6-3.

 っと言ってハヅキチが小走りにトイレから出ていくと、奥でトイレを済ませたツクがやって来て不思議そうにハヅキチを見送った。


 それからあたし達も講堂内に戻り席に腰掛けて前を見ると、先程までステージの真ん中にあった演台が右横に移動されているのが見える。


 そこにはグレーのビジネススーツで、此処からはなんの花かは分からないが胸元に真っ赤なコサージュを付けた女性がタブレットを弄りながら佇んでいた。


 それから暫くして、その女性がマイクを取り上げて声を出す。


「えぇ、静粛にお願いします。私は、当学園の全学年魔法体術の総合担任、眞鍋杏里まなべあんりと申します。主に魔法武術大会での主要責任者であり、学園女子F選抜チームの監督を任されています。生徒の皆さん、これから3年間よろしくお願いします。さて、これより2日前に行われた魔力計測会で測定された『打撃』『蹴り』『放出魔法』の数値と、当日のクリアポイントを合わせた『第一期1年生ランキング』を発表いたします。時間の関係上ここでは総合選抜トップ10と男女選抜トップ7の発表となり、残りは講堂入口前のモニターに掲示いたしますのでご確認お願いします」


 その声を聞いて講堂内がざわつき始め、それを制するように総合担任の眞鍋先生が声を出す。


「お静かにお願いします。早速ですがランキングの発表と参ります。なお、このランキングは10月の『ランキング入れ替え戦』まで変動致しません」


 そう言って眞鍋先生は顔を上げ、講堂内を見渡してから声を出した。


「では第10位からの発表です。名前を呼ばれた生徒は速やかに登壇してください。それでは新入生『第1期一年生ランキング』第10位、打撃数値60000、蹴り数値58000、放出魔法数値105000、クリアポイント469……那須裕二」



「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」

「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」

「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」



 その瞬間に、男子生徒側から拍手が起こった。


 最初に呼ばれたのが男子だけに男子生徒は湧き上がり、女子生徒は静まり返る。


 もうすでに戦いは始まってるんだと実感出来る瞬間だった。


 程なくステージ上に男子生徒が上がり、左端に立つように指示されて眞鍋先生の声が続く。


「第9位打撃数値62000、蹴り数値60000、放出魔法数値109000、クリアポイント465……菜園場葉月」



「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」

「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」

「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」



 すると今度は女子生徒から拍手が沸き起こり、その真ん中あたりから雄叫びが聞こえてきた。


「うっしゃぁぁぁっ! 来たで来たでぇぇぇっ! ウチの時代がとうとう来たでぇぇぇっ! ビリケンさんの足掻いてきたご利益が出よったでぇっ!」


 と言ってハヅキチが立ち上がり、意気揚々とステージに上がる。と、保護者席から大声が発せられた。


「よぉやったで葉月ぃっ! 今宵は通天閣を虹色に染めたってお祝いじゃぁっ!」


 と、多分ハヅキチのお母さんだろう、大阪人のノリで会場を湧かせた。


「おおきにお母ちゃん、頼んだでぇ」と言って、右腕ごとブンブン振りながらハヅキチは男子生徒とは逆の右端に立ち、眞鍋先生の声が続いた。


「第8位、打撃数値66000、蹴り数値62000、放出魔法数値120000、クリアポイント478……神楽坂歌音」



「「「「「おぉぉぉぉっっ!!!」」」」」



 女子生徒側から拍手と共に歓声が上がる。


 その中をカノっちがお嬢様らしくしなやかで、それでも堂々と胸を張ってステージに上がり男子生徒の横に立って講堂内を笑顔で見回した。


「第7位、打撃数値70000、蹴り数値65000、放出魔法数値125000、クリアポイント479……斑鳩響希」



「「「「「おぉぉぉっっっ!!!」」」」」



 カノっち同様に拍手と歓声が湧き上がる中、立ち上がって移動する響希。


 ステージに上がった響希はハヅキチの隣に立ち、厳しい目付きを会場内に向けている。


「第6位、打撃数値79000、蹴り数値70000、放出魔法数値140000、クリアポイント480……剛堂牙門」



「「「「おぉぉぉっっっ!!!」」」」



 男子生徒側から女子生徒よりも大きな歓声と拍手が上がり、ステージ上に如何にも柄の悪そうな男子生徒がカノっちの横に立ってカノっちを睨みつけている。


 それをカノっちは涼しげに無視して前を見続けていた。


「第5位、打撃数値84000、蹴り数値80000、放出魔法数値145000、クリアポイント481……有坂龍」



「「「「おぉぉぉっっっ!!!」」」」



 またも大きな歓声と拍手が沸き起こる中、登壇した生徒の中でも頭一つ高い男子生徒が現れた。


「第4位、打撃数値88000、蹴り数値85000、放出魔法数値149000、クリアポイント488……神凪月詩」



「「「「うおぉぉぉっっっ!!!」」」」



 もう歓声よりも絶叫だろうという大声と共に、一段と拍手と歓声が大きくなる女子生徒。


 そんな中を、顔を真っ赤にしたツクがトテトテと登壇する。


「第3位、打撃数値88000、蹴り数値86000、放出魔法数値149000、クリアポイント489……乃木真中」



「「「「うわぁぁぁっっっ!!!」」」」



 そんな歓声を受けた真中は何事も無かった様に、悠然と微笑みながらステージ上を歩いていた。


 さすがは上に立つ者だなと、あれが自然に出来るのが帝王の風格なんだろうなと感心してしまった。


「第2位……」


 と、ここで眞鍋先生がチラリと講堂内を見渡し、そして言葉を出した。


「打撃数値395000」


 その瞬間、講堂内からどよめきが沸き上がる。


 それも当然、真中達よりも桁が一つ違うどころか4倍以上の数値に驚かない者はほぼ居ないだろう。


 講堂内は、その後の眞鍋先生の言葉を待つために静まり返った。


「蹴り数値380000、放出魔法数値600000、クリアポイント491……仮屋島輝星」



「「「「うおぉぉぉっっっ!!!」」」」



 男子生徒のボルテージはMAXを振り切ったように絶叫と拍手が鳴り響き、ステージ上には先程も上がっていた男子生徒が背の高い男子の横に立った。


 ステージ上は右側に5人、1人分の間を開けて左側に4人が立っている。


 そして最後の1人……を呼ぶ前に、眞鍋先生はこんなことを言ってきた。


「前日の魔力測定で、測定器が計測中に損壊致しました。しかし、調査の結果、正常な数値計測後に損壊しておりましたので数値は正常に計測されたと判断し、本日の発表になった事をご報告致します」


 講堂内の保護者席からはどよめきが、男子生徒は静まり返る。そして女子生徒の視線が一気にあたしに降り注いど。



 いやもう、苦笑い以外に出来ることがあるなら教えて欲しいもんだね。



 その後、眞鍋先生の声が講堂内に響き渡った。


「第1位、打撃数値1000000over、蹴り数値1000000over、放出魔法数値5000000over、クリアポイント999+……神之原志乃」

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