第12話 おいっ、運営!


 士郎はこの小説は知らないが、まあ、題名が『柳生連也斎』なのだから、普通に考えて答えはAの「柳生連也斎の勝ち」だろう。Bは敵役だから負け。Cの「どちらとも言えない」は、いくら何でもないから、あとはもしかしてDの「引き分け」とかか?

 が、ジュウベエが選択した答えはCの「どちらとも言えない」。は? それはないだろう?

「おいっ!」

 レッドムサシの突っ込みに対して、ブラックジュウベエこと黒田武史は偉そうに解説を与えてくる。

「この『柳生連也斎』という小説は、最後の斬り合いでどちらかが死んだという描写で終了するのだが、どっちが死んだのかというはっきりした記述がない。つまり、Cの『どちらとも言えない』が正解なんだ」


『不正解! 解答権が井出ちゃんさんに移ります』


「おいっ! ジュウベエ! そして、おいっ! 運営! 井出ちゃんさんってなんだ。井出萌香だよ」

 士郎が突っ込むが、黒田は刑事ドラマの俳優みたいな低い声で「なにっ?」と嗚咽している。

 井出ちゃんがAを選択した。


『正解!』


「どういうことだ!」ブラックジュウベエはゲーム画面を指さし、「この機械は間違っているぞ!」と叫んだ。

 が、それに答えたのは、井出ちゃん。

「ブラックジュウベエさんとやら」井出ちゃんはにんまりと勝ち誇った笑顔で、ジュウベエのことを指さしている。「あなた、読み込みが足らないわね。たしかに『柳生連也斎』のラストの真剣試合の描写には、勝者がどちらかという記述はないわ。しかーし! 真剣試合の勝者に関する記述は、物語のなんと冒頭にちゃんと書かれているのよ!」

「な、なんだと!」黒いメットの中で呻く黒田の小さなつぶやきが、イアフォンを通して士郎の耳にもとどく。「帰って、さっそく読み直さねば……」

 とりあえず黒田。いまは帰ったあとのことを考えるより、目前の敵に集中しような。いま俺ら、妖怪に到達する手前の、催眠術かなにかで操られてる井出ちゃんたちに苦戦している段階だからさ。

「でも、これで、二対二。イーブンだわ」ピンクガラシャが低く囁く。「さすが井出さん。時代小説にまで手を出しているとは、中々手強いわね。次で取られると、あたしたちの負けよ」

「おし、みんな、集中していこう。流れを引き戻すぞ」士郎は左右のメンバーに檄を飛ばした。

「ジャンル・セレクトで『特撮』が来たら、必ずあたしが取ります」

 イエロージンスケが気合を込めて宣言するが、ジャンルの選択権は敵チーム。絶対に『特撮』は来ねーよ。

 相手チームの動向を観察していると、陽介と航平が話し合って、ジャンルを決めたようだ。こちらの画面にも、あいつらが選択したジャンルが表示される。

 『ゲーム』。

 来たか、小童こわっぱども。受けて立とうじゃないか。士郎は見えないところで、赤いグラブに包まれた拳をぎゅっと握りしめた。




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