第5話 アークィンは仲間が欲しい

 野盗の遺品返納で得られた報酬はなかなかに破格だった。

 巷の相場こそわからないが、恐らく一ヵ月は働かずに済むくらいに。


 田舎に籠っていたから金に疎いなどと思うなよ。

 これでも勘定の仕組みも学んだし、村で売買もやっていた。

 いつ旅に出てもいい様にと父からとことん仕込まれたものだ。


 何にせよ、これで先立つモノが出来た。

 なら後はの目的を果たすだけだ。


「まぁだ何か御所望でしょうか~?」


「確かここで仲間を募る事も出来たよな?」


「はぁい出来るよ、ですー!」


 そう、それは旅の仲間を得る事。

 同じ目的を抱き、共に支え合える同志をな。


 それというのも、父はこう言っていたから。

友志奔歩ナウ・トーレシオ。心許せる友を得よ。さすれば一人で出来ぬ事も容易く成せよう。気楽に話しながらの旅は良いぞ、アークィンよ〟と


 良き友という存在に憧れはある。

 しかし何よりも出会いそのものに興味があったんだ。

 この世界にはどんな人達が居るのか、と。


 もしかしたら、その中に俺を必要としてくれる人がいるかもしれないから。


 なにせ今までほとんど人と関わった事が無い。

 おまけに混血で忌み嫌われているから好かれるなんてとても。


 だからこそ、逆に求めてくれる人には全力を尽くしたいとも思う。

 そんな願望が昔から俺の中にあってね。


 幸い、この【ケストルコート】はそもそもがパーティ斡旋所だ。

 人を集めて一般人ではこなせない仕事を成し遂げるといった感じの。


 なので、もしかしたら俺を求めてくれる人が見つかるかもしれない。

 そんな細やかな期待があったんだ。


「これが今のパーティ参加希望者一覧、ですー!」


「ありがとう。どれどれ――」


 世界は広い。

 あの父でさえ語り尽くせない程に。

 それだけ広いから、きっと多様な人達がいる事だろう。


『1.タロン=スタロン

 木を切るのが得意です。

 木彫り細工に自信があります』


 そうか、なら是非とも木を切っててくれ。


『2.ミーラ=ロロ

 猫の鳴き真似が上手って言われます。

 咆える事が取り柄の犬獣人です。よろしく』


 同族の鳴き声が上手って言われる様になるといいな。


『3.ギュイ=テオ=ウルーラ

 剣に自信がありました。

 けど最近友人に勝てません。どうしたらいいですか?』


 知らん。俺が教えて欲しいくらいだ。


『4.ガンドン

 おかねがほしい』

 

 うん、皆欲しいと思うよ。


 ……ロクな奴がいねぇーーー!!

 紹介文からして全部地裂魔法じらいじゃねぇかァァァ!!!


 というかこれ全員一般人だよね?

 どう見ても旅しないよね!?


 なのに一体どんなパーティに入れて貰うつもりなんだお前達は……!


「そんな不満そうな顔しても無駄、ですー! 今度は冷遇してねぇよ、ですー! お客様の実力は先程証明しただろ、ですー!」


 わかってるって、嘘じゃないって事くらいは。

 だからって調子に乗らないでくれよ受付嬢。


 怒った顔が面白くて堪えるのが大変なんだから。


「最近人手不足で応募も減った、ですー……」


 と思っていたら今度は途端に落ち込み始めた。

 何かと込み入った事情がありそうだ。


 人手不足、か。

 それで水路も掃除されず、バザールも人が少なかったのか。

 活気があった頃の人々は一体どこへ行ったのやら。


 ――もしかしたら、何か良くない事が起きてるのかもしれないな。


「元気出せよ。あともう繕わなくていいから」


「汚い手で触るんじゃねぇこの雑種がッ!!」


「変わり過ぎじゃない?」


 にしてもやっぱりこの娘の顔芸、楽しいわ。

 ここまで話した事が滅多に無かった身だから、なんか愛着湧きそう。


 とはいえこのまま遊んでいても仕方がないし、もう行くとするか。

 名残惜しいが、仕事の邪魔をし続ける訳にもいかないしな。


 そんな訳で【ケストルコート】を後にする。

 見下した目による見送りの中で。


 ただ、行き先はまだ決まっていない。

 これからどうするのかも。

 元々気の向くまま風の向くままに旅するつもりだったし。

 なのでひとまず宿にでも泊まって今後の計画でも練るとするか。


 例えば、この街の活気を失った理由ワケを探る、とかな。


 正直に言えば、この街の状況は異常だ。

 バザールの人の少なさもそうだが、そもそも街が機能していない。

 いきなり水路掃除が出来なくなる程に人が減るなんてありえないだろう。


 他にも、街をよく観察してみれば異様さが際立ってくる。

 昼間にも拘らず飲んだくれが多いのだ。

 路上で瓶を掲げ飲んだり、酔って眠りこけている者もいるくらいに。

 これではとても人手不足とは思えない。


 となると、働きたくなくなる理由が何かあるのかもしれないな。


 俺の旅の目的はそこらに転がっているモノを探す事じゃあない。

 ならこういった問題に目を向ける時間は充分あるだろう。


 ではせっかくなので足も突っ込まさせてもらうとしようか。

 あの父ならきっとそうするだろうから。




 それで俺は【ケストルコート】を出た後、少し街を散策する事にした。

 少しでも何か掴める事が無いかと探りを入れる為に。

 宿に行くのはその後でもいいと思って。


 でもこの時、俺は気付かなかったんだ。

 背後から怪しい人影らが迫っていた事に。


 そしてそいつらは他でもない――俺自身を狙っていたという事にも。

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