6-6.

「なんだかぁ、懐かしいわぁ。私達も在学中に大講堂に来た時はぁ、この場所できぃちゃんとお話してたわぁ」


 と、アリーナ前に置かれていたサンドイッチを頬張りながらお母さんが言った。


「そおねぇ、学園内や寮ではなかなか会えなかったからぁ、合同使用の時はいつもここに居たわよねぇ」


 とキラリん。


 年子なふたりはとっても仲良しで、今日の衣装も合わせた様に上下グレーのビジネススーツを着ている。


 ハビットシャツと言う胸元をフリル状にさせたブラウスに、足元は目立たない黒のパンプス。右胸のコサージュはふたり共ピンクとホワイトのバラが厳かに主張していた。


 違いがあるとすれば、お母さんはハンドバッグでキラリんはシルバーチェーンのショルダーバッグを携えているくらいのものだろう。


「でも、キラリんは毎年3回はアリシアに来てるんじゃなかった?」


 すると、キラリんはあたしにウインクを飛ばして言った。


「それはそれでぇ、これはこれねぇ」と言って微笑み、そしてお紅茶入のカップを持ち上げて呟く。


「皆んな制服かわいいわねぇ。私達の頃とは若干デザインが変わってるのかなぁ」


 と言ったキラリんがアリーナ前にいる生徒を見ながらお紅茶を啜ると、お母さんもそちらを眺めながら声を出した。


「あ〜〜〜あぁ、わたしも制服来てくればよかったぁ」と……


 確かにお母さん……このふたりがアリシアの制服を着たら、ひょっとして少し大人びた上級生で通るかもしれない。


「それ、面白そうだね。やってみない?」


 と、あたしは冗談めかしながら言うと、お母さんが残念そうに言ってきた。


「それがねぇ、昨日久しぶりにクローゼットから引っ張り出して着てみたんだけどぉ。胸元はボタンが届かなくなっちゃってるしぃ、スカートもウエストは留まるんだけど丈が短くなっちゃてるみたいでぇ、お尻の下が見えそうになってたのぉ」


 ほぉほぉ……


 つまり何ですか? 子供4人も産んでおきながらウエストは学生時代のままで、更にお胸とお尻が張り出したと言うことですかな?


 卒業してから23年も経つのに当時のウエストと変わらないとは。


 とんでもないアラフォーもいたもんだと思っていると、キラリんも言ってきた。


「私も着てみたけどぉ、胸元は留まらないしスカートは折り込みが無くなってぇ、きちんと入るのはウエストくらいだったかなぁ」



 いや、着たんかぁい!



 そう突っ込みつつも、あたしはため息を吐いて呆れた様に声を出す。


「はいはいOK了解分かりました! 貴女方のナイスバディは進化中なのでしょう、羨ましいことこの上ないっスわ」


 そんなボヤ入れてお紅茶を啜るあたしに、キラリんが声を出す。


「でもぉ、志乃も身長が伸びたみたいだしぃ、胸も大きくなったんじゃないのぉ」


 確かに去年の12月に測った時は162センチだったけど、昨日の身体測定の時には167センチになっていた。


 ただ、去年の夏あたりからCカップブラがきつくなったかなぁって思ってたけど、最近はそれが気にならなくなっている。


「多分、お胸に着くはずの養分が由乃に吸いまくられちゃったみたいで、由乃の成長の方が著しいみたいなんだ」


「きっと由乃の方が大きくなるね」と言って3人で微笑んでいると、あたし達の傍にふたつの人影がやってきた。


「あの、神之原紗瑠々しゃるるさんですよね? まぁ……姫羅々きららさんまで……」


 と言って、祝辞用のベージュのセットアップスーツに黄色のコサージュを付けた、見た目から上品そうな女性が現れた。その後ろからカノっちが顔を覗かせる。


「ごめんなさいねぇ志乃、おくつろぎ中どうしてもお母様が御挨拶したいからって。よろしいですか?」


 カノっちがそう言うと、あたし達もスっと立ち上がってお母さんが軽くお辞儀を、キラリんは一歩下がって会釈をする。


 さすがは『世界魔法統括機構』の理事長だけあって瞬時にわきまえ、何時ものフワフワ感が消滅する程の切り替えの速さだ。


 できる女の鑑だね。


「初めまして、私……」と言ったところで、カノっちのお母さんが両手を突き出してブンブン振りながら制して声を出す。


「いえいえ、挨拶なんてそんなそんな! 私、存じておりますから! それはもうメディアや雑誌やポスターにパンフレットやSNSで毎日確認していまして。私、歌音の母で神楽坂舞歌まいかと申します」


 そう言って深々とお辞儀をした後、素早く体制を戻して話し始める。


「私……いえ、我が家の者は皆『神之原家』のファンでして、昔から『神之原家』の方々の活躍を見るのを楽しみにしていて。私的には姫羅々さんや紗瑠々さんの戦い方も宜しいのですが、子供の頃から見ていた沙弥しゃみさんの爽快な戦い方が大好きで……あっ、私の母も同じく沙弥さんのファンですが母は神之原羅々ららさんの優雅でキレのある戦い方を見るのが大好きだと……ただ、私の祖母……歌音の曾祖母は神之原麗美れみさんの正義感溢れる豪快な戦い方が忘れられないと言っておりまして」


 そこまで言うとカノっちがカノっちママの上着を引っ張って声を出した。


「ちょっと、お母様! そのくらいにして下さい! 恥ずかしいではありませんか」


 すると、カノっちママはハッと我に返り恥ずかしそうに言ってくる。


「申し訳ありません、私としたことがつい……えぇとそれで、うちの歌音がお嬢様と同部屋になると聞きまして、せめて御挨拶でもと思い、お邪魔させて頂きました」


「すみません」と、再び深々とお辞儀をするカノっちママにお母さんは言葉を出す。


「いえいえ、問題有りません。何時も気にかけて頂いて本当に有難う御座います」


 こちらも何時もの喋り方から余所行きの話し方に切り替えるあたり、ホントこの姉妹はよく似てるしよく出来るし。


 それに、カノっちママから一緒に撮影して欲しいとの要望にも営業スマイルで応じ、カノっちママはスマホをカノっちに渡して何枚も撮っている。


 最後にあたしとカノっちのツーショットで撮影が終わり、親同士の会話の後でカノっち親子はアリーナの見学に向かった。


「いやぁ、カノっちの所は熱狂的『神之原』ファンって聞いてたけど、あたしの知らない事まで良く知ってたねぇ」


 すると、お母さんも感心したように言ってきた。


「そうねぇ、お母さんやおばぉちゃんの名前以外にぃ、11代目の名前が出てくるなんてねぇ。驚きねぇ」


 ちなみにあたしのお母さんは『真・神之原流体式術』と言う古くからある武術道場の次期師範であり、現神之原家14代目当主。


 13代目当主が神之原沙弥しゃみと言って、あたしや妹の由乃が大好きなおばぁちゃん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る