第6話 不穏だらけの来訪者

 【商業都市アンカルースト】は円状の壁で外縁を覆った街だ。

 魔物が跋扈ばっこしていた時代、そんな外敵から守る為にと建てられた。

 その脅威も減って不要となった今でも象徴として残されている。


 ただ、そのお陰で中からも外界が見えない。

 つまり外でどんなイタズラしてもバレない、という訳だ。

 だから先の野盗の様な奴等が野放しになっているのかもしれないな。


 とはいえ、もうすぐ日照外よるとなる今の時間帯に外を出歩くのは危険だ。

 外側を調べるのは後日にしておくとしよう。


 なら今日は郭内の壁際でも見て回るとするか。


 そう思い、表通りを抜けて壁際の通りへ。

 すると途端にひと気が無くなり、閑散とした空気が包んでくる。


 見た感じ、人が住んでいる気配さえ無い。

 まるでもぬけの殻、廃村の様な雰囲気だ。

 これならまだ貧民街の方がずっとマシだろう。


 もしかして知らない内に遷都せんとでもしたのか?(※拠点を移すこと)

 そうとしか思えないくらいの寂れ具合じゃないか。


 これなら、ここに賊自体が住んでいたって不思議じゃない。


 なにせ街に入るのもフリーパスだったからな。

 門番の憲兵達も俺を止める事すらしなかった。

 確かに脅威の乏しい今の時代とはいえ、幾ら何でも不用心過ぎないか?


 そうやって色々考えを巡らせ、つい足を止める。

 深く考えてしまうくらいに不可解な事だらけだったからな。


 だがそんな俺の思考は、突如として吹き飛ばされる事となる。




「そこの君、待ちたまえッ!!」




 こんな高らかな大声が背後から響いたのだ。

 まるで周囲の雰囲気をも吹き飛ばさんが如く。


 そこで初めて気配に気づき、咄嗟に踵を返す。

 警戒で身構えさせながら。


 そうして視界に映ったのは、四人ほどの人影シルエットだった。

 しかし表通りとの明暗差で逆光となり、姿がハッキリと見えない。

 ただ、各々が誇らしげにポーズをキメているのだけはわかる。


 なんて自信の現れだ!


 くッ、図られたかッ!!

 気配を殺して近づいて来ていたとは!

 

「君が盗賊狩りで噂のアークィン君だね、フフフ……!」


 しかも丁寧に俺の事まで調べ上げているとはな。

 【ケストルコート】め、守秘義務は無いのか。

 ……確かに大っぴらと遺品を渡した事には違い無いが。


 なんにせよ、脅威ならば排除する。

 街中だろうが関係無し、ひと気が無いなら好都合だ!


「だから待ちたまえと言っただろう? 我々は敵ではないっ!」

「ッ!?」


 ――が、これはどうやら俺の先走りだったらしい。

 周囲の怪しさに呑まれ、警戒心が昂っていた様だ。


 そんな事実に気付いて唖然とする中、一人の影が歩み寄って来る。


 そうして現れたのは騎士の様な人物だった。

 それもまるで少年の様に中性的な顔付きの。


「ハッハッハー! 君の事はもう噂になっているのだよ! あの憲兵でも手を焼く盗賊共をたった一人で倒したというのだからね!」


 にしてもやたら元気な奴だ。

 台詞一つ一つでいちいちポーズをキメる程に。

 それもマントを跳ね上げるくらいにわざとらしい動きでな。


 顔に同じく中性的な声で、それでいてかなりの自信を感じさせる。

 まさに〝にわか騎士〟を彷彿とさせる、わざとらしい口ぶりで。

 もっとも、俺も騎士の口調なんて聞いた事は無いけどな。


 髪は浅い紫で、ショートだが首裏で結っていて。

 そんな尾をひけらかす様に首を捻り、ニヤリと笑う。

 すると頭にツンと伸びた毛塊がピクリと動き、驚きを誘う事に。


 こいつ……俺と同じ、混血だ!


 そう、この人間の姿に獣人の端的特徴。

 それらを併せ持つのが混血の絶対的特徴なのだ。

 こう一目でわかる特徴だからこそ、あの受付嬢もすぐ見抜けた。


 じゃあその同類が俺に一体何用だというのか。


「そこで君に提案だ! 是非ともボク達の仲間にならないか!?」


「……は?」


 でも、その答えは余りにも突拍子の無い事だった。


 確かに、同類なら誘い易いのかもしれない。

 おまけに盗賊狩りという実績があれば力も申し分ないのだろう。


 だ が!


 何故得体の知れない存在を、調べる前に誘えるんだこいつは。

 【ケストルコート】に渡した情報も名前と出身地、あと年齢くらいだぞ。


 し か も わざわざ路地裏で勧誘するか!?


 怪しい。

 怪し過ぎる。

 場所の雰囲気も相まって警戒心が爆上がりだ。


「フフフ、どうやらボク達の事をとても知りたがっている様だねっ!」


 いいえ。違います。


「いいだろう、ならば教えて差し上げようッ!!」


 勝手に話進めるなよ。

 夜になって俺の冷めた表情が見えなくなったのか?


 そんな意図にも気付かぬまま、奴等がいきなり自己紹介を始めた。

 颯爽と俺の前へ躍り出て、再びポージングをキメながら。


 これだけで不穏しか無いよ!

 全く、一体何が始まるっていうんだ……!

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