第61話 復活

「では、騎士2人。トリ捌けるな。野営訓練あっただろう」

 その指示に、アルバートとエドワードが溜息をついた。

 トリ4羽を捌けというのだ。


「お、お兄様、捌く? トリ?」

 まさか金髪キラキラ王子な見た目のエドワードがトリの頭を切って羽を取って食べられる状態にするというのか。

 リリアーナは驚いた。

 騎士コースはそんなことまでするのか。


「リリーは絶対見ちゃダメだからね」

 エドワードはすでにトリ1羽の首を握っている。


「あー、だから黒い服着てこいって言われたのかぁ~」

 アルバートは2羽の首をつかんでいる。


 ひえぇぇぇ。

 お兄様が! お兄様が!

 トリをつかんでいる!


「貴重な機会だ。見学したいものはここに残れ、苦手な者は30分休憩」

 教授達と学園長はせっかくなので見ていくようだ。

 ほとんどの生徒は逃げて行ってしまった。


「さぁ、お前はこっちだ」

 フレディリックが当たり前のように肩を抱く。

 歩き出そうとしたとき、ふいにトリの周りのまだ片づけていない青の魔道具が目に入った。


「フレッド殿下、あれ」

 リリアーナが青の魔道具を指差す。


「あぁ、無くすと困るな」

 フレディリックはリリアーナを連れたまま4羽目、最後に倒したトリに近づいた。

 青の魔道具4体を回収し、軽く拭いて上着のポケットにしまう。


 その間にリリアーナはそっとトリを覗き込んだ。

 足はまだ少し凍っている。

 実際は死んでいるのだろうが、傷がないので眠っているかのようだ。


 トリの角、固いのかな……?

 ニワトリのような見た目なのに変な角。

 リリアーナはそっと角に手を伸ばした。


「おい、触るなよ」

 死んだ生き物を侯爵令嬢が触るな。とフレディリックに止められた。


「ちょっと、リリー! 変な事しないでよー」

 少し離れたところからエドワードの呆れた声が聞こえる。

 どうやらこちらの様子をうかがっていたようだ。


「おい、エドさぼるな」

 黙々と作業をするアルバートはすでに2羽目だ。

 綺麗に解体されていくトリをみんなは興味津々に眺めた。

 魔術コースと騎士コースはなかなか交流がない。

 こんな機会はめったにないと教授も楽しそうだ。


 そうか、触っちゃダメか。

 一応、貴族だもんね。


 動けなくて、息が出来なくて辛かったかな。

 ごめんね。

 リリアーナは角を触ろうとしていた手を途中で止めた。


 手を引っ込めようとした瞬間、足元に白い魔方陣が浮かび上がる。


 下からスポットライトが当たるようなこの雰囲気。

 エドワードの剣の時と同じ光だ。


 リリアーナは指輪を見た。

 指輪はしている。

 なのになぜ?


 剣の時とは違い、一瞬の発動で魔方陣は消えた。

 あまりに一瞬だっため、横にいたフレディリック以外、おそらく気づく者はいなかっだろう。


 死んでいるはずのトリが急に頭を持ち上げた。

 リリアーナが驚くよりも先に、トリの角がリリアーナの手のひらを引っ掻く。


 フレディリックは慌ててリリアーナを引き寄せた。

 足でトリを抑え、リリアーナを自分の後ろに隠す。

 トリは羽根をバタバタと動かしフレディリックの足から逃れようと必死で抵抗した。


「おや? あのトリ生きていたのかな?」

 学園長が少し離れたところにいるフレディリックと、足元のトリの戦いを見てつぶやいた。


「気絶だったのでしょう」

 教授ものんきに回答する。


 フレディリックが足を離すと、トリは少し凍った足で動きにくそうにしながら慌てて逃げて行った。


 死んだのは確認していない。

 倒れたのは見た。

 死んでいなかったというのか。


「手、見せろ」

 フレディリックはリリアーナの手首をつかんだ。

 リリアーナは震えている。


「おい、痛いのか?」

 リリアーナの小さな手のひらは血で染まっていた。

 トリの角は表面がザラザラしていて引っ掛かれると地味に痛い。

 傷自体は深くないはずだが手が小さい分、手の皮も薄いのかもしれない。


 白い魔方陣。

 剣と同じ。

 無くなった刃が元に戻った白い魔方陣。


 まさか、死んだトリが生き返った?


 リリアーナは身体の底から震えているのを感じた。

 気絶だった?

 生き返った?


 指輪をしているのにありえない!

 魔術が発動するわけがない。


 顔面蒼白でガタガタと震えるリリアーナ。


 フレディリックは何も答えないリリアーナの手に器用にハンカチを巻くと、震えているリリアーナを抱きしめた。


「おい、落ち着け」

 片手で腰をしっかり引き寄せ、片手で優しく背中を撫でた。

 リリアーナの小さい身体はすっぽりと腕の中に入ってしまう。


「……フレッド殿下……?」

 ようやく今の状況がわかったのだろう。

 リリアーナは慌ててフレディリックから離れた。


 なっ、なっ。

 リリアーナの顔は真っ赤だ。


「え? あれマジ?」

 離れたところでは何があったかわからない。

 ただわかるのはフレディリックがリリアーナを抱きしめたという事実だけ。

 アルバートの言葉に、エドワードも驚いた。


 リリー! 何やってんだよ~!!

 エドワードの手が止まる。


「おやおや」

 にこにこする学園長。

 驚く教授達。

 見てはいけないものをみた生徒達。


「殿下は立場上いろいろと大変だから、みんな秘密にしてあげてくださいね」

 気を利かせた学園長の言葉に、みんな必死で頷いた。

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