太平の学園 ー 178

 この話は適切に独立デタッチしている。

 語り手の世界をハブに連なる放射状の委託世界。中心に渦巻くとぐろをほじると蟻が遡り、列を成す。その数およそ幾星霜の世代分にも及ぶ幾何級数的計算の果てに導かれた一つの数字、すなわち次の紋章である。


 皿


「漢の道、それは股ぐらにきのこを生やした雄の本懐なり!!!!」


 これはいかなる数字であるか。けだし想像し得るは、その文字のストライプ、これが永遠の魂の牢獄、その比喩たることである。


「神威の良いところは絶え間なき悪と表裏一体だったの。その一蓮托生の性格をひとたびに捨てようとしたのはすごく勇気の必要なことだったかもしれないけれど、そのために神威の心が傷つくなら、私が毎日、あなたの悪いところを一個、良いところを百個教えてあげたかったな。そんなに難しいことじゃないから」


 換言するに蟻の生命の一つ一つは一つの生命の超歴史的遷移に他ならないのだろう。生命の起源を辿る時、その歴史の原初に至ることは至極真っ当。しかしながらそれさえも蟻の行列の中央に過ぎぬことは留意されたし。それは輪廻という概念ともまた異なることを深く心に刻む必要がある。全ての者は道半ばで潰えて破壊の運命に身を委ねる。それは穏当な智慧によってよく観察するところの結論である。


「プライドは一度挫かれたら二度と元に戻すことはできないの。それを失った時、人は滑走か、分裂か、どちらかを選ばなければならない。私はあなたに後者を選ぶような間抜けであって欲しくはないの。それはあまりにも辛くて、自分にとっての唯一の幸いであり、他人にとってのおぞましい深淵であるのだから」


 漆畑経済という一人の生命がその股ぐらに屹立する塔を中心に超言語的破滅に至ったことは語り手としても慚愧の念に耐えない。彼が本来求められた役割を果たすことが出来なかったらのは彼が新たな生命の兆し、その人身御供となったことに全面的に起因する。一つの歴史が示すはずだった漆畑経済の運命は、一人の漢との対峙、その凄絶なる格闘と共にあった。そして漢は原始的ヒロイズムの論理ロジックに従って一人の女性を、忌憚なき表現を用いるのであれば、獲得するに至り、その経験を漢の道程を突き進むための試金石とすること、が堅牢な鉄の掟だったのである。その運命が覆されたことこそ、自由を偽作する桎梏の超越とはいかに起こり得るかを克明に記す一つの適例であることは疑いの余地もない。


「あなたと一緒にいると、心が楽だった。ただそれだけの、ちっぽけで、何にも特別じゃない、それだけのものをアタシはあなたに求めたの。特別だったのは、出会い、たったそれだけだよ。それだけがアタシたちの関係の中で特別と言える唯一のものだった。それを大切に抱えることって、そんなに悪いことなのかな?」


 けだし、いかなる言葉もその省察するところの寓意には慎重にならねばなるまい。然るにここにはいかなる恣意的な解釈の余地もない一つの言葉を使う必要がある。


 ジュタパ


「八朔と話しているとイライラしてきちゃうのは確かだよ。それでもイライラっていう感情の動きはあなたをコントロールしたいという私の傲慢な意志の表れでもあるんじゃないかな。それはきっと他の人に抱える何かとは違うんだと思うよ。私はあなたに頑張れとは言えない。だって頑張らせるのは隣にいる私なんだからさ」


 そう、そう言うに他ならない一つの視野狭窄的な道徳的規範こそが、この悲劇をもたらした決定的な要因たるのだ。

 物語の資格というものは一つのジュタパに基づき、己が内に抱える一つの問題に取り組んだ結果として、ジュタパの牢獄ゆえに、やはり、そこに運命への恭順を誓うことができなかった。


「神威さん、大丈夫ですか?」


 少年は振り返り、そこに平然と佇む運命の女性の姿を見た。

 そして廊下は卵で溢れた。しかしながら女性の興奮のためにそれらは全てハードボイルドなエッグの集積にならざるを得なかったのである。つまりそこからはいかなる生命も生まれることはない。それは人々の乾杯に用いる器の一つ一つになった。

 きひひひ。つまり語り手としてコントロールの余地があるのはこんなところだ。少年の胸の内に抱えた弱い心は運命の女性を介して再び蓋を閉ざされた。そうだ、君は強いマンとなれ。そして、fruitful and multiply.きひひひひ。


 少年は 思春期の痛みなど抱えることなく 生きて 死ぬ!!!!!!(川柳)


 きひひひひ。きひひひひ。






 きひ。


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