第51話 テスト

 フレディリックは学園長室の椅子に座ると、リリアーナにも横に座れと椅子をポンポンした。

 向かい側には学園長が座る。


「お前、あいつとどのくらいの頻度で会っている?」

 フレディリックは長い足を組みながら、リリアーナに向かって聞いてきた。


「は? え? ノア先生? 月1回ですよ?」

 王宮魔術師団って忙しいのですね。とリリアーナが回答する。


「学園長、さっきの件、こいつと、こいつの兄も受けさせろ」

 何の話かわからない会話が飛び交うが、リリアーナはぼんやりおとなしく座っていることにした。


「講座は月2回、授業後。年齢問わず、テストの点数上位30名で」

 フレディリックがいろいろな条件を伝えると、学園長は必死でメモをとった。


「いやぁ、お受けいただけるなんて光栄です!」

 学園長は上機嫌だ。

 さっぱり何の話かわからないが。


「あいつと月1回なら、俺は月2回にする」

 いやいや、何の話ですか?

 リリアーナは首を傾げた。


「新しい講座を始める。講師は俺だ」

 フレディリックはリリアーナの頭をぐしゃぐしゃしながら笑った。


「フレッド殿下が先生?」

「あぁ、ドラゴンとかサラマンダーとか、この国にはいない大型動物の生態や習性、生息地などをやる予定だ」

 興味あるだろう? とフレディリックがにやりと笑う。


「いつ募集できる?」

「明日にはすぐ掲示板に告知します!」

 学園長のパーフェクトな回答にフレディリックは頷いた。


 年齢問わず。

 初等科ではさすがにテストは難しいがチャレンジは可能。

 テストを受けて上位30名が受講できる。

 テスト範囲は明日学園長が告知するそうだ。


 王太子自ら教えてくれるなんて、お近づきになりたいご令嬢が殺到するだろう。

 フレディリック殿下に現在婚約者はいない。

 隣国の姫と破談になったばかりと噂だ。

 そんな餌をぶら下げられたら恐ろしいことにならないのだろうか。


「競争率、高そうですね」

 リリアーナがぼそっとつぶやいた。


「お前の兄にも受けさせろ。魔術剣士になるのだろう? 大型動物の急所を知っていれば討伐が早い」

 この国には魔術剣士と言う職業はないはずなのに、まるでエドワードがなるのが当然かのように言う。

 フレディリック殿下に言われると、本当になれる気がする。


「お兄様のプレッシャーもすごそうです」

「……プレッシャー……とは?」

「あー、えっと。期待? 精神的な圧迫?」

 説明はうまくできなかったが、なんとなく雰囲気は察してもらえた。


「絶対受かれよ」

 フレディリックがニヤリと笑う。


 専門科、博士科も希望するので、中等科では難しいのでは? という学園長の顔を見ながら、リリアーナはがんばりま~すと返事をした。


 翌日、学園長の言葉通り、掲示板に新講座の告知がされた。

 講師はフレディリック王太子殿下。

 月2回必ず王太子に会えるのだ。

 騒ぎにならないわけがない。


 テストは1ヶ月後。

 学園内は異様な盛り上がりとなった。


 テスト範囲も発表されたが、曖昧でどう勉強したらよいものかわからない内容だった。

 計算と地理は高等科で習う内容程度。

 詳細はない。

 生態系について自分の意見を記述する項目あり。

 こちらも内容はない。


 習った内容が出るのであれば高等科以上が有利になるのだろう。

 記述は論文を書いたことがある専門科・博士科が有利か。

 絶対に受かれと言われたが、中等科では荷が重い。


 ノア先生の教科書を借りたいと寮長にお願いしたら翌日に届いてすごく驚いた。

 寮長すごい。

 でも携帯も宅急便もないこの世界で、翌日は早すぎると思う。


 貴族のご子息も、これで王太子に名前を覚えてもらえれば将来安泰。

 廊下でも何を勉強している? というような探り合いの会話が増えた。

 ツインテールのご令嬢も、初等科でクラスメイトだったリーダー令嬢も鼻息が荒い。

 ガチで参戦だ。


 予想通り、テスト希望者はかなりの人数だった。

 初等科から博士科まで、ほぼすべてのクラスでテストが実施されたので、貴族は全員受けた(親に受けさせられた)のだろう。


 定員30名。

 正直、スーパーエリートの博士科15名、専門科の上位15名で定員が終わってしまうのではないだろうか。


 計算は思ったよりも簡単だった。

 文章題も連立方程式で答えは簡単に出たし、1次関数の直線くらい書ける。

 前世の方が数学はハイレベルだったので、良かった。


 地理は主に生息地の問題だった。

 ドラゴンはノース大陸だとノア先生から聞いているので知っている。

 サラマンダーやサーベルタイガーはどこか。

 火を噴くトカゲ? 牙のあるトラ?

 さっぱりわからなかったので適当に暖かそうな所や、オアシスっぽい所を選んでみた。


 生態系について。

『大型の動物は必要か不要か自分の意見を述べよ』


 ドラゴンはかっこよさそうだから必要だと書きたいが、馬鹿だと思われるといけないので自粛。

 食物連鎖っぽい話で、大型も必要というか、体格差は必要だと書いてみた。

 正解はわからない。


 とりあえず中等科にしては頑張った方でしょ。と自分を褒めてみた。


 受験者が多かったため、結果は2週間後に掲示板に貼りだされるそうだ。


 ノア先生だったら余裕で合格なのだろうな。

 リリアーナは早く会いたいなと思いながら寮へと戻った。

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