6-7.

 おばぁちゃんは速攻型で対戦相手を秒で倒すという偉業は未だ世界最速を誇る。『セク・フィニッシャー・シャミン』の二つ名を持っていて、その人気は世界中でも不動のものがある。


 更におばぁちゃんのお母さんで12代目の当主が神之原羅々ららと言って、身長が180センチもあったらしい。その容姿は日本人形のような切れ長な目に、肌が雪のように真っ白だったとか。


 戦場に立てば、舞い踊るように敵を切り刻んでいたと。


 更にさらに、そのお母さんで11代目当主が神之原麗美れみと言って、正義が服を着て歩いていると言われるほどの正義感の持ち主だったらしい。


 豪快豪傑、討伐する『悪魔』は原型を残さないほどの破壊力だったらしい。


 こうして考えても癖が凄すぎる個性の持ち主ばかりで、変わり者が多いのが『神之原家』の当主の特徴だ。


「ホントにねぇ、たまに御先祖様の自叙伝を見せてもらってるんだけどぉ、書き方の個性が強すぎて書籍にすると売れちゃうかもって思うほど面白いのよねぇ。しないけどねぇ」


 と、キラリんが楽しげに言ってきた。


 でも、御先祖様の自叙伝とかは当主じゃなきゃ読めないんじゃなかったっけ?


 あたしの言葉に、お母さんが右手人差し指をピッと立てて言ってくる。


「当主じゃないとぉ、読めないんじゃなくってねぇ。当主にぃ、権限が与えられって感じかなぁ。元より『神之原家』ってぇ、そんなに堅苦しい一族じゃないしねぇ」


 そう言われると有難味が薄れちゃう。けど、考えてみれば『神之原家』の当主ってあたしが知ってる限り、言うほどしっかりしていない様な印象があるのは否めない。



 14代目当主のお母さんが強いのは、あたしも大いに認めている。


 いつもはフワフワしたおっとり系な人だけど、『悪魔』討伐となるとその様子は一気に変貌する。


 鉄壁の護りはどんなに大きくても、どれだけの数の『悪魔』であろうと最終防衛ラインを越えさせたことの無いほどだ。


 あの秒殺を誇るおばあちゃんが、唯一秒で倒せなかった人物でもある。


 ちなみに、キラリんは58秒で力尽きたらしい。


 まぁ、どちらにしろ勝てなかったみたいで。


 だけど、それをきっかけにおばぁちゃんはお母さんに当主を譲る事を決めたと言っていたのは前に説明した通り。


 とは言え、根っからのふんわり系で天然で。


 しかも残念な程のスピード狂なお母さんなだけに周りの協力、特にキラリんのサポートのお陰で当主が成り立ってるようなもんだし。



 おばぁちゃんにしたって若い頃は売られた喧嘩は絶対買うし、戦場に出ても敵を見れば襲いかかる特攻型。自身が動けなくなるまで戦い続けるものだから、おばぁちゃんの妹さんからいつも叱られていたらしい。


 それに、12代目のおばぁちゃんのお母さんは人に優しく自分には凄く厳格で。常に背すじを伸ばして無駄の無い所作を心掛けていたとか。


 ただ、外出時に自らの靴下の高さが左右合ってないと言って定規を出してまで測ったり、靴の紐が左右対象になってないと言っては何度も結び直したり。


 戦場でも倒し方の美しさを求めるあまりに、満身創痍になるまで戦い続けていたみたい。


 なのに我が子にはすこぶる甘く、そんなところもおばぁちゃんが受け継いでいるようだ。


 そんな性格なもんだから、12代目のお姉さんと妹さんは気苦労が絶えなかったらしい。



 その先の当主の話はあまり聞いた事がないから、機会があれば是非聞いてみたい。


「そうねぇ、そのうちねぇ」と、お母さん。



 そんな一族の話しで和んでいると、あたし達の横を通り抜けてアリーナの方に3人の女性が向かって行くのが見えた。


 その中のひとりが、あたしとカノっちの同部屋になるツクだと確認できる。


 ツクも「あっ……」と言ってあたしに気付き、その横でツクのお母さんらしき人もこちらを向いてハッとした表情になった。


 更に、その横のおばぁさん、多分ツクのおばぁちゃんはこちらに冷たい視線を送りながら声を出す。


「私はアリーナの見学に行ってくるからね。月詩……負けるんじゃないよ」


 と、険の籠った言葉を残してアリーナの方に歩いていった。



「紗瑠々さん、お久しぶりです。お元気にしていましたか?」


 と、よそよそしい感じでツクママがお母さんを睨みつけ、さらにキラリんに視線を向けて言葉を出した。


「姫羅々先輩もお久しぶりです。日頃の『世界魔法統括機構』でのご活躍、拝見しております」


 と、キラリんにも同じ感じで言う。


「お久しぶりね椿つばきちゃん、お元気そうでなによりねぇ」と、キラリん。


「ホントお久しぶりぃ、元気にしてたぁ」と、お母さんが微笑みながら言ってるところを、ツクはハラハラした顔でオロオロしていた。


 ただ、ツクママはお母さん達よりも何故かアリーナに向かうツクのおばぁちゃんを気にしているらしく、そちらの方ばかりをチラチラと見ているようだった。


 いよいよツクのおばぁちゃんがアリーナの入口に着いた時、にこちらに向き直り声を出した。


「挨拶は住んだのかい椿? だったら早くこっちに来て案内しておくれ」


 と言うツクのおばぁちゃんに、ツクママが声を出す。


「そこ入って左側にドリンクコーナーがあるからお茶でも飲んでて。直ぐに行くから」


 その声を聞いてツクのおばぁちゃんはアリーナに入り込んで行き、あたし達に視線を戻したツクママが大講堂裏の扉を指さして言葉を出す。


「中に入りませんか」


 それだけ言って目の前の扉を開けて入って行き、それに慌てたツクも追いかけるように大講堂に入って行く。


「行きましょぉ」と言ってお母さんとキラリんが続く。あたしは一度アリーナを見て、それから大講堂に入り込んだ。


 そこにも学園側が用意してくれていた休憩用のテーブルがあって、その前に全員が立ってあたしを待っていた。


 あたしがテーブルに着くと、キラリんが「お飲み物持ってくるねぇ」と言って歩いていく。


 この辺の配慮は流石だなと思って歩いていくキラリんの後ろ姿を眺めていると、ツクが恐る恐るといった感じで声を出した。


「あの……えっと……お母さん、その……ね、私は……」


 と言ったところでツクママが大きく溜息を吐き、そして先程のかしこまった言い回しでは無い口調で言った。


「はぁぁぁっ……さっきは変な挨拶の仕方でごめんなさいね紗瑠々。お母さんがいる手前、あんな態度を取るしかなくって……」


「いいのいいのぉ、気にしてないよぉ」とお母さんが言うけど、お母さんとツクママってライバル関係なんじゃなかったっけ?


 そんなあたしの疑問に答えてくれたのは、ツクママだった。


「ライバル関係なんてとんでもない。私がどんな努力をしたって彼女の背中には到底届かなかったわ。ただ学園時代はその背中を見失わないように必死になってたから、周りにそうな風に見られていたのは確かだけれど」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る