第42話 本当に変身?
「赤穂くん、赤穂くん」
声を掛けられて、うっすらと士郎は意識を取り戻した。
もう朝か? そんな間抜けなことを思って目を開くと、そこに葵ちゃんの顔がアップであった。しかも上下逆。
「え?」
慌てて周囲を見回す。
あたりは闇に包まれた地下空洞。天井だけはコンクリートで、鉄の配管が走っている。団地の床下だ。ここはおそらく団地の地下に掘られた土蜘蛛の巨大な巣の中。どうやら士郎と葵は土蜘蛛につかまり、奴らの糸で縛られて動けなくなっているらしい。
しかも、士郎は天井から逆さづりにされていた。
「よくその体勢で、ぐっすり寝てられましたね」変なところに感心する葵ちゃん。「頭に血が上りませんか?」
「いや、平気。おかげで目が覚めたから」
「ここは一体、どこなんですか?」
怯えた目で周囲を見回す葵ちゃん。無理もない。まさか妖怪につかまって、その巣に囚われているとは思うまい。しばらく本当のことは黙っといた方がいいだろう。
「ごめん、すぐ助けるから」
士郎は身じろぎするが、手が拘束されていて身動き取れない。
やばいな、とちょっと心の中で焦っていると、遠くで桃色の閃光がぽっとあがる。
あづちだ。剣豪チェンジしたらしい。なんだろう? タイミングが早くないか?
が、その向こうに蠢く赤い光点の壁に気づいて、士郎は息をのむ。
闇の中、壁といわず床といわず、赤い光点の群れが津波のように押し寄せてきている。土蜘蛛どもだ。100匹以上いるんじゃないか。あの数をあづち一人で相手にするのは無理。すぐに助けに行かないと。が、逆さづりの上に、手足が完全に拘束されていて手がポケットの中のツバチェンジャーにとどかない。
「くっそ。やべえ」
士郎が空中でジタバタしていると、ふいに耳元で声がする。
「なにやってるんですか、赤穂さん」
背の低い眼鏡女子。キナ子だった。
「桃山さんがピンチなんで、とっとに助けに行きますよ」
「分かってるけど」
ジタバタする士郎の身体の糸を、脇差を抜いたキナ子がさくさくっと切り裂く。
「わぷっ」と地面に落ちる士郎。
その間に葵ちゃんの糸も切ったキナ子は、脇差を渡して告げる。「三津葉さん、この刀は特別製で妖怪の糸を切ることが出来ます。周囲にいる他の人たちの糸を切って、みなさんを助けてあげてください」
「はい。あ、え、でも……。あの、妖怪って……」
「そっちは心配ねえよ。俺たちでなんとかするから。って言っても、あの数は厄介だがな」
士郎はキナ子とアイコンタクト。
二人してばっと突き出した手に握られているのは、ツバチェンジャー。
「士魂注入!」二人の声がそろった。
ぐいっと一度拳を引きつけて、ふたたび突き出す士郎。
一方、いったんがばっと身をかがめて、一気に立ち上がり拳で天を衝くキナ子のモーションは、宇宙刑事の蒸着ポーズ。
「剣豪チェンジ!」
別モーションの二人の決めがばっちりシンクロする。赤い炎と黄色い稲妻が交錯し、レッドとイエローの剣豪戦士が出現した。
「ええっ!」葵ちゃんがもの凄い驚いた声をあげるが、まあそりゃそうだろう。「本当に変身するのっ!?」
ふふふっ。
マスクの中でニヒルに笑う士郎と、当然だとばかりに親指を立てるキナ子。そして、一度は言ってみたかったに違いないセリフを吐くイエロージンスケ。
「ここは任せて、君は人質のみんなを助けてくれ」
捨て台詞を残して走り去るキナ子。
「葵ちゃん、頼むぜ」
一応ひとこと伝えておいて、士郎もあとを追う。
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