第62話 相談
休憩後はみんなで調理されたトリを食べた。
王宮から料理人が来てくれたため、普段食べられない豪華な食事がテーブルに並び、まるでガーデンパーティのようだ。
「トリの丸焼きを作らされるかと思った」
野営は調味料もなくてただの丸焼きだったよな。とアルバートがエドワードに言う。
「そうそう、表面だけ真っ黒に焦げたよね」
楽しい思い出のようだ。
「騎士コースって他にどんなことをするの?」
特別講座の前後では長く話すことができないので興味はあったがお互い交流はなかった。
食事をしながらいろいろな話で盛り上がる。
年上にも遠慮がないアルバートの口調のおかげで、全員気軽に雑談でき楽しい時間となった。
「リリーちゃん、ケガしたの?」
「トリが急に動いて角が当たって」
すごく驚いたんですよ! とリリアーナは力説する。
「あのトリ気絶だったのかー。そりゃびっくりするよね」
専門科の生徒は、調理されたトリの香草焼きをがぶりとする。
「うぉ! これウマ!」
なかなか食べる機会などない王宮料理にみんな夢中になる。
教授達も学園長も楽しそうだ。
「リリー、手まだ痛い?」
エドワードが心配そうにリリアーナに近づいた。
「……お兄様、あとでちょっと聞いてほしいことが……」
できれば寮で会えないかと、リリアーナがお願いをする。
リリアーナからお願いされることは今まで1度もない。
あの怖い夢を見たときでさえ、偶然中庭で見かけたからよかったが、会えなければどうなっていたか。
「もちろんいいよ」
エドワードはニッコリと微笑んだ。
さぁ食べよう! とリリアーナに食べ物を勧めていく。
傷はちょうどフォークを握ると痛い場所のため右手が使えない。
エドワードはリリアーナに食べさせた。
いつかの魔力不足の日のようだ。
食欲はあるようで、トリも野菜もエドワードが勧めるままリスのように頬張るリリアーナを見て、エドワードは少し安心した。
相談とは何だろうか。
ノア先生と王太子殿下のどちらにしようという相談だったら返事に困る。
推しはもちろんノア先生だ。
でもやっぱり女の子の憧れは妃殿下か?
あぁぁぁ、と悩むエドワードを横目に、アルバートは何やっているんだあいつ? と首を傾げた。
フレディリックは先ほどの光景を頭の中で思い出していた。
一瞬見えた魔方陣。
リリアーナの下に白くて小さな魔方陣が出た。
光り輝き、暖かい雰囲気を感じたと思ったがすぐ消えてしまった。
その直後、動き出したトリ。
偶然にしてはタイミングが良すぎないだろうか。
気絶から偶然目覚めたのか?
まさか生き返るわけがない。
そう思いながらもあの白い魔方陣なら生き返ってしまうのではないかと期待する。
どうしてこんなに心を掻き乱すのか。
リリアーナは何か心当たりがあるのだろう。
魔方陣の直後は怯えていた。
単に血を見て怯えただけだろうか。
しかし、指輪の魔道具をしている時は魔術は使えないのではなかったか?
「おい、手、見せてみろ」
フレディリックがエドワードとリリアーナの元へやってきた。
手には傷薬を持っている。
王宮から持ってきてもらったのだろう。
綺麗な入れ物に入っており、見るからに高級品っぽい。
「申し訳ありません、殿下」
エドワードが頭を下げた。
元はといえばトリを触ろうとしたリリアーナが悪い。
まさか死んだ動物を触ろうとするとは思わなかった。
実際には気絶したトリだったが。
「いや、ケガをさせて悪かった」
血のついたハンカチを取り、傷薬を塗ってくれる。
その手つきは優しい。
痛くないように気を使ってくれているのだろう。
最後は包帯まで綺麗に巻いてくれた。
意外に慣れた手つきだ。
「1日2回塗れ」
綺麗な入れ物がリリアーナに手渡された。
「え? 大丈夫ですよ。すぐ治ります」
入れ物だけで高そうです!
リリアーナは遠慮しようと思ったが、怪我をしていない左手に握らされてしまった。
右手の包帯を少しなぞってからフレディリックはリリアーナの指輪をスッと外した。
「フレッド殿下?」
フレディリックはリリアーナの指輪をじっくり眺め、眉間にシワを寄せた。
「……ヒビが入っているな」
そのままエドワードに手渡す。
「……そうですね」
エドワードはリリアーナに渡す。
リリアーナが確認すると指輪の内側には亀裂が入っていた。
外側は何ともなっていない。
内側の魔術回路の部分だけだ。
さっきの魔方陣は自分じゃないと言えなくなってしまった。
リリアーナはヒビの入った指輪をまた元のように指にはめた。
「手の傷が残るようなら、喜んで責任を取るが」
フレディリックの発言に、周りの教授や生徒が驚いて振り向いた。
責任?
意味がわからないリリアーナは首を傾げた。
「だ、大丈夫です! 治ります!」
焦ったエドワードが代わりに答える。
フレディリックはリリアーナの髪をいつものようにぐちゃぐちゃにすると、手をひらひらさせて別のグループの方へ行った。
「その薬、めっちゃくちゃ効くから大丈夫だと思うよ」
光魔法の王妃が作った傷薬だから。とアルバートはこっそりエドワードに告げた。
うちにもあるんだ。と笑う。
やっぱり高級品!
リリアーナは左手の傷薬を見た後、もらっていいのかなと不安そうな顔でエドワードを見た。
「もらっときゃいいんじゃねぇの? それとも責任取らせたい?」
茶髪の友人アルバートがニヤリと笑うと、エドワードは全力で首を横に振った。
楽しい実践とガーデンパーティはお開きになり、自然解散となった。
「リリーを寮まで送ってくるよ」
アルバートへ告げ、エドワードとリリアーナは一緒に寮に戻る。
戻るまでの間はお説教だ。
触ろうとするなんて、侯爵令嬢なのに、座り込んで、と説教が続く。
「あのトリ、気絶していたのかな」
リリアーナが制服からワンピースに着替える間、エドワードは紅茶を冷蔵庫から出しながら勝手に飲んだ。
相変わらず氷グラスに入れるとシャリシャリしておいしい。
「どういう事?」
エドワードが見た時にはフレディリック殿下が足でトリを踏みながらリリアーナを背中に庇っていた。
リリアーナがケガをした瞬間は見ていない。
「……角を触ろうと」
ダメと言わなかったらきっと触っていたのだろう。
エドワードは溜息をついた。
「白い魔方陣が出て」
は?
エドワードが固まる。
「トリが動いて」
どうしよう。とリリアーナが言う。
「ちょっと待って! 白い魔方陣が出てトリが生き返って角でケガした所を殿下に見られたって事!?」
上手くまとめすぎなエドワードの言葉にリリアーナは苦笑した。
「それで殿下が抱きしめたって事?」
うわー、どうしよう。
エドワードは頭を抱えた。
「だ、抱き、」
リリアーナが真っ赤になる。
落ち着かせようとしてくれただけで、とゴニョゴニョ言い訳をする。
「気絶したトリがたまたま目が覚めた……と思う訳ないよね! 魔方陣見たもんね!」
あぁー。とエドワードがひっくり返った。
「……どうしよう」
リリアーナは泣きそうだ。
「指輪って前のは指につかないの? 小指とかでもいいからさ」
薬指は無理だったため少し緩いが小指にはめる事にした。
「とりあえず、指輪をノア先生に直してもらって、ウィンチェスタ侯爵にも相談しよう」
大丈夫! 何とかするから!
せっかくリリアーナが相談してくれたのだ。
全力で頑張るしかない。
エドワードはリリアーナに大丈夫と言い聞かせた。
ウィンチェスタ侯爵宛で手紙を書き、指輪も同封した。
これを寮長へお願いして届けてもらう。
「大丈夫だからね」
エドワードが何度も『大丈夫』と言うのでリリアーナは逆におかしくなって笑ってしまった。
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