太平の学園 ー 176

「俺たちは破壊の民だ。俺たちは本質的に破壊しかすることはできない。創造はいつだって大人の仕事で、俺たちは大人の作ったものを解体して、その日暮らしを誤魔化していくしかないんだ。創造の権利を皆は責任と呼ぶし、俺らは責任の前で手をこまねく猫に等しい。にゃーお。俺らは徹底的に大人にコントロールされているんだ。

 だけどこうは考えられねえか。大人が責任を履行し、俺らの足枷を創造するならば、俺らは、俺ら自身だって破壊できるんじゃないかって。俺は生まれながらに死を定められた弱い人形だ。いずれそこには死の運命が待っている。死は破壊じゃないぜ。死は、運命の創造に他ならない。俺はバラバラであることこそ本質的に正しいんだ。そんな俺に与えられた権利は、破壊のみ。ならばやることは一つしかねえ。俺は俺を破壊する。そして皆とうまくやるよ。

 すまなかった。俺は、破壊の宇宙なんだ」

 少年のスピーチはクラスに沈黙を促した。やがて一人の少女が拍手を送ると、クラスからはまばらな拍手が湧き上がった。まずもって握手した一人の少女は、彼が敵対する猪原智真美に他ならなかった。

「脳みそが藁半紙でできている薄ら間抜けにしては手の込んだ演説ね。いいわ、私もあなたの言葉は信じることにしましょう。けれど文化祭はまた別の話。あなたがそれを言ったようにね。

 文化祭の出し物では、あなたを徹底的に破壊する。これはもう決定事項よ。あなたの言う通り、私にはもう破壊することしかできない。もはやなんの人間的しがらみも無くなった純粋な投票イベントとして、私たち、踊り狂いましょう?」

「当然だ。てめえの覚悟なんてたかが知れたものに俺たちの幸福が遮られる道理は無え。破壊のかぎりを尽くすまでやるぞ。ナイフは持ったか?」

「あの事件以来、凶器を学校に持ってくることはできなくなった」

「比喩の話だ。己の心にナイフを持って、俺たちは戦い合うんだ」

「……」

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