エピソード9『堅牢! 甲殻の僧侶 後編』

第11話 柳生もの


「よし、このまま一気に行きましょう」ジンスケが調子に乗ってジャンル・セレクトしようと指を伸ばすが、黄色いグラブに包まれた人差し指が画面の上を彷徨さまよう。「あれ、赤穂くん、『特撮』がないんですけど」

 なんかクレームみたいに言われてちょっと士郎はむっとしたが、説明してやる。

「ジャンルはランダムだ。特撮が毎回でるわけじゃない。『科学』もすでに二回でてるから、表示されてないみたいだな。なにかこっちに有利そうなの選べよ」

「ええー」心底がっかりしたみたいな声をあげて、一気にやる気をなくすイエロージンスケ。おまえは子供か。こういうところは、母親の杏さんに似ている。どうやら精神年齢で母が抜かされることはなさそうだ。

 ちょっとは考えたのか、完全に投げやりなのか、とにかくイエロージンスケは『文学』を選択した。ほぼランダム・セレクトに近い。


『第四問は、「四択問題」だよ。それでは行くよ! 第四問!』


 アニメーションがちょっとだけ入り、問題が表示される。


『五味康佑の時代小説「柳生連也斎れんやさい」の中で──』


 解答ボタンのうえに、ブラックジュウベエが手を乗せた。

 そうか! 黒田のやつは柳生ネタなら詳しいはず。きっと柳生とつく時代小説は読み込んでいるにちがいない。この小説も知っているのかもしれない。

 が、相手チームでは、井出ちゃんが同じく右手を解答ボタンの上に伸ばしてきている。

 いかん。井出ちゃんといえば、いまは生徒会長だが、去年までは文芸部のエース、不動のセンターと呼ばれていた文学少女だ。ただし、文芸部はその当時部員は三人しかいなかったから、かろうじてセンター・ポジションが可能な状態というレベルだったが。


『──物語最後の、柳生連也斎と鈴木綱四郎の真剣勝負。結果はどうなった? A柳生連也斎の勝ち B鈴木綱四郎の勝ち Cどちらとも言えない D引き分け』


 ブラックジュウベエと井出ちゃんが、ほぼ同時にボタンを押す。どっちが、解答権を得た?


『ブラックジュウベエさんが解答します』


 よし! 士郎は小さくガッツポーズを取る。この問題をとれば、クイズ合戦はブゲイジャー・チームの勝ちが決まる。

 ほっと肩を撫でおろしながら、ジュウベエの解答選択を見守る。



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