7-4.

 まぁ、この手の思い上がりは何を言っても通用しない。


 それに、学園までのバスが戻って来るのに後20分くらいだからとっとと終わらせなきゃねと思い、あたしは剛堂短髪クソ野郎に言った。



「そんだけ?」



 すると、剛堂クソ野郎はさらに口角を上げて言ってきた。


「そぉだなぁ……テメェに勝つって事ぁ俺様の方が強ぇって事だからなぁ……今日からテメェは俺様の『肉便器』にしてやらぁ。俺様が呼べばホイホイやって来て、ケツを向けるんだな」


 と言った瞬間、観客席にいる女子生徒がざわめき始める。その様子を見て剛堂短髪クソが言葉を追加した。


「それによぉ、テメェに勝つって事ぁ男の方が強ぇって事だからなぁ……女共全員を男共の都合の良いようにしてやるぜ」


 その言葉で女子生徒が憤慨し、あちらこちらで短髪クソ野郎に罵声を飛ばす。


 対して男子生徒からは、「「「おぉっ!」」」と歓喜が沸いた。


 思春期の男子がその手の話に食いつくのは分からないでもないけど、それが女子生徒の反感を買うってことが分からないもんかねぇ。


 それとも、クソ剛堂野郎に期待でもしてるのかな?


 ただ、その後ろの男子代表君が真剣な表情で声を出した。


「僕の名前は仮屋島輝星だよ、神之原さん。しかし剛堂君、それは暴力というものだ。相手の合意無くしてそのような行為はするものじゃないし、君の今の言葉は女性の尊厳を著しく阻害する発言だよ。もし本気でそんな事を言っているのなら、僕は見届け人を辞退させて頂こう」


「手遅れなんだよ」と、後ろを見ずに男子代表仮屋島君に言い、短髪クソ野郎はニタニタしながら視線あたしに向け上から下へと持っていく。


 観客席の方ではいつしか男子生徒と女子生徒がいがみ合いを始めていた。その先頭にハヅキチとなるぴょんが居たし、須藤ツインズもマイマイもさくらも言い争っている。


 あっちはあっちで頑張ってるみたいだから、こっちもそろそろやりますかねぇと思い、あたしは剛堂短髪クソに声を出した。


「もし、あたしが勝ったら……」


 と言ったところで、遮るように言い放たれた。


「のぼせ上がるなっ! テメェごときが俺様に勝てる訳がねぇだろうが! あぁっ!!!」


 そう凄んで来た短髪クソ野郎に、真中が意見する。


「それはおかしくないか剛堂。やりもしないうちから一方的に勝敗を決めるのは愚の骨頂だ。志乃はお前のくだらない賭けに乗るのだから志乃の条件も聞くのが筋だろう」


 すると、剛堂クソは明らかに不機嫌な顔つきになって真中に言う。


「何度も言わせるな! テメェなんざ相手にしてねぇんだ! 口を開いてんじゃねぇぜ、ボケがっ!!!」


「貴様は……」と言った真中にあたしは右手をあげて制し、先程の言葉を再び口にした。


「もし、あたしが勝ったら……」


 またしても剛堂野郎はあたしの声を遮る。


「口説ぇんだよクソがっ! テメェはそんな心配せずによぉ、俺様が呼び出した時にケツを向ける時の下着の色の心配でもしとけやっ!!!」


 すると、そこまで黙っていたカノっちが声を出した。


「貴方、いい加減になされたらどうですか! 貴方の言動……お下品この上ないですわっ!」


 とまぁ、お嬢様の精一杯の抗議に少し萌えてしまった。


 言われた本人はカノっちを見て、そしてツクを見て言い放つ。


「面白ぇ事を言うクソ女だなぁ。おぉし決めたぜ……コイツをぶちのめして着てるもん全部剥いで蹂躙じゅうりんした後は、テメェと香川の生き恥に奉仕させてやんぜ」


「貴方と言う人はっ!」と言って一歩前に出ようとしたカノっちを真中が左腕を出して止め、無言で前に出ようとしたツクをあたしが左腕を上げて制する。


「くっ……」と、珍しく怒りを顕にしたツクを横目で眺め、怒った顔も可愛いなぁと思いつつ、あたしは違う言い方でクソ野郎に言葉を出した。


「この勝負が終わったら、アンタはあたしの犬にする。あたしが呼んだらさ、例え爪楊枝一本持ってくる時でも尻尾振って来るんだね」


 その声に、いち早く反応したのは仮屋島代表君だった。


「止めるんだ神之原さん、こんな戦いは不毛だよ。君の経歴に傷が付くかもしれない」


 と言って一歩前に出ようとして、隣の有坂壁君に右腕を捕まれた。


「離すんだ有坂君、こんな試合に意味は無い。即刻中止を申し出ないと」


 しかし、有坂壁君は何も言わず握った手を離すことなくあたし達を見つめていた。


 有坂壁君はハヅキチの幼なじみと言ってた。だけどあたしとは初対面なだけに、そんな見つめられてもアイコンタクトは取れないんだけどねと思う。


 ただそんな中、視線を戻すとクソ短髪剛堂が身体を震わせていた。その表情は怒りでいっぱいになっており、そして目付きを鋭くして言ってくる。


「俺様には世の中にどうしても許せねぇ事がひとつある……それは、女が俺様に冗談を言うことだ」


 と言うと、クソ短髪の右腕にバチバチッと電気が走った。


 なるほど……


 この野郎の主要魔力は『雷』かぁ……と思いながらあたしは声を出す。


「犬の分際で面白い冗談を言うじゃない」


 その言葉を聞いた瞬間、クソが瞬時に身体を沈め、あたしに距離を詰めて左つま先を踏み込む。


 右膝が地面に着くか着かないかの高さまでガクンと上体を下げてから右腕を低く振りかぶり、低位置から外回しに伸ばしてくる。


 真っ直ぐに打ち込むパンチはインパクトの瞬間に肘を伸ばして一点に力をぶち当てる為、威力はかなりなものだけど、上下左右に避けられると隙が生じてしまう。


 対して、フックの様に拳を回し込むパンチは後ろか下にしか避けられず、後からやってくる肘が反撃の邪魔をする。けど、拳を振る距離が長くなるために動きが大きくなりやすい。


 響希の様にストレートパンチをいきなり打ち込んでくるのはスピードと一撃に自信があるのだろうし、この野郎が回し込むパンチを選んだということは持久力に長けてるのだろう。


 つまり、この短髪は一撃で倒す気はなく、どちらかと言えばなぶり倒す事が好きなタイプと見た。



 ホント、いやらしい男だ。



 そんな感じで眺めていると、いよいよ短髪の拳が電気をバチバチと放出させあたしの左斜め下から下顎目掛けて迫ってくる。


 クソ野郎の目付きは鋭く、あたしに視線を突き刺して離さない。


 大きく拳を振り回しているにも関わらず重心は安定させていて、下半身は全く動く事なく上半身だけを捻って右腕を移動させていた。


 その拳の起動は見事に半円を描き、拳の位置があたしの腰から上に持ち上げられる。更に左下顎に向かって来ようとした瞬間、あたしは動く。


 先程も言った通り、ぶん回し系のパンチは後ろに下がるかパンチの下に潜り込むしか避ける方法が無い。


 下に潜り込むとアッパーを喰らいやすく、後ろに下がれば逆の足で距離を詰められて反対側の腕を振り回される。


 更に後ろに行けば、また距離を詰められるのエンドレス。

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