6-9.

 驚愕のまま「そんなこと……」と、ツクママが呟き、それにあたしが答える。


「始めてあたし達が出会った時、ツクはあたしにこう言いました。『今度こそ負けません』って。それって家族の為に言った言葉でしょ? それにたった今ツクママ言ったじゃないですか、今日から戦いが始まるって、私は家で頑張るって。家族の為に頑張るツクが、今日から頑張るお母さんの為に頑張らない訳ないじゃないですか」


 そう言ってツクを見やり、そしてツクママに視線を戻して言葉を続けた。


「ツクママにとってお母さんやおばぁちゃんは強敵で、アリシア学園では『神之原』が強敵で、ツクママはそのふたりと戦うて言ったんだから、ツクにもそう言ってあげるといいと思います。そうすればきっと、大好きなお母さんの為に、大好きな家族の為に、今よりももっとずっと強くなると思いますから」


 そして、あたしは人差し指をピッと立ててウインクを飛ばしながら言った。


「それに、相手がふたりならこっちもふたりで頑張ったらいいじゃないですか。誰だってひとりじゃ生きていけないのと同じでひとりじゃ強くなれません。だったらふたりで頑張ればいいじゃないですか。同じ目標を持ったふたりなら相乗効果は覿面てきめんです。それが例えどんなに離れていても」


 あたしの言葉を真剣な眼差しでツクママは聞き入り、その横でツクも同じ表情で見てくるなかで、あたしはこんな言葉を出した。


「昔の人は言いました、『ふたりはひとりに勝る。彼らはその苦労によって良い報いを得るからである』ですよ」


 その言葉を聞いて唖然としてたツクママが突然吹き出し、そして大きく笑って言ってきた。


「ぷっ……フフッ……アハハハハハハッ! さすがは『神之原』ね、昔もここで同じ事を言われたわ。ニュアンスは違ったけど、一語一句違わないところなんか血は争えないって訳ね。でも、そんなことを言っててもいいの?この子、強いわよ」


 そう言ってニヤリと笑うツクママに、あたしもニカッと笑って言った。


「知ってます、だから同部屋にしたんです。それにあたし、負けません」


 あたしの言葉に満足したのかツクママはスッキリした表情でツクと対峙し、ツクの両手を取って力を込めて言葉を出す。


「勝ちなさい月詩、神之原さんに。そして私と一緒にあのふたりと戦うわよ。でもね、『神之原』は手強いわよ」


 その言葉を真正面で受け取ったツクも、力を込めて答えた。


「うんっ! 分かった絶対に負けないよっ! 一緒に頑張ろっ!」


 そんなふたりを、あたしとお母さんが微笑ましく見つめていた。


 すると、あたし達の後ろから飲み物をお盆に乗せたキラリんが戻って来てツクママに声を掛けた。そのタイミングが絶妙過ぎて、ただただ感心するばかりだ。


 何処かで見てた訳じゃないのに、出来る女はとことん違うところを見せつけられた様な気がしてならない。


「お飲み物どうぞ。それで椿ちゃん、今度お話しがしたいんだけど、お暇な時はある?」


 その言葉にツクママは眉をキュッと上げ、緊張の面持ちでキラリんに言った。


「それは構いませんけど、姫羅々先輩……ここでは駄目なんですか」


 ツクママは警戒心をキラリんに向けて言ったけど、当のキラリんは涼しげな顔で受け流し言葉を出してくる。


「あまり人のいるところで話せる内容じゃないから……ね」


 その言葉にツクママは、一層警戒心を強めた。


「それは個人的な事ですか? それとも……」


 すかさずキラリんが答える。


「『世界魔法統括機構』としての話です」


 と言われたツクママは警戒心から驚きの表情になって暫し、真剣な眼差しで言った。


「分かりました、早急に時間を取らせて頂きます」


 そんな大人の会話を眺めつつ、あたしはお母さんに声を出した。


「お母さんもあたしと同じこと言ってたってツクママが言ってたけど、どんなニュアンスで言ったの?」


 あたしの質問にツクも興味があるらしく、あたしと一緒にお母さんに視線を向ける。


「あたし達がぁ、入学したての頃だったかなぁ。上級生との合同訓練でアリーナに来た時ぃ、きぃちゃんとさっきの所で休憩してたのぉ。その時に椿ちゃん……月詩ちゃんのお母さんがやって来て『私は絶対に負けないから、例え2対1でも勝ってみせるから』って言われてねぇ。その時にぃ、志乃と同じ事を言ったのよぉ。椿ちゃん、凄く頑張ってたからねぇ。それにぃ、誰かと頑張るって大切だからねぇ」


 その言葉に反応したツクが、寂しげにあたしのお母さんに声を出した。


「あの……私のお母さんって学園で孤立してたんですか?」


 そう聞かれたお母さんは、首をユルユルと降って穏やかな声をツクに答える。


「そんなことぉ、全然無かったわよぉ。ちゃんと同部屋の子も居たしぃ。椿ちゃんはねぇ、学園では風紀委員をやってたしぃ、協調性もあってとても頼りにされてたのよぉ。ただぁ、グループ戦になった時は私やきぃちゃんと戦う時ぃ、絶対にひとりで向かって来てたのぉ。きっとひとりで頑張りたい理由があったのねぇ」


「そうなんですか、知らなかったなぁ」と、意外な表情になってツクが呟いた。


 その向こうで大人の会話をしていたツクママとキラリんが話を終えた様だ。



 その後、あたし達は飲み物を頂いてツクとツクママはアリーナの方に向かって行った。



「あのふたりならぁ、きっと乗り越えらるわねぇ」


 と、お母さんが呟き、そしてキラリんも言った。


「そうねぇ、今までが大変みたいだったからぁ、これからは報われるんじゃないのかなぁ」


 楽しげにそう言うキラリんに、あたしは両手を後頭部にあてて言葉を出す。


「そんなこと言ってさ、報われる何かをしてあげるお話をしてたんじゃないのぉ?」


 するとキラリんは、何気ない顔をあたしに向けて答える。


「何事もきっかけなのよぉ。後はぁ、彼女達次第ねぇ」


 と言って、ウインクを飛ばしてきた。



 はいはい、可愛いッス可愛いッス。



 その後も様々な家族がやって来ては写真撮影を求められて撮るんだけど、殆ど……


 と言うか、全ての母親はお母さんとキラリんとの撮影を望んでおり、子供達の方が撮影するという不思議な現象が続いた。



 今日と言う1日がこのままお祝いムードで終わればいいけど、こんな時に限って事件と言う奴はやってくる。さらに巻き込まれるのは決まってあたしなんだからタチが悪い事この上ない。


 とにかく、この後の事件で男子生徒と女子生徒に決定的な亀裂が起きる騒動が降り掛かってくるのだった。



 家族で過ごすまったりな時間はあっという間に過ぎ、大講堂やアリーナにバスの発車時刻のアナウンスが鳴り響いてから15分後。あたし達生徒は見送りのために大講堂前の駐車場に集まった。


 各々の親の乗るバスの前で手を振りながら、発車するバスを眺めている。


 最後のバスを見送った後、その場で施設担当の山部さんにバスが戻るまでの1時間は大講堂や周辺施設で待機をと告られた。


 あたしとツクとカノっち、マイマイとさくらで何処で暇を潰そうかと話している。と、突然あたしの後ろから声がぶつけられて来た。

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