6-8.
「ふふふっ」と、お母さんが微笑みながらもツクママの言葉は続く。
「そのお陰で在学中は学年選抜も女子選抜も2位を保てたし、姫羅々先輩が卒業した後は学園選抜でも2位にもなれたし。だけど母や祖母からはいつも怒られていたわ、どうして『神之原』に勝てないのかってね」
ツクママはその時の事を苦々しく思い出しているようで。そんな様子をツクはハラハラしながら見つめてると、ツクママが再び声を出した。
「それでも最近まであのふたりも大人しかったんだけど、紗瑠々の娘さんが月詩の同学年と分かった時からまた騒ぎ始めて。『必ず神之原はアリシアに行くから、次は絶対に負けるな』と言って月詩を西日本のあらゆる武術大会に出場させたわ」
と言ってツクママはツクをチラッと見て、そして言葉を出した。
「『解縛式』が終わった後の年末にあった西日本最大の魔法武術大会に出場した時、あの西日本最強と言われてた『有坂龍』を倒して優勝した時にアリシア学園の目にとまって、年始には無試験推薦を貰ってからもこの子は色んな対外試合に飛び入りで参加させられ、大変な思いをさせてしまったの」
そう言われたツクは寂しそうに俯いた。
でも有坂龍って……誰だっけ?
すると、ツクが慌てたように言ってきた。
「志乃と同じでステージに立ってたじゃない! ランキング5位の背の高いあの人!」
背の高い? 確かにあたしの左横に背の高い男子が居たけどそんな名前だったっけ? たしか……えっと……男子生徒代表君だっけ?
「
とツクに叱られたけど、叱る時のツクの表情……いい。
そんな会話の横でツクママの話は続く。
「元より『神凪家』も『神之原家』と同じで巫女の家系で魔力スコアも高い者が多かったけど、この子はその中でも飛び抜けた魔力スコアだったから母も祖母も期待が凄くて。中学を卒業してからアリシアの計測会に行くまでずっと特訓ばかりで辛かったでしょうに、この子はあのふたりの期待に答えようと必死にやってきたの」
その話を聞きいたツクは今にも泣き出しそうになり、身体を小さく震わせて俯いた。
「母も祖母も一安心した矢先、昨日のお昼すぎ……ちょうど私と母が入学式に向かうために空港に行こうとした時に月詩から電話があり、貴女の娘さんと同部屋になりたいと言ってきて。その声が聞こえたのか母も……特に祖母が激怒してしまって」
「我が家の事情は知ってるでしょう」と、ツクママに言われてたお母さんは涼しげに「えぇ」と答え、そしてまたツクママが語り出す。
「とりあえずその場をなんとか宥めて私と母は飛行機に乗って、こちらのホテルに入って電話をかけ直したけど、この子の意思は変わらず大喧嘩してしまって……」
そう言ってツクママは「はぁぁぁ……」と、溜息を吐いた。
そんなやり取りをやってる時に、あたしとカノっちがたまたま寄宿舎から出た瞬間、ツクの大声が聞こえたんだったかな。
あたしがそう言うとツクは勢いよくあたしに視線を向け、今度は恥ずかしそうに顔を赤くして俯いた。
こんな時でもブレない表情の多さに、庇護欲をそそられてしまう。
その場には暫く沈黙が流れ、そしてツクママはツクの肩に手を当てて声を出した。
「月詩、家の事は気にしなくていいから。神之原さんと同部屋になりなさい」
その言葉にツクはビックリしてツクママに視線を向け、そして言葉を出す。
「でも……昨日はあんなに反対してたのに……何で……」
ツクママは直ぐに答えた。
「あの時は近くにおばぁちゃんがいたのよ。そんな状態で許可なんて出せなかったの」
「でも……」と、ツクが呟くけど、ツクママは語り続けた。
「私だって分かっているわ、こんな事が筋違いだって事くらい。いくら自分達が言われのない事で責め立てられ、当時の人達のように矛先を全く関係ない人達に、『神之原家』に向けるなんてお門違いもいいとろこだわ。でもね、あのふたりはそうでもしないと自分達を保てないのよ」
そう言って目を瞑り、再びツクの目をしっかり見据えて言葉を続けるツクママ。
「私の知らない時代だったけど、あのふたりの話し方からでも悔しさが良く分かったわ。そんなふたりに私は意見をする事が出来なかったの。お母さんやおばぁちゃんの悔しさが……あのふたりを見続けてよく分かってたから、だから私が頑張るしかなかったのよ」
そう言ってツクママは苦痛の表情に変わり、それでもまた話し始めた。
「それももう、私の時代で終わりにしないとね。月詩には私と同じ思いをさせたくない、このアリシアで何にも捕らわれずに楽しんで貰いたい。私がそう思っても出来なかった事を月詩にはして欲しい」
ツクを見ながらそう言ったツクママが、今度はあたしに視線を向けて声を出した。
「貴女の演説、素晴らしかったわ。もし私が新入生だったら、きっと他の生徒と一緒に奮起してたでしょうね。それに貴女の言葉で私も下を向いてる訳にはいけないと思ったの。今変わらなきゃ、今やらなきゃもう次はないとも思ったわ。ここで変わらなきゃ『神凪家』は駄目になる、だから私は私がやれることをやらなきゃと思ったの。……だからお願い、月詩と仲良くしてくれる?」
その言葉を聞き、あたしが声を出そうとした時にツクが声を出してきた。
「でもお母さん、そんなこと出来るの? おばぁちゃんとひいおばぁちゃまだよ?」
と言って、心配そうに詰め寄った。
「大丈夫よ、あのふたりも振り上げた拳の納め方が分からないだけなのよ。きっと何か……何かのきっかけさえあれば、お母さんもおばぁちゃんもきっと笑顔を取り戻す日が来ると思うわ。だから月詩は何も心配しないで学園生活を楽しみなさい」
と、ツクママはそこでようやく優しい目付きでツクを眺めた。
「お母さん……」と呟くツクの目から涙が零れ、その涙をツクママが人差し指ですくって言葉を出した。
「泣いてる暇なんて無いのよ月詩、月詩も私も今日この場所から戦いが始まるの。月詩は学園で、私は家で頑張るわよ」
そう言って笑うツクママにツクが思いっきり抱きつき、ツクママも強く抱きしめる。
実に微笑ましく、実に強い絆で結ばれた親子なんだなって思っていると、ツク親子がゆっくりと抱擁を解いてふたり揃ってあたしを見てきた。
「志乃さん、月詩のことお願いします。そして貴女にも劣らない魔法使いにしてあげて」
と言って微笑むツクママに、あたしは言った。
「ツクママ、それは間違ってます。劣る劣らないで言えば、家族の為に頑張ってきたツクに比べると自分の為にしか頑張って来なかったあたしのほうが充分劣ってます。ツクより劣ってるあたしに劣らないようにって頼むのは堕落させる様なものです。それに、あたしにお願いするよりツクこう言った方がいいんじゃないですか?」
あたしの言葉に驚いたツクママに、あたしはこう言った。
「『神之原』に勝ちなさい…とか?」
するとツクママはさらに驚いた表情になり、その隣にいるあたしのお母さんはクスクスと笑っている。
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