第5話 利震伝
鈍色の弾は短い爆発音と共に男の頭蓋骨を貫き海馬のところで止まった。男の利性が次第に弱まり感知できなくなった。そして反比例のように弾から利性が流れ出ているのが意識しなくても分かった。それほど強い利圧だった。
男は死んでいた。異変が起こる。男は手足だけでなく胴体まで
「アッ...アッ...」
死んでいるはずなのだが微かに言葉を発している。ナガメは何度も魂を見ようとした。しかし、そこには無かった。ナガメはむやみに切りかかると逆に危険だと思い、敵のアクションを待った。
首は脈を打った。
ナガメは不安感を覚える。
(人間の首はここまで強く脈もの打つか?)
その不安感は現実へと加速する。
首は130cmほどさらに肥大し、首から目が四つ突き出し、後頭部からは人間の六つの手が生え、首の断面からは円口類のような口ができていた。
もう首は既に違う生物になってしまった。
顎がゆっくりと開き咆哮が轟く。
「gaaaaaaaa!」
緊張感が漂う。
ナガメは刀を構え直す。
「ゲンさんは避難の指示をお願いします。」
「おい!まさかおまえアレを使うつもりじゃねぇよな!」
「最悪の場合ですけど、何せ異様な敵です。
こいつの利性はBarkと似通っています。」
「まぁ、気つけろよ。」
不安が募るが仕方なかった。
ゲンは市民を誘導し始めた。
Barkは腕を動かし、屋台や外壁を倒壊させている。
「見境なしかよ!煙柵!」
「林葬!」
ゲンの煙柵で瓦礫の落下を防ぎ、ナガメの林葬で宙に足場を作った。
(コイツの拘束はおそらく無理。なら牽制として、少しでも小回りが効くように!)
「ナガメ!すぐ戻るから死ぬなよ!」
「はい!」
Barkはナガメを叩き潰そうと腕を振り上げ下ろした。ナガメは紙一重でかわしたが、土埃で、周りが見にくくなってしまった。影艇街は洞穴の街。すなわち風が吹かないのだ。砂埃による目眩しは凶悪だ。
ナガメは林葬に付与されている魂で宙にある足場は辛うじて認識できていた。
刹那、右から手が見えた。攻撃を察知し、避けようと上に跳んだ。
(コイツ!どうやってこっちの位置を正確に認識しているんだ⁉︎)
上からも攻撃が来ていた。ナガメはそれも避けるが、依然として位置の捕捉は的確であった。
(まさか利性の感性が異常に高いのか⁉︎)
答えは出ない。だが、分からない限り勝機はない。
(試してみるしかねぇか。)
「鳥葬。」
ナガメはできるだけ利性を込めて発動した。
鳥は四方八方に分かれて飛んだ。ナガメが見る限りカラスたちの魂には異変が無かった。
その時、一羽のカラスが消えた。ナガメは少し止まり、様子を見た。はたき落とされるでもなく、消えた。それが意味するのは、即死。
(マジかよ。)
一羽また一羽と消えた。左その次は右と魂の消滅に、一つの仮定が浮かんだ。
(温度か?)
鳥は人間と同じ恒温動物。しかし、体温は鳥の方が比較的高い。もしかすると、温度の高いものを優先的に狙って攻撃しているかもしれない。
(だったら、合点がいく。さらに利性の察知の相乗でこの中での攻撃を可能にしてるみてぇだな。であれば、接近は危険だな。利性が丸分かりだし。距離をとるために動き回り続けても体温が上がり、バレやすい。)
回避は必要最低限。攻撃は遠距離型。防御は無し。これが最善の選択であった。
しかし、そんなことできるわけがなかった。
ナガメは避け続けるのにも限界が来て、体を掴まれ、投げ飛ばされた。
(クソッ!衝撃に備えるしかねぇか。)
そして一つの屋台に激突した。
「イッテッ!」
「あんた!大丈夫か⁉︎」
店主がナガメを見て心配する。
インパクトの瞬間、体表の利圧をできるだけ上げたので致命傷には至らなかったが、かなりダメージをくらった。頭から出血している。そのせいか店主の声は全く届いていなかった。
目を開くと向こうから市民がこちらに大勢走っている。
奥に砂埃からBarkが暴れながら出てくるのが見えた。それは何かを探しているような行動でもあった。
ナガメとBarkは目が合う。
Barkは瞳孔が開き、咆哮をした。
「GAAAAAAAAAAAAA‼︎‼︎」
(まずい! アイツ必ず仕留めてくる気だ。あれは捕食者の面だ。そろそろ本腰入れないと危ないな。じゃあ、とりあえず...)
完全にスイッチが入った。
「暴れてやるか...」
「へ?」
店主に見向きもせず、そう言って立ち上がると、ナガメはもう自身の戦欲に身を任せていた。Barkに向かって歩きながら笑い声をあげ、刀を捨て、髪を逆立てて、瞳孔が開いた。
お互いの利圧がぶつかり合う。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
良いね!この感じ!久しぶりだな!今はただひたすらに戦いたい!じゃあ、快気祝いに一つかましてやるよ!
利波節第十二番!利㷔!」
その瞬間ナガメは腕や肩、脹脛に炎を纏ったような姿になった。しかし変わったのは見た目だけでなく、その部位に高圧力の利性が流れ、機動力が段違いに素早くなった。
しかし、ナガメの体にはかなり負担が大きかった。血管がところどころ弾け、血圧と体温の急激な上昇、心拍数の増加、ギシギシと聞こえてくるほどの筋肉痛。
「ハハハハハハハッ!今からそこまで行ってやるよ!」
そして、 Barkのもとに行くまでほんの数秒の出来事で、ナガメは、壁を蹴りながら跳ぶように駆け、顎の下辺りにいた。
Barkはその爆発的な利圧にすぐ気付いたが、目を向けた頃にはもう遅かった。
「利波節第三十七番!利震伝!」
そう言うと全身の利性が左手に収束した。
そしてその拳を上に向かって思い切り突き上げた。
Barkは高出力の利圧の一撃に全身の血管が破裂した。 Barkは叫ぶ。
「GAAAAAAAAAAAAAA‼︎‼︎」
「ハハハッ!痛ぇか!そのまま死にな!」
なおもBarkは叫ぶ。そして、暴れ出した。痛みがかなり大きいのか、数分間続いた。途中腕がナガメめがけて振り下ろされるが、腕は接触の瞬間もぎ取られた。その腕をナガメは投げ飛ばした。投げた先も見ず。さらに、Barkは叫びながら暴れた。
しかし、それもすぐに
何か不穏であった。
Barkは動かなくなった。しかし、脈拍が聞こえる。それは段々と大きくなっている。 Barkの口に不穏な利性が流れるのが分かった。その時、
ニョキッ!
Barkの口から顔が出てきた。目はくり抜かれ鼻は削がれて、輪郭はムンクの叫びのような顔だった。そして手には大きな斧があった。
Barkは咆哮する。
「GAGAGAGAGAGAGAGA!!!!!」
「あぁ?やっと本気かよ。」
遠くから避難誘導が完了したゲンが嫌な利性を感じ、振り向き、それを見た。
「マジか。成体になりやがった。」
それを聞いたツボミは Barkの方に戻っていった。しかし、ゲンはそれに気づくのが遅れた。
「ツボミッ!...まさか!戻ったのか⁉︎あの嬢ちゃん⁉︎」
ツボミは通り過ぎる人の叫びを聞きながら逆方向に走った。
そして、場所に着くと目に入ったのはボロボロになって喰われそうになっているナガメだった。
ツボミは今目の前にしている光景が信じられなかった。
「ナガメッ‼︎」
ツボミは石を拾い Barkに投げる。 しかしBarkの手は止まらない。そして、そのまま飲み込まれた。
Barkはツボミに目をやる。そして、掴み掛かろうとした時、 Barkが一刀両断に切られた。
そして、ツボミの後ろから三人ほどの集団が出てきた。
「おやおやおや...」
ソウル・ソウル algo @clap
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