第6話 妖怪法師


 中は暗いが、ブゲイスーツの暗視機能が働いて、視界は良好。

 大型のユーフォ―キャッチャーの間を抜けて、油断なく奥へ進むが、妖怪はもとより、ヒトガタの姿ひとつ見えない。

「赤穂くん、そっちはどう?」イアフォンごしに桃山あづち、すなわちピンクガラシャの声が響く。

「誰もいない。妖怪サーチャーにも反応がないな」

「こっちもだわ。ひとまず合流しましょう。そのうえで二階に上がってみましょうか」

「賛成だ。中央に長椅子が並んだエリアがあるから、そこで合流しよう」


 レッドムサシとブラックジュウベエは、フロアの中央でピンクガラシャ、イエロージンスケと合流する。

「入り口にヒトガタが一体いた。他にはヒトガタはもちろん、人質の姿すらないぜ」

 ムサシの言葉に、ピンクガラシャがうなずく。

「やはり、二階ってことね。なにやら上の階をいかにもな城砦に改造しちゃってるみたいだし」

「なんで、上の階だけ、改造しちゃったんでしょうか?」イエロージンスケが首を傾げる。

「さあ」ガラシャは興味なさげに肩をすくめる。「高いところが好きなんじゃないの?」

「とにかく人質がいるかどうかだけでも確認しよう」ブラックジュウベエが珍しく建設的な意見をだす。

「同感だ。上に行ってみよう」ムサシは他の三人を促して駆け出した。


 二階フロアは主に対戦型の小型筐体が多い。奥の方には背の高いスロットマシーンが壁のように設置されて視界が悪いが、それでも一階にくらべて周囲は見渡しやすかった。ここも照明が消され、薄暗く、ただし小型筐体のいくつかは動いているようで、青白い画面の光が壁や天井をちかちかと照らしていた。

 士郎たちが慎重に歩を進めていると、奥のスロットマシーンの壁の間に、彫像のように立ち尽くす影が見えてきた。

 黒い法衣をまとった禿頭の男。背が高く、体格もいいが、顔貌は岩のように険しい。なぜか右手を背中に回して隠している。彼は、異様な光を放つ両眼で、士郎たちブゲイジャーを迎えた。

「これはこれは、剣豪戦隊のみなさま。拙僧はカイチュウと申すもの。カイチュウ法師とお見知りおき下されい。此度こたびは、みなさまお揃いで、わが寺子屋によくぞお越しになられた」

「寺子屋? 寺子屋といったか?」先頭を行く士郎ことレッドムサシは立ち止まった。

 このカイチュウと名乗る僧。あきらかに妖怪だ。が、人間の形に変化へんげした妖怪は、妖怪サーチャーに反応しづらい。いまも士郎のバイザーの裏側には、解析不能を意味するエラーコードが表示されている。

「はい、いかにも寺子屋」いんぎんな口調でカイチュウ法師は一礼する。「ここはもともとは風紀を乱す遊技場でございましたが、拙僧が子供たちに勉学を教授いたす寺子屋へと作り変えました次第」

「ここにいた子供たちはどうした?」ムサシは刀の柄に手をかけてたずねた。「帰してやったのか?」

「いいえ」大仰にカイチュウ法師は首を振る。「奥で、勉学に勤しんでおりまする」

「まず子供たちを返してもらう。そしてここは、お前の寺じゃないんで、出て行ってもらう。嫌だってんなら、力づくでいくぜ!」

 レッドムサシは飛び出そうとしたが、カイチュウ法師は動じず、「では」と声を張った。

「こういたしましょうか」妖怪法師は、は不敵に笑う。「拙僧の教え子たちと、知恵比べをして、剣豪戦隊の皆様が勝ちを得たなら、この場所の寺子屋は引き払うといたします」

「お前が勝ったら?」

「この場所はこのまま寺子屋とし、教え子たちもそのままここに残るということで」

 望むところだ、やってやるぜ! と言い返したかったが、勝負の内容が知恵比べと聞いて、士郎はちょっと腰が引けた感じで横のあづち姫を振り返った。彼女は一も二もなく肯定の意味でうなずく。知恵比べ、どんと来いということらしい。

「よかろう。やってやるぜ!」ちょっと他人任せな気合をこめて、士郎は叫んだ。

「ほっほっほっ」公家みたいな笑声をあげて、カイチュウ法師は左腕をずらりと並んだゲーム筐体の方へ伸ばす。「では、勝負はこちらのクイズゲームで」

「ク、クイズゲームなの!?」

 士郎の隣で、ピンクガラシャが素っ頓狂な声をあげた。

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