第55話 茶髪の友人

「すっごく気になっていることを聞いてもいい?」

 エドワードは茶髪の友人の襟元の家紋を指差した。

 どう見ても王家の紋章が彼の服についている。


 友人の名前はアルバート・ポーシェン。

 茶色の髪、茶色の瞳はなんとなく国王陛下に似ていなくもない。


「いとこなんだ」

 茶髪の友人アルバートは悪戯が成功したようにニヤリと笑うと、フレディリック殿下を指差した。


 国王陛下の妹の息子。

 だから王位継承権はないんだ。とアルバートはさらりと言った。

 ポーシェンという貴族名はこの国にはないのでどういう事かと尋ねると、隣国の公爵名だと教えてくれた。


「ぜんっぜん知らなかった。ごめん」

 国王陛下の妹が隣国に嫁いでいることも、アルバートが公爵家だということも、王族だという事も。

 これではリリアーナに常識がないと言えないではないか。


「いや、わざと隠していた。悪ぃな。エド」

 普通に友達欲しかったからさ。とアルバートは笑った。


 その後、表彰式が行われ、国王陛下からメダルを受け取るアルバートを見たときに横顔が似ているとエドワードは思った。


 模擬戦は無事終了。


「お兄様すごーい!」

 エドワードは夕方、寮にいるリリアーナに結果報告に行った。

 首から下げたメダルを見たリリアーナはうさぎのようにピョンピョン跳ぶ。


 わ~、重い。

 メダルを手で掬いながらリリアーナは嬉しそうだ。


「すごいね、お兄様」

 リリアーナの目から涙が落ちた。


「リリーのおかげだよ」

 エドワードはリリアーナの頭を優しく撫でた。

 リリーの独特な絵のおかげで緊張しなかったんだ。と笑う。


 優勝は茶髪の友人だと告げると、リリアーナは納得した。

「あの人でっかいもんね」

 と言われたことはアルバートにはなんとなく内緒にしておこうと思った。


 冷蔵庫のものでは大したものは作れなかったが、エドワードとリリアーナはその日2人で夕飯を食べた。


 模擬戦で氷の壁を作ったのに、アルバートが力ずくで突破した事、連続で水の矢を撃ったのに直前で避けられた事、氷の剣だけでなく、本物の剣まで折られた事。

 頑張ったけど敵わなかったとエドワードが言った。


「あと2個あれば勝てたよね!」

 次は勝てる! とリリアーナは握りこぶしを上に突き上げた。


 あと半年でエドワードは卒業だ。

 王宮騎士団に入れるだろうか。

 スカウトが来ると良いな。

 リリアーナはうまい! うまい! とシチューを食べているエドワードを見ながら微笑んだ。



「なんだ、エドワード。筋肉痛か」

 フレディリックが不自然なエドワードを見て笑った。


「大丈夫です。……でも今日は字が書けません」

 エドワードが正直に言うと、特別講座クラスの全員に笑われた。


 エドワードは地味に筋肉痛だ。

 アルバートの重くて力強い剣を何度も受けたのだ。

 腕を上げるのも実は辛い。


「この特別講座の2人が1位、2位なんてね~」

「将来安泰だよね~」

 博士科のお兄さん達がすごい、すごいと盛り上がる。


「さぁ、始めるぞ」

 今日の内容は素材について。

 たとえばサーベルタイガーの牙は粉にして薬にするため高値で取引されるそうだ。

 毛皮はもちろん貴族が買うので傷がついていない方が高い。

 他国では冒険者と呼ばれる職業の人がいて、素材を取引しながら生活しているという。


 冒険者と聞くと一気にゲーム感が強くなる。

 前世の莉奈はパズルゲームしかしなかったが、ユージはよくやっていた。

 ランクを上げるとか、素材を売って防具を買うとか。

 この世界でも同じなのだろうか。


 懐かしいなぁ……。


 リリアーナの無防備で切なそうな表情に、フレディリックが一瞬止まった。


「っと、それで、今日は宿題を出す」

 フレディリックは全員に価格表を配った。

 どの動物の何が高値なのかわかりやすくまとめられている。

 小さな動物は取りやすいが数がたくさん必要だ。


「どの動物でもいい。どんな方法で捕まえるか考えてくるように」

 できるだけ傷をつけずに、素材を多くとる方法を考えてこいと言うのだ。

 剣でもいい。魔術でもいい。罠や槍などの道具の使用もOK。

 何人で捕まえてもいいし、とにかく自由に考える事。

 次回までの宿題だと言われる。


 ちょっと面白そうだとリリアーナは思った。

 実際に捕まえることはないだろう。

 でも、罠とか楽しそう!

 笑顔になったリリアーナを見て、フレディリックは安心したように微笑んだ。


「剣で刺したら毛皮がダメになるよね~」

「ドラゴンなら剣でいけるんじゃね? 鱗が結構高値」

 さすが騎士コース。2人は剣で取るようだ。


「火は使えないよね。どうしよう」

 魔術コースの専門科も悩み中だ。


「お前はどうするんだ?」

 フレディリックが楽しそうなリリアーナに声をかけた。


「罠! 落とし穴!」

 元気に言った瞬間、エドワードが反応する。


「ダメダメダメ―! ドロドロになるから!」

 そういえば、あのドロドロは掃除が大変だったと庭師が嘆いていた。


「何? 何? リリーちゃん何したの?」

 博士科のお兄さんが興味津々だったので、ついエドワードはあの悲劇をみんなの前で話してしまった。


「あれ? リリーちゃん、魔術……?」

 リリアーナが闇魔術で何も発動できないのは学園で有名だ。


「あ、えっと、ノア先生が。魔道具で一瞬だけ使えるものを」

 咄嗟に嘘をついてしまったが、誰も疑問に思わなかったようだ。

 あの天才ならそんな魔道具を作ってもおかしくないと。


 普段使えない魔術が使えたから楽しくてドロドロになっちゃったんだね。と都合よく解釈してくれた。

 エドワードが手でゴメンポーズをする。

 リリアーナは大丈夫。とニッコリ笑った。


 フレディリックはリリアーナの髪をいつものようにぐちゃぐちゃにすると、今日の講義の終わりを告げ、王宮へ帰って行った。

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