太平の学園 ー 175
朝礼が終わり、クラスが各々の休み時間を謳歌している折、少年は教壇に立ってクラスメイト全員に告げた。
「みんな、聞いてほしい」
クラスメイトは彼の真に迫る要求に一斉に恐怖の感情を促され、居住まいを正した。無論、全ての人間が彼に従うわけではなく、彼の本性の無害さを知っている者たちは彼なりの行動を静観し、単に彼を嘲り、侮り続けてきていた者たちはその言葉に面倒以上のレッテルを貼ることをそもそもしなかった。
様々な反応があることを承知で、少年は語りを始めたのだった。
「まずはみんなに謝罪をしなければならない」
予想だにしなかった彼の言葉にクラスが騒然となる。
「……俺ももはや具体的な例の一つ一つは忘れちまったけど、たぶん俺はいつの間にかみんなを罵倒してて、みんなを知らず知らずのうちに傷つけていたんだ」
茫然自失としているクラスメイトたちとは一線を画して、猪原智真美は腕組みをして自席で演説を見守っていた。アブラムは空気にそぐわない激しい頷きを見せていた。
「俺も少しずつ、ほんの少しずつだけど、大人になれそうなんだ。俺にとってこの一週間は、自分が生まれ変わるための期間だった」
少年は拳を胸に当て、能面のうちで目を瞑る。
「もうみんなを悲しませたりはしない! みんなのヒーローになるために、俺は頑張るよ!」
猪原智真美は小さくため息をついた。そして彼の語りに割り込もうとしたが、それについては別の男子生徒に先を取られた。
「ロングホームルームのためのご機嫌取りは終わりかい?」
男子生徒の嘲笑を受け止め、少年は押し黙ってしまった。すかさず猪原智真美が立ち上がったが、少年が手で制した。
「これは俺が解決しなきゃダメだ。気持ちは嬉しいけれど、お前は俺のママじゃないだろ?」
「種族が違うのだから当然よゴミ虫男」
少年は不敵に笑って「そうだな」と彼女の言葉を肯定した。アブラムは「ママは私だよ!」と突然に宣言したが、クラスメイト含め誰も言葉の意味を理解していなかった。
少年は改めて男子生徒との対話を始める。
「ロングホームルームのためのご機嫌取りか。否定はできないよ。一週間前のロングホームルームで起きた事件が間違いなく俺が変わるきっかけになったんだから」
「……」
「けど、そっちはそっちでちゃんと対策は考えたつもりだ。俺のことがどれだけ嫌でも、スペクトル・ヴィアンはもっと嫌なものだと感じるはずさ。だからこの勝負はもう、関係ないんだ。これは俺個人の問題さ」
少年は男子生徒にゆっくりと近付いた。そして、擦り寄られた男子生徒からのビンタを一つ食らって、マスクの下部が少しだけズレた。
そこには、人の口とは思い難い異形があった。
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