34 鑑定

 バザロフ司教に乗せられた馬車の中で気まずい雰囲気に耐えることしばらく、馬車は神殿本部に到着した。


 道中、どうにか逃げ出せないかと窺っていたけれど、前回と同じ失敗はしないとでも言うようにバザロフ司教に隙は全く見当たらず、会話も全く無かった。


(流石に前回みたいには行かないよね……。エルだって私がいないってまだ気付いていないだろうし)


 あの時はエルの飛竜に馬が驚いたから隙が出来たけれど、この王都の真ん中で飛竜が飛んできたらパニックになってしまう。


 神殿本部の玄関の前で馬車が停車すると、私達を待っていたのだろう、修道士が馬車の扉を開ける。

 本来であれば目上のバザロフ司教が先に降りるけれど、私を逃さない為なのか先に私に降りるようにと目配せされた。


 バザロフ司教に促されて渋々馬車から降りると、修道士が「どうぞこちらへ」と言って私を建物の中へ誘導する。


 ちなみに神殿本部は様々な業務を行う本館の他に、大神殿と小神殿や司教館など、幾つかの建物が広大な土地の中に建てられているらしい。


(お爺ちゃんがいる貴賓室ってどこに有るんだろう?)


 前回来た時は門前払いだったので、何処に何が有るのか全くわからない。

 玄関から建物の中に入ると、とても豪華な広間が目に入る。王宮ほどではないけれど、それでも着飾った貴族達が談笑していても遜色がないぐらい豪華だ。


(建物にこんなお金を掛けなくても……。その分地方の神殿や孤児院に分配してくれたら良いのに)


 まるで自分達の権力を見せつけるように建てられた本館に、清貧の思想は何処へ行ったと責任者に聞いてみたい。


 高そうな絨毯が敷かれている廊下を進みながら、幾つかの角を曲がっている内に玄関の場所が何処だったか分からなくなってきた。

 自分は方向音痴ではない筈だけれど、こんなにくねくねと曲がられると方向感覚が狂いそうだ。


(万が一の時のために脱出口は何処に有るか知っておきたかったのに……)


 お爺ちゃんがいる場所は結構奥の方にあるのかな、と考えていると、前を歩いていた修道士が足を止めた。


「こちらは小神殿です。粗相の無いようにお気をつけ下さい」


 修道士がそう言って目の前にある重厚な扉を開くと、祭壇の前に複数の人が立っていた。

 その人達は赤のストラを首から掛けていて、全員が司教なのだと理解する。

 そして司教達の中に見覚えのある人を見つけて思わず「あっ」と声を上げてしまう。


(ツルッとした司教だ! なんかめっちゃ睨まれているんだけど!)


 それにしてもこんなに司教が集まって何しているんだろう? ……っていうか、お爺ちゃんに会いに来た筈なのに肝心のお爺ちゃんが見当たらない。


「──神の栄光が御身を照らしますよう、司教の皆様方にご挨拶申し上げます」


 だけど、とりあえず司教達の前だし、と思い直して失礼のないように挨拶する。


 司教達が会釈で私に挨拶を返すと、後ろにいたバザロフ司教が「さあ、前へどうぞ」と言って私を司教達が待つ祭壇の前まで行くように促した。


「あの、おじ……司祭様は何処ですか? 会わせていただけるんですよね?」


 神殿本部なのだから沢山の聖職者がいるのはわかるけれど、どうして小神殿に司教が集まっているのかがわからない。なにかの祭事でも執り行うのだろうか?


「ソリヤの司祭は現在貴賓室に滞在していましてね。その貴賓室は大神殿にあるのです。貴女が叙階を受け正式な巫女となれば大神殿へ会いに行けますが……」


「えっ!? 私が巫女に? でもそれって……!」


 簡単に会わせてくれないだろうとは思っていたけれど、まさか巫女にならないとお爺ちゃんに会わせない、なんて言うとは思わなかった。


「司祭は大司祭様の庇護を受けていると言ったでしょう? 巫女ならともかく、ただの巫女見習いを大司祭様に会わせる訳にはいかないのですよ」


「巫女になる事が条件だなんて聞いてません! バザロフ司教様が大司教様に取り次いで下さると仰ったじゃないですか!」


「本来であれば面会は不可能なのですよ? 私からのお願いだけでは大司教様も許可を下さらないでしょう。不可能な事を可能にするためには貴女にも協力して貰わないとねぇ」


 バザロフ司教が申し訳無さそうな表情を浮かべるけれど、始めから私を巫女にするつもりでここに連れて来たに違いない。


(くっそー! 私が何を言ってものらりくらりと躱すつもりだな!)


 私が悔しく思っていると、司教の一人がバザロフ司教に声を掛けた。


「叙階を行う前にこの娘の魔力属性は調べたのか?」


「確かに。属性によっては考えを改めねばならんな」


 司教その一の質問に司教その二が同意した。すると司教その三が「ならば私が鑑定しよう」と申し出た。


(そうか、司教クラスになると<鑑定>のスキル持ちがいるんだっけ。じゃあ、ついに私の属性が明らかに……!)


 以前エルに私の属性を聞かれてから、属性について考える事が増えたのだ。

 髪の毛が赤いから火属性かな、とか目の色が緑だから風属性かなーなんて。

 実際その人が持つ色と属性は全然関係ないけれど。


 ……エルなんて闇属性なのにキンキラだし。


 司教その三が<鑑定>のスキルで私を視るのを内心ドキドキしながら待つ。


 <鑑定>が終わったらしき司教その三の言葉を待っていたけれど、司教その三が発した言葉は期待したものではなく。


「……? どうなっている……? <鑑定>出来んぞ?」


(ええ!? <鑑定>出来ないってどう言う事!?)


 司教その三の鑑定結果に驚いた他の司教達が「では、ワシも視てみよう」「ならば私も」とそれぞれ私を<鑑定>しだした。


 何人もの司教がこちらを凝視してきてめちゃくちゃ怖い。何だこの状況。


「……うぅむ。ワシにも視えんな」


「私も属性が視えませんね。魔力は常人並みにあるようですが」


「自分の<解析>でもわかりません」


「一体どうなっている? まさか無属性ではあるまいて」


「無属性の人間なんて初めて見ましたよ」


 司教達が私を<鑑定>や<解析>したけれど、結局属性はわからないようだった。


(そんな……! 私って属性が無いの……?)


 私は残念な結果にショックを受ける。今は魔道具が発達しているから生活に支障はないけれど、一度でいいから<ファイアーボール>とか使ってみたかった……。


「随分と騒がしい。何事ですか」


 司教達が属性について話し合っていると、小神殿中に凛とした声が響いた。

 その声を聞いた司教達はピタッと話すのを止めると、声の主に向かってサッと礼を執る。


「これはトルスティ大司教様、わざわざ小神殿までお越しになられるとは。もう少しお待ちいただければこちらからお伺いしましたのに」


 バザロフ司教がトルスティ大司教様と呼んだ人物は、白地に金糸で細かい模様が刺繍された法衣に純白のストラを身に着けており、ここにいる司教の誰よりも若く見えた。

 だけど持っている雰囲気は反対で、若い見た目にそぐわず威厳があり、一体何歳なのか興味本位で聞いてみたい……気がする。怖いから聞かないけれど。


「彼の方が大切に育てた聖宝を早く拝見したくてね」


 どうやら大司教とやらはこの小神殿にあるお宝を見学に来たらしい。だけど私が見る限り、そんな高価なものはなさそうだ。


「……この少女ですね。なるほど、これは美しい。ですが何やら不思議な魔力を纏っていますね」


(え? 私? 美しいなんて初めて言われたよ……)


 正直褒められて嬉しかったのは内緒だ。だけどその後の言葉に「ん?」となる。不思議な魔力ってどう不思議なんだろう。



 * * * * * *



お読みいただき有難うございました!( ´ ▽ ` )ノ


拙作にお☆様、♡やコメント本当に有難うございます!

次回もどうぞよろしくです!

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