第18話 闇魔法
テオが放った言葉に驚愕する。
(闇魔法で私の精神に干渉……? そう言えば襲われた時、頭を掴まれた途端視界が暗くなったけど、あれはお頭の闇魔法だったんだ……!)
驚きで絶句している私にテオは更に話し続ける。
「本当はガキ共だけ拐うつもりだったのに、サラが全然ガキ共の側から離れないから、計画を変更する羽目になったんだぞ!」
テオの話では、私が街へ出掛けている間に子供達を連れ去るつもりだったのに、ずっと孤児院から出てこないから仕方なく私ごと拐ったらしい。なんて大雑把なんだと呆れてしまう。
でも、私がいつも通り孤児院を不在にしていたら、まんまと子供達は拐われていたのだろう。だから盗賊達の企みを知っていたエルは街に行くなって言ったのか……さすが悪魔。何でもお見通しなんだなぁ、と感心する。
(エルの言う通り籠もっていて良かったよ……! 私の代わりにおばさま方が酷い目にあうなんて絶対に嫌だし)
私のせいで関係の無い人が傷つかなくて済んだ事に、不幸中の幸いだとホッと胸を撫で下ろす。
「ガキ共が拐われて傷ついたサラを慰めて、俺の事を好きになって貰おうと思ってたのに……」
純粋に私に好かれたかったらしいけど、今となってはそれは無理だと判断したのだろう。自分を取り繕うのをやめたテオは、計画は狂うし、私が靡かないから闇魔法に頼る事になったし……とブツブツ文句を言っている。
でもテオの言葉で違和感の正体がやっと分かった。子供達を拐われた私が街の憲兵団に通報しないように闇魔法で記憶の改竄でもするつもりだったのだろう。
今こうして話している内容も、都合が悪い箇所は闇魔法で記憶から消すつもりなのかもしれない。
──そうして精神干渉を受けた私は子供達の事を忘れ、テオを好きになるのだろう。そしてそのまま結婚させられるのかもしれない……そこには偽りの愛しか無いけれど。
(ここまでテオを追い込んでしまっていたなんて……)
こうなってしまったのはテオのせいだけでなく自分にも責任があるんだろうな、と思う。でも昔ならともかく、今の私はエルが好きなのだ。だからこの先テオを好きになる事はないだろう……テオには申し訳ないけれど、こればっかりは仕方がない。
「じゃあお頭、サラに魔法をかけてくれ。ガキ共の事は忘れて俺だけを好きになるように、簡単に解けない強力な奴を頼む」
テオに指示されたお頭はやれやれとでも言うようにため息をつくと、私の方へ視線を向ける。
私を見るお頭の目には憐憫の色が滲んでいて──まさか盗賊に同情される日が来るとは思わなかった。それほど今から使う闇魔法は酷いものなのだろうか。
お頭は倒れていた私の身体を起こし、壁により掛かるように座らせると「可哀想だが契約だからな。まあ、しばらく頭痛がするだろうが堪えてくれ」と、憐れむような顔をして言った。
私はそんなお頭を見て、憐れむのならちょっと魔法を弱めにしてくれないかな……なんて、ぼんやりと考える。
(こういう時、颯爽とヒーローが助けに来る場面なんだけど……エルは神殿から出られないだろうし)
物語のように都合よく助けが来る事を少し期待してしまった自分に失笑してしまう。私はいつの間にか人に頼る事を覚えてしまったらしい。
(人に頼らず生きていけるようになれ、とお爺ちゃんに言われていたのに……)
お頭が魔力を集めて魔法行使の準備に入る。段々大きくなる魔力の渦に、お頭がかなり高位の魔法使いなのだと分かる。
「我が力の源よ 記憶を幽囚せし闇の檻となりて かの者の光の欠片を封印せよ 我が意のままに 我が成すままに 我に従う傀儡となれ インペリウム・アニムス」
お頭が呪文を唱えると、私の目の前に魔法陣が顕れる。その魔法陣から黒い靄のようなものが溢れ出すと、私の身体を覆うように纏わり付いて来た。そして靄が触れた部分から、何かが身体の中に入ってくるような悍ましい感覚がする。
(くっそー!! 闇になんか負けたくないのに……!!)
闇属性の魔力が私の神経を徐々に侵食しながら上へ上へと這いずってくる感覚に叫びそうになるけれど、ぐっと奥歯を噛み締めて何とか耐える。だけど、自分の全てが闇に覆われてしまうのは時間の問題だろう。
(そんなの嫌だ……エル……!! ────助けてっ!!)
心の中でエルの名前を叫ぶと、胸の奥深くから何かが弾ける感覚がした、瞬間──
『──────サラ!!』
──ここにいるはずのない、エルの声が耳に届いた。
「エルッ!!」
エルの気配を感じた私は力を振り絞ってエルの名前を呼んだ。
私の様子を見守っていたお頭が何かの異変を感じたのか、慌てた声で「何だとっ!?」と叫ぶ。
お頭が叫ぶと同時に、私を覆っていた闇属性の魔力が弾け飛ばされ、魔法陣が割れた音と共に砕け散る。
「馬鹿なっ!?」
「な、なんだ!? 何が起こって──……!?」
「お頭ぁ!?」
お頭が信じられないとでも言うような驚きの声をあげると、テオと子分達が尋常じゃない様子に怯えだす。
「俺の結界に干渉してくる……!? 一体何者……!?」
お頭が部屋中を見渡している姿に、彼は闇魔法で建物ごと結界をはっていたのだろうと思い至る……私達が逃げ出さないように。
部屋の中をよく見てみると、透明の膜のようなものが天井や壁、床にピッタリと張り付いていて、これが結界なのだと理解する。だけど、今その結界は何者かに破られようとしているのか、立ち込める闇の気配が段々と濃密になってくる。
(この感じ……ホントにエルが……!?)
よく知っているエルの気配と共に、いつも彼が纏っている薫りが私を包む。まるでエルが守ってくれているような、そんな錯覚に陥ってしまいそうだ。
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