこから俺に目を付けてたって事か」


 ともあれ、これでノオン達が俺を誘った真の理由もわかった。

 確かにそれなら俺をどうしても引き入れたいって思うだろうな。

 奴等との戦いの実績もあり、個人的な戦闘経験も豊富で。


 そしてなりふり構わなかったのは、この戦いで確実に勝ちたいから。

 本気度が伺えるな、これはポイント高いぞ【銀麗騎志団】。


「しかしそうなると、まるで誰しもが諦めた感じだな。もう姫みたいな事は誰にも出来ない、みたいな」


「言われてみると確かにねぇ。でも事実、世界はそういう風に動いてしまっているのさ。姫の死は青空界だけじゃなく虹空界各地に大きな影響を与えてしまったから。それでも大きな争いが無いのだけは救いだけど」


「にしたって流され過ぎだ。なんだか思った以上に世間はずっとおかしくなっていたらしい。父よ、貴方もさすがにここまでは見抜けなかった様だな」


 きっと父ならこの状況を許さないだろう。

 存命なら恐らく一人ででも賊どもを根絶やしにしただろうから。


 なら、その意志を受け継ぐ俺が代わりにやりきるだけだ。


 正直な所、ノオン達がこの戦いを凌ぎきれるとは思えない。

 俺がいなければ恐らく、賊どもに掴まって奴隷の仲間入りだろう。


 では何故そう思ったか。

 それは今こうして呑気に話せている事に理由がある。

 

 実はここまでに、一七の探知魔法トラップに遭遇している。

 一七だ。尋常じゃない数だぞ。

 たかが賊がやったとは思えないくらいの。


 それを俺が解除魔法を当てて消し、お陰で平穏に進む事が出来ている。

 しかしノオン達からはその解除作業に気付いた節は見えない。


 恐らく罠に気付いていないのだろう。

 つまり、それだけの腕前しか無いという事だ。

 そんな者達があの賊どもに掛かった所で返り討ちの未来しか見えない。


 でも気のいい者達だから死なせたくはない。

 であれば俺だけで戦えば済む話だ。


 俺なら一人ででも奴等を倒せる自信があるからな。




 いや、絶対に成さねばならない。

 悪を滅する事が偉大なる父より全てを受け継いだ俺の使命なのだから。

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