第1話 少女が入った棺

西暦22△△年 ×月××日 晴れ


列車が崖の壁沿いを走っている。今やそんな危険なことは当たり前になってしまった。波が崖に当たり、水飛沫をあげている。電車の中には10ほど人がいた。太陽が出ていたため車内の電気はついていなく日の影になっていた。新聞を読む大人、親の隣で寝る子ども、イヤホンで曲を聞く青年、少し廃れた雰囲気が漂っていた。


頭上に積乱雲のような大きな黒い塊が金属光沢をちらつかせた。ヒルバルデそれは地上に住んでいたら誰でも知っている天空施設。ヒルバルデからきらりと何かが太陽光を反射させた。それは真っ直ぐ下に落ち大きな音と水柱を上げていた。その後、波紋を広げながらぷかぷかと海の上で浮かんでいる。


「ちっ。またクソ人間どもが海にゴミを捨てたぞ。」


列車の中で不満を言う男がいた。それを隣で聞いていた一人の青年が徐に立ち上がり、車窓を開けた。外からは海の匂いと荒々しくも心地の良い風が感じられた。青年は深く息を吸い、右手を胸の高さまで上げた。そして、手から青白い炎を出した。それはみるみる形を変えてカラスくらいの大きさの鳥になった。それを見た男は青年を見て、言った。


「兄ちゃん、何する気だね?その刃格じんかくで。」


「刃格」それはこの世界の生物に与えられた力である。この地上に生息する実に73%の生物に備わっている。そしてそれを持つ生物は、とある事情により...

災禍ウイルスとされている


青年は車窓から男がゴミと言ったものを見つけ、それを左手で指差し、答えた。


「あれ見てくるんですよ。」


青年は鳥を手に乗せたまま車窓に足をかけ、飛び降りた。男は飛び降りた車窓から乗り出し、青年を探した。すると、先程出した鳥に片手で掴まって例のゴミに向かって一直線で飛んでいた。潮風を全身で感じ、青年は爽快感すら覚える。青年は場所に着くと気づいた。落ちてきたのはゴミでなく真っ白な棺だった。しかし、棺にしては少しメカニカルであった。そのせいか棺に傷が一つも無かった。普段は廃材や必要のない資料の山だったが今回は異例だった。


「いろいろ落下物を見てきたがこれは初めて

見るな。」


そう言った割にはあまり驚いていなかった。なぜなら今の世界ではイレギュラーが普通であるからだ。


その時一本の電話が入った。取り出すとスマホの画面には所長とあった。青年は電話に出る。聞き慣れた男の声だ。


「ナガメ!勝手に車窓から出るなって言っただろ!何回言わせるんだ!と言いたいところだが何が入っていた?聞かせてくれ。」


やけに楽しそうだった。実はこの業界での楽しみはこれくらいしかないのである。青年はスマホを耳と肩で押さえ、開けながら答えようとした。どうせガラクタしかないだろうと思いつつ開けようとすると手が触れた瞬間

ガチャと鍵が開く音がし、棺が開いた。少し煙が出てきたので手で払った。

そして、不覚にも驚いた。


「人。」


「え。マジ。」


「マジです。女の子が入ってます。」


驚きのあまり鳥に掴まっていた手を離すところであった。

少女は白い髪で検査衣のような服を着ていた。髪はちっとも濡れていないのを見る限り棺は相当高性能なものであると見た。人は大罪を犯すと落ちてくると誰かから聞いたことはあったが迷信程度にしか思っていなかった。次の瞬間少女の目が開いた。引き込まれるような澄んだ赤い瞳だった。


「え〜〜!」

二つ目の驚きだった。


「生きてます!」


返事は無かったが電話ごしに叫び声が聞こえる。突然少女は起き上がった。


「お腹がすいた。」


「へ?」


青年は電話で食事の用意をお願いし、少女を抱えるようにして鳥を使い戻った。2両編成のこの列車は2両目が休憩室になっている。青年はこの列車の職員でよく出入りしている。食事をそこで摂らせた。青年は丁寧に案内して冷蔵庫からおにぎりを出し、レンジで温めて出した。非常に緊張しているようだった、、、

青年が。もとより人間たちは、刃格を持つ刃格者じんかくしゃを武器であり感染症としか見ていない。それはこの世界では常識である。不敬なことをしたら死ぬことは間違いない。先程食事をお願いしたのもそれが理由である。青年のこの人生の中で一番綺麗な立ち方で待機していた。

少女といっても9〜11歳くらいに見える。そして、ボロボロ米粒を落としていて、食べ方はもっと幼く見える。


「ありがとう。」

少女はそう呟いた。


そして今の瞬間驚き三度目になった。


人間が刃格者に感謝なんてするわけがない。そう思っていた。それと同時に心のどこかで捨てていた期待が少し現実になった。そして、青年は思わず問いてしまう。


「なぜ、感謝を?」

すっかり自分の立場を忘れていた。無礼を働いたことは聴いた後に気づいた。少し間が空いた。その間は張り詰めた空気まで感じる。


「良いことしてくれたから。」

すると少女は座席の上で横になり、寝た。

よく分からない少女である。

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