第17話 理由
「──サラッ!!」
「テオ!? どうして──!?」
盗賊に拐われて拉致されている私の元へ、テオが慌てて駆け込んできた。
(もしかして私がいない事に気づいて探しに来てくれた……?)
テオが孤児院の異変に気付いてくれたのなら、きっと街の憲兵団にも連絡を入れてくれるはずだと考えた私はほっと胸を撫で下ろす。
(今までテオに冷たくしちゃって悪かったな……。これからはもうちょっとだけ優しく接しよう)
それに盗賊達のアジトまで危険を承知で来たくれたのだ。エルにはテオに近づくなと言われていたけれど、恩人にはそれなりに敬意を表さねば! と思っていた私の思考はテオの言葉によって霧散する。
「おいおい、何だよこの状態は!! サラは丁寧に扱えって言っただろ!!」
「──え……?」
(まさか、テオが誘拐の依頼人……? でもどうして子供達まで……)
テオの剣幕に子分達はお互いを見渡し、「でもなぁ……」「そう言われてもな……」とお互い小声で文句を言っている。
そしてお頭の方はそんなテオを見て「……はあ」とため息をついている。
「テオバルト様、ここにお越しにならないよう注意しましたよね? 許可した者しか入れない結界とは言え、勝手をされたら困ります」
「……っ、でも俺、サラが心配で……!」
お頭がテオに向かってきつい視線を投げると、反論しながらも声は尻すぼみになっていく。お頭の威圧にビビっているらしい。
(怒られるのが怖いなら言い付けをちゃんと守ればいいのに……全く、テオは成長しないなあ)
身体や態度は大きいくせに基本小心者だから困る。それに私を心配って言うけれど、そもそもの元凶はテオだろう。
「彼女には何もしていません。部下達にも指一本触れさせていませんよ」
お頭の言葉に、子分達は一斉にコクコクと頷いた。確かに私は指一本も触れられていない。私を拘束したのもきっとお頭なのだろう。
「……あ、ああ。それなら良いんだ」
盗賊達の様子に安心したテオが私の方へ顔を向けると、嬉しそうに近寄ってきたので、この状況はどういう事なのか説明して貰う事にする。
正直私の腸は煮えくり返っているけれど、何とか落ち着いた声を出そうと試みる。
「……テオ、これは一体どういう事かな……っ????」
言葉に出した瞬間、怒りも漏れてしまったのか、思わず声が上擦ってしまう。私がギロリと睨みつけると、テオが慌てて言い訳を開始した。
「……っ、だ、だってよぉ、サラは俺に冷たいし、誘いも全然乗ってくれないし……。だから孤児院への援助資金を親父に頼んで止めて貰ったんだ。実際孤児院の経営苦しかっただろ? そうなれば俺のところに相談しに来てくれるかなって」
テオの話を聞いた私は絶句する。孤児院への援助金を止めていた……? 私がテオの相手をしなかったから? って、馬鹿じゃないのかコイツはっ!!
「この馬鹿ッ!! 私に相手されないなんてつまらない理由で子供達を巻き込むな!! どれだけあの子達が我慢してくれたと思っているのよ!! 私に文句があるなら直接言いに来なさいよ!!」
私の反論にテオが慌てふためいている。何時もは潔く引くのに、今の状況が後押ししているのか生意気にも言い返して来る。
「だ、だからサラをお茶に誘ったじゃねーか!! なのに何時もサラが断るからっ!!」
「あんたが何時もいきなり来るからでしょうが!! こっちは予定が詰まってるんだから、前もって言ってくれないと駄目に決まってるじゃない!!」
私の言葉にテオはポカンとすると、おずおずと窺うように聞いてきた。
「……じゃあ、俺がちゃんと手順を踏んで誘ってたら乗ってくれたのか……?」
「用事がなければね。一回ぐらいなら話を聞いたよ」
「じゃ、じゃあ俺が交際を申し込んだら受けて「それは無理」──って、おい!」
私とテオが言い合いをしていると、横から「クッ」と笑いを噛み殺したような声がしたので、テオと同時にそちらを見るとお頭が肩を震わせて笑っていた。
そんなお頭の様子が珍しかったのか、子分達はポカーンと口を開けて驚いている。
「テオバルト様の負けですよ。俺は彼女の言い分の方が正しいと思いますがね。……しかし、こんな状況なのに泣きもせず怒鳴り散らすとは……。可憐な見た目とは違い随分肝が座っている。契約が無ければ自分のモノにしたのに……残念です」
お頭の言葉に、子分達がザワザワと騒ぎ出す。さっきからやたらと驚いているけれど、お頭の反応が珍しいのかもしれない。
「そ、そうだ! 俺が契約して依頼した女なんだからな!! 変な気を起こすなよ!!」
テオが依頼主なのに、お頭のほうが随分上の立場のような気がしてくる。この人なんで盗賊なんてやってるんだろ?
「ちょっと、テオ! 依頼って何を依頼したのよ!! なんで子供達まで巻き込むの!? 私だけでいいじゃない!! 子供達はもう開放してあげて!!」
私のお願いにテオは一瞬たじろいたけれど、ギリッと歯を食いしばると大声で叫んだ。
「駄目だっ!! ガキ共がいるからサラは俺を蔑ろにするんだっ!! ガキ共がいなければサラは俺を見てくれるだろ!? なぁ?」
……何いってんだコイツ。
テオの言い分に呆れを通り越して腹が立ってきた。
私がテオの相手をしないのは子供達がいるからとか関係なく、テオ自身が問題ありありだからだ。もしテオが真面目で優しくて困っている私を助けてくれるような、そんな人だったら──……。
──そこまで考えた私は、綺麗で優しい悪魔の顔を思い出す。
エルは悪魔なのに、私に手を差し伸べてくれた……それが情報を渡すという取引だったとしても、私がエルに救われたのは間違いないのだ。
(それにエルは孤児院に何が必要か考えて贈り物をしてくれた。ちゃんと子供達を大切にしてくれている……!! 気に入らないからって子供達を排除するような奴とは大違いだ!!)
「自分の不出来を子供達のせいにしないで!! 自分の事しか考えない人間を誰が好きになるのよ!! 私がテオに靡く事は絶対に無いから!!」
私が断言すると、テオの顔が真っ青になる。それからプルプルと震えだしたかと思うと、今度は顔を真っ赤にして怒り出す。
「お、お前! 俺にそんな事を言ってタダで済むと思っているのか!? 子供達をどうするかは俺が決められるんだぞ!! 謝るなら今の内だっ!! 謝って、俺を好きだと言ったらさっきの言葉は聞かなかった事にしてやる!!」
「……っ!」
やはりテオは子供達を盾に利用するつもりのようだ。実際、今この場面で主導権を握っているのはテオだろう。だからもし私がテオの事を好きだと言って交渉すれば、子供達は解放して貰えるかもしれない。
(どうする……? テオの事は全くこれっぽっちも好きじゃないけれど、言うだけなら大丈夫なのかな……?)
私は頭の中でぐるぐると考える。子供達が無事ならテオに好きだと言うぐらいお安いご用だ。まっったく気持ちは籠もっていないけれど。でも、何かが引っかかる。
だだ私に好かれるためだけにテオはこんな大掛かりな事をしでかしたのだろうか。それって常識的に考えて逆効果だと思うけど。
それに子供達を拐った事実をどうするのか。もしかして示談で無かった事にするつもりかな。
いまいちテオが何をしたいのか分からない私は困惑する。テオの真意が見えない今、下手な事を言うのは憚れる。
法国には言葉にした文言を正式な契約書に刻み込み、相手を縛る魔法具がある。そんな物をテオが持っていたら私は契約によって強制的にテオを好きになるのだ。それは非常に嫌だ。
私が言い淀んでいると、テオが「チッ!」と舌打ちをした後、私に向かって言った。
「サラの意思で俺を好きになって貰いたかったけど……残念だよ。まあ、サラは頑固だしな。そこが可愛いけど今は素直になってくれないと困るから、サラが素直になるようにちょっと精神に干渉して貰う事にするよ」
──精神干渉……!? それって─……!
「このお頭は闇属性魔法の使い手なんだぜ。人間の潜在意識に働きかけて思うように操れるんだってよ! すげぇよなぁ!! なぁ?」
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