入学式

6-1.

 開けて翌日の午前6時30分、朝食を取りにフードコートに降りた。と言ってもフードコートが開いているわけではない。


 今日で寄宿舎から移動する為に朝から利用出来なくなると事前に聞いていた。


 だから入口付近に置いてあった牛乳やらコーヒーや野菜ジュースからコーヒーを持ち上げ、各テーブルに名札と共に置いてあったサンドイッチを頂いた。


 その後、あたし達は学園専用のバス6台に乗り込んで30分の移動を終え、『私立アリシア魔法学園』の大講堂に降り立った。


 とは言え、この施設は学園の祭典や催し物がある時だけに使用される施設らしい。そこら学園までの正門にもなっていて本校舎はこれより更に奥にあるらしい。


 女子校舎はバスで10分上りに、男子校舎はバスで20分下りに移動しなければならないとのこと。


 大講堂内は向かって右側に女子生徒用の待機所があり、左側にも同様に男子用の待機所がある。


 大講堂の広さは室内で陸上の400メートルトラックがすっぽり入る大きさだ。


 ちなみに、大講堂の裏側には国内最大級の収容人数8万人のアリーナがある。国内外の魔法武術大会にも使用され、アリシア学園の名物となっていた。


 その周りには大小のアリーナや訓練場があって、申請すればいつでも模擬戦や対戦が出来るようになっているらしい。



 ふと、左側を見ると、学園専用のバス6台が止まっていた。どうやら男子生徒達は大講堂内の待機所に収まっているらしく、バスの中には運転手すら居ないようだ。


 あたし達は全員正門に向かい、昨日の約束通りひとりずつと写真を撮った。



 もちろん響希とも。



「おばあちゃん、喜んでくれるといいね」っと言うと、響希はそっぽを向いて答える。


「ふんっ! 馴れ合いはこれまでだ」


 と言って、大講堂の方に向かって行った。



 撮影をしている間は誰一人男子生徒と会うことがなかった。後から男子生徒は全員アリーナの見学に行っていたと、要らぬ情報が女子生徒の足元ですり潰された。


 程なく写真を撮り終えたあたし達も大講堂の待機所に入り込み、全員が揃ったところで式典の説明が始まる。


「皆様、おはようございます。並びに『私立アリシア魔法学園』の御入学おめでとうございます。本日も私、『私立アリシア魔法学園』施設担当部職員、山部由加里やまべゆかりが本講堂で行われる入学式の説明を行わせて頂きます」


 そう言って4日前に寄宿舎の説明をしてくれた山部さんが、一段高い場所でマイク越しに話し始めた。


「午前9時30分より大講堂に入場し、新入生男女全員が揃ったところで式典が開始されます。挨拶には『私立アリシア魔法学園』から理事長、学園長、学年担当主任、各クラス担任。来賓からは内閣総理大臣、福岡県知事、北九州市市長。世界魔法統括機構から理事長が登壇され、40分程度予定されています。その後、在校生の生徒会会長、3年生代表、2年生代表の挨拶があって、最後に1年生代表が挨拶を行ない、その場で学園長より入学証明証を授与されて入学式が終了します。終了予定時刻は11時となり、終了後は休憩を挟んだ後に、前日に行われた魔力測定会を元にした『第一期1年生ランキング』の発表に移ります。この時に魔法測定会で計測された『打撃』『蹴り』『放出魔法』の総合数値発表も同時に行われます」


「以上の説明ですが何か質問は御座いますか?」と、施設担当職員の山部さんが言う。と、直ぐに手を挙げる人物がいて質問をはじめる。


「1年生代表の挨拶とあったが、もう既に代表は決まっているのだろうか? 差し支えなければ教えて欲しい」


 と、真中が立ち上がって言った。


 誰に対してもブレない話し方なんだけど、何故か嫌味にならないのは上に立つ者特有のオーラか何かがあるのだろうかと思ってしまう。


 すると、山部さんはこんな言葉を真中に返した。


「学園側からは、乃木真中さんか真浄寺咲菜さんのどちらかと指定されております。どちらが壇上に行かれるかは、皆さんで相談して決めてくださいとの事です」


 と言われ、どよめきが待機所に沸き立つ。そこで直ぐに挙手した紗奈が立ち上がって言葉を出した。


「学園側の指定には少々疑問が残ります。しかし、私と乃木さんのどちらかとするならば、総合的見解の元で私は乃木さんを推薦いたします」


 いやまぁ紗奈が何を言いたいのか分からないでもないけど、でも確かに1年生代表は真中が適任かなってあたしも思う。


 別に紗奈がどうのと言うより、風格を考えるならばって事だけど。


 その提案を全員が賛成して真中が1年生代表となり、そしてあたし達は大講堂に移動して行った。


 大講堂の入口は5ヶ所あって正面入口と両側面に2ヶ所、ステージ横に2ヶ所ある。


 あたし達女子生徒は右側側面の入口から、男子生徒は左側側面入口からの入場で、側面入口に着くまでに男子生徒と会うことが無い作りになっている。


 入口には上級生が待機していて扉を開くタイミングを待っている様だった。


 大講堂内ではBGMが流れており、司会進行役の女性の声が聞こえてくる。


 入場の順番は寄宿舎で割り振られた番号の大きい順となっており、1番のあたしは最後に入場する様になっていた。


 大講堂内のBGMのボリュームが上がり、扉の前の先輩生徒が入口の引手に両手を掛けて身構る。


『生徒入場』のアナウンスの声と共に扉を引き、先頭の生徒から入場して行く。


 講堂内に響くのは式典用のBGMと思いきや、先輩生徒のブラスバンドの演奏だった。


 正面入口側に1列となって演奏していた。その前面の保護者から大きな拍手が新入生を向かえてくれる。


 右側からは女子生徒が、左側からは男子生徒が入場。講堂の真ん中から縦に座り1列が埋まれば外側の列を前面から埋めた。


 そして、最後のあたしは入口側の1番後ろに着席して入口が閉められる。


 大講堂の中ではブラスバンドの曲がクライマックスを迎え、シンバルの音で演奏が終わって講堂内が静まり返った。


 ちなみに、全国放送のテレビ局のカメラが所々に配置されている様だ。


 司会進行はどうやら先輩生徒が担当していたようで、その先輩生徒の号令で起立から礼や着席を済まる。そしてステージの壇上に初老のおばさん、『私立アリシア魔法学園』の理事長が登壇しスピーチを初めた。


 4分程の話しを終え、次に初老と言うには若く見える女性が登壇する。


『新入生の皆さん、並びに保護者の皆様、本日は『私立アリシア魔法学園』入学おめでとうございます。私は当学園学園長の仮屋園朱里かりやぞのしゅりと申します』


 マイク越しからでもわかる声の力強さは、先程の理事長とは比べ物にならない。一番遠く離れているのに気の巡りが良く見える程で、只者では無いことがよく分かる。


 理事長同様で約4分の挨拶が終わり、残りの学園側の挨拶が修了し、次は内閣総理大臣の登場だ。


 まぁ、この『私立アリシア魔法学園』は世界的にも有能な魔法使いを排出し、政府の外交に一役買っているとあっては無視することも出来ないらしい。


 毎年入学式と卒業式には必ず総理大臣がやってくるようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る