5-5.

「お母さんだって自分の知らない時の事なんだから、ひいおばぁちゃまやおばぁちゃんの様に一緒になって言わなくてもいいのに。でも、四国にいて香川県の以外の人に『神凪家』って分かった時から誹謗中傷ばかり受けてきたから、結局ひいおばぁちゃま達と同じ考えになっちゃって……お母さんなら私の気持ち分かってくれるって思って志乃達と同部屋にするって言ったら凄く怒って……『そんなんで『神之原』に勝っても寝首を取ったみたいに言われるから辞めなさい』って言われて、それで私も頭にきて……声を荒らげちゃった」


 その瞬間を、あたしとカノっちが聞いたってわけか。


 そしてツクは、寂しそうな表情に戻り言葉を出す。


「私だって悔しいよ。55年も前の事だし、作戦が失敗したのもひいおばぁちゃまのせいじゃないし、その後の事も『悪魔』の仕業で完全にひいおばぁちゃま達は悪く無いのに……言われのないことを産まれてなかったお母さんも私も言われ続けて、悔しいよ。でも、私はお母さんみたいになりたくなかった……ううん、ひいおばぁちゃま達みたいになりたくなかった。人を憎んでも恨んでも強くなれないと思うし、人を見返すだけの強さに何の意味もないって私は思うし!」


 そう言った後、少し黙る時間があって再び声を出す。


「治癒魔法のおばさんが言ってたんだけどね、昔のひいおばぁちゃまは本当に誰にでも優しくて頼りがあって、おばぁちゃんも何時も笑顔で元気な子だったって。それなのに私が物心ついた時からずっと厳しくて、唯一優しかったお母さんも今ではひいおばぁちゃまと同じになっちゃって……」


 ツクはハンドタオルを顔に押し付けて暫し。ゆっくりとハンドタオルを離して話し始めるけど、今までと違って強い決意のある表情で言ってくる。



 ただ、ハンドタオルに付いた鼻水が……とは言えない。



「私ね、実家を出る時に決めた事があってね。ひいおばぁちゃま達のやり方じゃない方法で『神凪家』に向けられる誹謗中傷を無くしたいって。それで昔の様にひいおばぁちゃま達に笑って貰えるようになるんだって。だから私、志乃と同部屋になる……なりたい! 悪くもないのに責められたことの矛先を、全然違う人に向けるのは間違ってるって分かってもらいたいの。間違ったままでこの先も過ごして欲しくは無いの。……まだお母さんは了承してくれてないけど、でも了承してくれなくってもいい。だってアリシア学園で生活するのは私なんだから!」


 そう言ってツクは胸元で両手で拳を作って「ふんっ!」と、意気込んであたしに視線を向ける。



 なんだろう……


 カノっちはカノっちで『神楽坂家』の為に頑張るって言って、ツクはツクで『神凪家』の為に頑張るって。


 何だかすごい決意を見せつけられ、さて、あたしは『神之原家』の為に頑張ってるのかなって考えて……


 いや、止めておこう。


 いくらあたしが『神之原家』の事を考えたって、現在14代目のお母さんの邪魔になるだけだろうし。あたしはあたしで今やれる事を一生懸命頑張るだけだし。


 だから、頑張る者同士で助け合いながら頑張って行けりゃいいかなって思ってあたしは声を出した。


「もちろんだよ、きっとカノっちもそう思ってる。だから3人でいっぱいお話しながら頑張ろっ!」


 そう言って、あたしは右手をツクにズイッと差し出す。


 あたしの右手を見てツクの目はキラキラと輝き出して、そして決意を込めた視線に変えてあたしの右手を握って言った。


「うんっ! 頑張ろうねっ!」


 と言って満面の笑みに変わるツク。


 そろそろ理性にも出ていって貰ってこのままベッドに引き込んで、ムフフなタイムに突入しようかと思った瞬間に部屋の扉をノックする音が聞こえた。


 コンコンッ!


 これからいいトコなのに、あたしの邪魔をするなんてふてぇ野郎もいたもんだ。そう思い、あたしは左手でスマホを持ち上げ時間を見ると、午後9時45分の表示が見えた。


 もう直ぐ消灯時間じゃないかと、このまま無視をぶっこいてツクとムフフなエチエチタイムを……


 と思っていると、再びノックする音が聞こえた。


 あたしは口を尖らせながらスマホをベッドに放り、ツクの手を離して扉に向かって「はぁ〜〜〜い?」と不機嫌な返事をする。


 すると、扉の向こうからこんな声が聞こえてきた。



「志乃ぉ? ツクとのお話しは済ましたかぁ? そろそろ入寮の手続きに行きませんと叱られてしまいますよぉ」



 っと、カノっちが呼び掛けて……


 あたしとツクは目を合わせた後に慌てて扉を開けて、そこに立っていたカノっちと3人で1階まで降りてロビー横の職員詰所に行く。と、数名の生徒が入寮手続きの最中だった。



 なんとか消灯時間前までに入寮手続きを終え、あたし達は寄宿舎最後の夜を各々過ごす為に自室に戻る。


 そしてあたしはシャワールームの鏡で制服を整え、そのまま由乃とリモートを始める。


 画面が繋がった瞬間に由乃の絶叫に迎えられ、30分間色んなポーズをさせられてリモートを終了した。その後、親友グルチャに自撮り画像を送ってから20分程文字やスタンプを送りあった。


 永愛ちゃんやルナっちが行った『聖・シルフィーエルス魔法学園』も今日制服が支給されたらしい。


 真っ白のブレザーに金色の縁どりが施され、胸元には赤と金色のエンブレムが小さめに縫い付けられていた。


 車ヒダスカートにも金色の縁どりに、永愛ちゃんは真っ白のニーソでルナっちはくるぶしからちょっと上のソックスを履いている。


 しかしなんだろう……


 ルナっちはいいとして、永愛ちゃんのこの破壊力。


 こんな画像を見せられたら即保存、即壁紙設定間違いなしだねとグルチャ投稿すると、即ルナっちから投稿。



【私のはいいんかぁぁぁいっ!】



 と突っ込まれるけど、こっちにはコッテコテの関西人がいるもんだから何となくキレが無いような気がする。


 まぁ、文字だけなんだけど。


【本場の人にはかなわないよねぇ】


 と、みゅうみゅうの投稿に頷く。


 みゅうみゅうやリカリぃの在籍する『私立稲葉白兎学園』の制服支給は明日らしい。とりあえずみゅうみゅうのパジャマ姿が見たいと投稿すると、すぐさまリカリぃからの投稿があった。


【させません。わたくしだけの特権です】


 実にケチんぼなお嬢様だ。


 しかし、永愛ちゃんからの投稿が無いねぇと送るとルナっちから投稿があった。


【永愛ちゃんは志乃の画像に釘付けになって固まってるよ】


 いやいや、こんなゲス女の画像なんて目の毒にしかならないから、削除しちゃって永愛ちゃんのだけを残そうと送る。と、ようやく永愛ちゃんから投稿があった。


【ボクのはいいけど志乃のはさせないよ】


 そんなこんなでスマホを置いたのが午後10時55分。


 ようやくあたしは制服を脱いでシャワーを浴び、ツクとカノっちのカミングアウトを思い出しながらふたりの決意にあたしも奮起せねばと思ってベッドに戻ったのが午後11時15分。


「はぁぁぁっ……」と、ため息を吐いて、あたしは『こんにゃろう(プニッシュ)タイム』に突入するのであった。



 ━━━━━━━━━━━━━━━エチエチ。

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