第7話 銀麗騎志団

 突如現れた四人組。

 しかも奴等、マイペースを貫くまま勝手に自己紹介を始めやがった。

 にしても一体なんなんだそのシルエットポーズは。


 というか後ろの奴等、ポージングしたまま跳ねて出てくるんじゃあない。


「我が名はノオン! 騎士剣の使い手にして誇り高きを知る、万民の為の騎士なりっ!」


 最初に名乗ったのは俺と話をしていた奴だ。

 銀の軽装板金甲ライトアーマーを纏い、仕上がりの良い剣を振り翳す。

 ただその太刀筋は悪くない。

 街明かりを受けてブレなく輝かせているからな。


 身体付きは並々か細め。

 騎士というには少し肉感が足りないかもしれない。

 とはいえ剣を軽々振って見せた所は相応の力がある証拠だろう。


「私はマオ=リィエという。精霊使いであり、相棒と共に生きる事を誓った者だ」


 その右隣に居るのが長身でウェービーな緑髪の女だ。

 同じく緑と黒の色調を持ったローブを纏っていて。

 更にはその背に、背丈と同じくらいの長さの黒猫を背負っている。

 頭に顎を乗せられた状態でな。とてもやる気無さそうに垂れているぞ。


 ぱっと見では普通の人間に見えるが、こいつも恐らく同類だ。

 髪をよく見れば草の様な繊維質が見えるし、肌にも微かに木目調が。

 察するに、人間と妖花人アルラウネ樹人ドライアドの混血といった所か。


「あたしは~フィー=ロッカ。くふふっ、なんでもなおしちゃうの~!」


 で、反対隣に居たのがとても白くて小さい娘。

 その背丈は常人の腰下辺りまで、子供かと思える大きさだ。

 白と水色を基調としたローブと垂れ耳フードを被り、にししと笑っている。

 低い齧歯が見える辺りはこいつも混血、何かと兎人ラビアータの相の子だろう。


 今は身長の二倍もある錫杖を頭上で振り回してご機嫌だ。

 だけどフラフラと身体が振り回されてる辺り、戦いには不向きそう。

 後方支援専門の療術師メディアラーといった所か。


「テッシャ=テッサだよー!」


 そして最後はこいつ。


 見た事がある顔だと思ったんだ。

 しかしまさかこうして早々と再会する事になるとはな。


 茶褐色肌は当然の事、薄黄色の髪は腰ほどに長いストレートで刺々しい。

 それを惜しげもなく跳ね上げ、元気さをアピールするかのよう。

 一方の服装はラフで、下着に荒革の軽鎧を纏った程度。

 その両腕に大きな爪腕甲を備え、猫の様に振り回して見せつけている。


 身軽だな。恐らくは格闘術に秀でている。

 おまけにあの土の中で素早く動ける技術は目を見張るものがあった。

 となればさしずめ人間と土竜人モーリルの混血だろうな。


 そんな紹介が終わった途端、四人が集まっていく。

 一体何をするつもりなんだ……?




「「「我等、正義を貫き悪を挫く(せーの)【銀麗騎志団ぎんれいきしだん】ッ!!!!!」」」




 そうですか。

 とても愉快な仲間達らしそうで何よりだよ。

 

「――さて、調査を続けるとしようか」

「待ってェ! ちょっと待ってェ!!」


 こうして冷めた態度で踵を返したのだけど。

 空かさずノオンが俺の手首を掴んで引き留める。

 それも、とてもとても素早い動きで。


「なっ、何が気に入らないというのだねっ!?」


「全部だ」


「ぜ、全部ッ!?」


 だがそれでも俺を留める事は叶わない。

 こんな極めて怪しい奴等と遊んでいる暇は無いからな。


 考えも見ろ。

 こんな恥ずかしい名乗りを堂々とやってのける奴等だぞ。

 しかもそんな者達の仲間になるって事はだ。


 それはつまり、今の名乗りを俺もやらされるという事に他ならない。


「じゃあ一体どうしたら仲間になってくれるのさっ!?」


「可能性は、ゼロだ」


「「「ゼロォ↑!!」」」


 ならば断固拒否するッ!!!!!

 絶対無理だ。羞恥心で死ぬ自信がある。


 仮にそうせずに済んだとしても、だ。

 とてもじゃないがこの中に入れる気がしない。

 このよくわからないテンションに適応出来る気がしないんだ。


 そもそも騎士団ってどうなんだ。

 どう見ても騎士じゃない奴の方が多いだろ。

 完全に存在そのものが浮いているじゃあないか。


「たーのーむーよー! 仲間になっておーくーれーよー!」

「ええい、うっとおしいッ!!」


 しかしそれでも彼等は止まらない。

 遂には腰にまで抱き着かれ、全力で踏ん張り始めた。

 他の奴等まで俺の腕を掴まえてな。


「今ならなんとメディポットポーションが三個付くよ!」


「要らんッ!!」


「このあと食事もおごるからあっ! この街自慢の食事処に連れてくからあぁあ~!」


「ウッ!?」


「何だったら後で街を紹介するからぁ~~~!!」


「ぐぅ……!」


 しかもこうして次々と譲歩を導き出してくるという。

 俺の困り所を突いてくるとは、こいつら侮り難い。


 なにせ俺は世間の事を全くと言っていいほど知らないからな。

 だからと言って道行く人に尋ねるのも気が引けるもので。

 それを気兼ねなく教えてもらえるというのは確かに助かる。


 それに入ったとしても、気に入らなければ抜ければいい。

 見極めるのはその後でも構わないだろう。


 なら少しだけだ。


 少しだけ力を貸してやってもいい。

 情報料だと思って割り切ってな。


「――全く、仕方ない」


「じゃあ……!?」


「入ってやるよ。ただし正式にじゃあないぞ。気に入らないと思ったら直ぐにでも抜けるからな?」


「おおー! やったぞ皆、新しい仲間がやっと増えたーっ!!」


「「「うぇーい!!」」」


 でも今言った事、本当にわかっているのだろうか?

 自分達の行動次第で俺の行く末が左右されるって事を。


 とはいえ、まぁ体裁はこの際置いておいて。

 〝正義を貫き悪を挫く〟というフレーズにだけは賛同しよう。


 その志を貫き通す実力と意思があるなら、だけどな。



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