第3話 探偵列車 sole・soul

「山査子 蕾...うん良い名前だね。」

サイランが言う。

続けてHoMが何か閃き、言う。

「そうだ。ツボミちゃん、探偵事務所に興味ない?」

その途端HoMはレンから顔面を殴られた。

当然である。

「痛ーい」

半泣きである。

「こんな!女の子を!こんな!汚くて!危ない!事務所に!入れられないでしょ!所長!私はこの意見に反対です!」

サイランはなだめながら、

「たしかに危ないなぁ。でも、身寄りなさそうだし、外の方がよっぽど危ないんじゃない?」

正論である———

しかし、それは苦痛を強いられる選択でもあるのはサイラン自身よく知っていた。もちろんレンも知っていて、それを避けたかった。

「入るかどうかはそもそも本人次第ですよ。」

ナガメが割って入った。

幼い子どもにほぼ一生の選択を迫る残酷さを感じ、胸に苦しさをさえ覚える。


この世界は正しいことはいつだって辛すぎる

誰もが縋れる幸福装置があるとしたら

——善意という名の虚構だろう


その時、けたたましく警報が鳴った。


サイランが静かに言った。

「おや?奴らのお出ましか...」


町の中から咆哮が聞こえ、建物が倒壊するのが見える。Barkだ。百年前の戦争の名残り。人を天と地に分けた原因の化け物。人間たちが刃格者を差別するのは武器でるからだけでなく刃格者がBarkだと信じているからだ。

町は警報が鳴り響いていたので、住民はすでに避難が完了しているようだった。


この状況下、列車の出番である。


「ツボミとナガメは列車で待機!3人で片付けるぞ!」


その掛け声と共に列車が停車した。外を見るとBarkが3体いた。3体のBarkは2mくらいで比較的小柄な大きさだった。顔はエイリアンのようなそれで、腕はゴリラのように大きい。全体的に赤黒い色をしていた。


3人は列車から降りて小さいスタンガンを取り出した。サイラン、レン、HoMは首にそれを当てたかと思うと着ている服が変わった。サイランはコートを羽織り、レンはチャイナドレスにブーツを履いてる。HoMはタキシード姿だった。そしてどれも黒の生地に白いクロスで統一されている。青年も例外ではない。

ナガメはサイランから戦闘についてツボミに説明するよう言われていたので得意ではないがすることになった。

ナガメは3人を指差し、解説した。


「ツボミ、あれは刃格者と言って悪いのと戦うんだよ。この世界の列車には刃格者が絶対乗らないといけない。その理由は今みたいにBarkを倒すためなのだ。それにここでは探偵稼業も請け負ってる。」


「刃格者?」


「そう。刃格者は刃格という固有の能力があってそれはその刃格者の人柄によって変わる。」


「服も?」

意外にも鋭い観察眼だった。少し感心し、説明を続ける。


「そうだよ。服もその刃格と相性が良い服装なんだ。」

ツボミはじっと三人を見ていた。


「そして戦闘にあたって最も重要なのは

 利性だ。これは刃格生物とBarkのみから出る特殊なエネルギーで感情や精神力にも影響する。刃格をもつものは他の利性を感じ取れるんだよ。それに利性の圧力を利圧というんだ。」

その時ツボミはナガメの顔をまじまじと見た。

(何を考えているかさっぱりだな。)


咆哮がする。三人は別れ、一対一の体制になる。

サイランはBarkの攻撃を全ていなす。Barkの攻撃は素早い上に一撃が重い。常人では見切ることさえ許されない猛攻だった。と、サイランはBarkのバランスを崩した。その隙に後ろに回り込んだ。その瞬間Barkの背中、右肩、腰、首に同時に打撃が入った。Barkは痛みに悶えた。そしてサイランは心臓部に手刀を入れ、Barkの動きが止まった。非常に手際が良い戦闘だった。その証拠にサイランの立っている場所はBarkの初撃の場所からほとんど移動していなかった。サイランは所長なだけあって武術は得意なのである。


「所長の刃格は不視力ふしりき相手から手の輪郭を見られていなければ半径2.23m圏内に見えない手を2つ出せる。」


「そうなんだ。つよそう。」

目の前の戦いにツボミはあまり怖がっていない様子だった。

(これからの人生で戦闘に対する恐怖心はない方が楽か。)


視界の横で瓦礫に飛ばされた、いや、蹴っ飛ばされたBarkがいた。レンの仕業だ。レンは間合いを詰め、Barkは起き上がり、殴りかかる。レンは足でBarkの打撃を相殺していた。相殺するたびに近くの家の窓が揺れ衝撃が強いことが分かる。そして、最後の打撃をかわしBarkの頭上まで跳び、Barkの後頭部に蹴りが入った。そのままBarkは顔面から地面に叩きつけられ、動かなくなった。華奢な体からは考えられない威力であった。


「レンの刃格は配力はいりょくって言う刃格だよ。四肢の表面から1cmの間に発生する熱、光、音、物理エネルギーの配分を自由に最大100%分けられる。」


「エネルギー?」

ツボミにはまだ早い話だった。しかし、今は手短でしか説明できない。その後補足説明したがあまり分からないようだ。


HoMはどこからか鉄パイプを引っこ抜き、持ってきてそれに話しかけている。


「HoMは何してるの?」


「あいつの刃格は鉄心てっしんで、金属と対話する刃格がある。対話する事で自在に金属を操れる。というか対話で操りやすくなる。まあ、重さの上限はあるけど。が何やってるかさっぱり分からん。」


HoMは鉄パイプに話しかけた。


「ねぇ〜!彼女〜!どこ工〜?」


「・・・」


「なるほど!か!知らな〜い!」

もうお調子者の限度を超えている。


戦闘の方はどうかというと飛びかかろうとしてきたBarkを逆に鉄パイプで打ち返していた。Barkは飛ばされてもすぐに起き上がって手当たり次第の家屋の瓦礫を手に掴み投げつけた。


「そんなことしてっから一生草野球で終わんだよ!全弾打ち返してホームランにしてやるよ!」


鉄パイプの使い方は一人前のようで、野球の打者というより巧みな棒術を彷彿とさせる動きだった。HoMは宣言通りに全弾打ち返し、逆に全てBarkに当て、倒してしまった。まるでHoMの口ぐらいの軽さの身のこなしだった。


「まあ俺も草野球しかしたことないんだけど。あっ、ここ笑うとこだよ〜。」


まだ鉄パイプに話しかけていた。

Barkは塵のようにバラバラになり消えてしまった。戦闘が終わり3人がこちらに向かっている。


ふと気づくとツボミがこちらを向いていた。


「ナガメの刃格は?ナガメのまだ聞いてない。」

確かにまだナガメは自身の刃格を言っていなかった。


「俺の刃格は虚葬きょそう。利性で魂を操り、擬似的に葬儀をする能力。一部例外はあるが大体そんな感じ。」

「あの時飛べたのも魂のおかげ?」

「そうだよ。」


その時二人の目の前にもう一体空から何かが落ちてきた。大きな音と砂埃を立てた。砂埃が晴れてくると正体が分かった。Barkだった。

車窓からナガメが飛び出した。ツボミはその時ナガメの後ろ姿を見て、改めてこの探偵列車の仲間であると感じた。

見ると、先程のBarkと似ているが体躯がそれらより大きいため親玉と考えられる。


ナガメは戦闘体勢に入る。左手におふだのような紙を3枚持つ。そして、お札が青白く燃え始めた。

Barkは右腕を大きく振りかぶり、拳をナガメに向けて降ろす。ナガメはお札を投げるとそれが宙に貼られたかのように浮かんだ。そして、拳はお札に阻まれたがお札は割れ、バラバラになってしまった。衝撃の際、鉄がぶつかり合ったような音がした。Barkがのけぞる。


「あれを破るか。じゃあこれだな。林葬りんそう...」

いつのまにかナガメは地面にお札を貼っていた。そして、青白く燃え出す。

青い炎は形を変え木のつるのようになり、遠くまで押し出し、Barkを捕縛した。Barkはなんとか脱出しようともがく。しかし、木のつるはしなやかでなかなか抜け出せない。

「あともうちょいで済ませるから。辛抱よろしく!」


ナガメは深呼吸しながら、左腕にあの炎を纏わせた。今度はより強く。炎が段々と左手に集中する。そして、左の脇を締め、肘を少し後ろに突き出す。右足を前に出し、どっしりとした構えをとる。右手を左手の横につけた。

すると炎が消え、その代わりに一本の刀が出てきた。ナガメはそれにありったけの利性と魂を帯びさせた。


Barkにまとわりつく木のつるは軋みをあげついに千切れた。


—Barkは獣の様にナガメに向かって突進する

(10m...全然...)


——Barkは減速を知らない

(6m...まだ攻められる...)


———Barkは一撃で仕留めるつもりのようだ

(狙うならギリギリ...1.8m!ここだ!)


————鯉口を切り、


影葬流居合えいそうりゅういあい!  羅刹らせつ!  」


一閃


ナガメはBarkの喉から左腹にかけて斬撃を喰らわせた。Barkはその場に倒れ、そのままBarkは塵のように散った。

それを背にナガメは納刀し、刀は煙のように消えた。


ナガメがみんなより先に列車に戻ると車窓からツボミがひょこっと顔を出してナガメに言った。


「わたし、仲間になりたい。」


「おぉ、そうか... じゃ、ツボミ...

 これからよろしく。」



その日はツボミの歓迎会があった。





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