第16話 三度、ムサシ


 打ち下ろされる二メートル以上の大剣。下から抜き打ち、逆袈裟に斬り上げるイエロージンスケの細身の大太刀。

 刃がぶち当たり、ジンスケの片手抜き打ちが、見事に蟹坊主の長大な大剣を受け止めた。

「止めやがった……」

 しかも片手斬りで。

 さらに、

「え?」

 蟹坊主の膝が砕けていた。


 腰が折れ、じりじりとジンスケの刃に押されて大剣が横に逸らされている。がっちりとかみ合った二刀が巡り、蟹坊主の体勢が崩れる。


 斬り上げた太刀筋のまま蟹坊主を崩すイエロージンスケの足元に、膝撃ちの姿勢でピンクガラシャが飛び込んでくる。

「ガラシャ・ガーランド! マグナム・モード!」


 爆炎のようなマズル・ファイアがフロアを赤く染める。ガン! ガン! と腹に響く衝撃波をともなって撃ちだされる深紅の光弾がつぎづきと、蟹坊主の腹に突き刺さる。柔らかい甲殻が裂け、穴が穿たれてゆく。


「いくぞ、ムサシ」横で立ち上がったブラックジュウベエが、青く染まった血刀を手に走り出した。


「剣豪ぅ奥義っ! 烈風嵐斬っ!」裏返った声で絶叫しジュウベエがしゃに構えて突進する。


 ジンスケが大太刀を振り抜き、『阿鼻鋏鉗丸』が蟹坊主の鋏から離れて、吹き飛ばされる。ピンクガラシャがガーランドを縦に回しながら後方宙返りで離脱し、距離を取ると同時に、ジュウベエの剣豪奥義が蟹坊主の前を走り抜け、砕かれた甲殻を大きく切り裂く。


「ムサシ! 支えて!」

 三度、おれか!と思うが、すでにガラシャはガーランドのレバーを引いて、モードを切り替えてしまっている。ここでタイミングを外すのは、ゲーマーのプライドが許さない。低空ジャンプでとびこんだ士郎は、ピンクガラシャの背後にまわって背中を支えた。


「カラミティー・ブレイク!」

 大砲をぶっ放したような衝撃と、ダイナマイトを破裂させたような濃密な音波が建物を震わせる。強烈なキックバックをくらい、弾性衝突の要領でガラシャの背中に吹き飛ばされたレッドムサシは、後ろに転げて尻もちをついた。


 カラミティー・ブレイクの直撃をうけ、殻と身と蟹味噌を撒き散らして爆散する妖怪蟹坊主。

 その爆炎を背に、ピンクガラシャは、機関部のベンチレーターを全開。湯気を吐いて放熱を行うガラシャ・ガーランドを肩に担いだ。


「ムサシ、グッジョブよ」

「はいはい」ケツを払って立ち上がるレッドムサシ。

 爆炎のそばでは、カッコつけて血ぶるいし、大げさな動作で納刀しているブラックジュウベエがシルエットになっている。


 ふと横を見ると、片膝ついたイエロージンスケは、大太刀の柄を腰に当て、鞘の鯉口をつかんだ左手指で刀身の峯を挟んだ、居合の納刀の形をとっている。敵が生きているようなら、そこから槍のように大太刀を突き出して攻撃する体勢なのだが、蟹坊主が吹き飛んだので、ちょっとだけ残心をとって、ひょいと身を翻す。


 たったそれだけで、三尺三寸の刃が鞘に納まってしまう。朝の形稽古そのままの、納刀の形だった。

「あのさ」レッドムサシは撤収に入ろうとするメンバーたちを見回す。「おれ、いいとこなしじゃない?」

「そんなことないわよ」ガーランドを亜空間に収納したガラシャが、スーツの肘や膝の汚れを丁寧に払いながら言う。「逆に大活躍だったじゃない」


「ああ、さすがはレッドムサシ」腕組みしたブラックジュウベエが偉そうに言う。「さすがは、剣豪戦隊のレッドといえよう」

「ほら、相棒もああ言ってるじゃない」ガラシャがムサシの肩をぽんと叩く。


 レッドムサシは叫んだ。

「いや、相棒じゃねえし! 相棒って言うな!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る