5-4.

「でも、良くないことだよね、全く関係ない人に矛先を向けちゃって。まるで消滅作戦が失敗した時に、ひいおばぁちゃまが矛先を向けられた時と同じ事をひいおばぁちゃまが『神之原家』にやっちゃって……それで引っ込みが付かなくなってて。それはおばぁちゃんも同じで、『絶対に神之原を超えてやる』って言ってたらしくって……それから『神之原家』を目の敵にしちゃって、アリシア学園に『神之原』が居るってだけでおばぁちゃんは猛勉強してアリシア学園に入って何度も挑んだって……」


 確か、おばぁちゃんもそんな事を言ってたかな。


 ひとつ下の後輩に対抗意識むき出しの子が居たって、確か『神凪翼芽つばめ』さんたったかな。


「うん」と言って、あたしに視線を合わせてくれたツクに言葉を続けた。


「あたしのお母さんの時には『神凪椿つばき』さんが同級生で、『2代続けて負けられない』って、よく言ってたって聞いたよ」


 すると、ツクは申し訳なさそうな表情で言ってくる。


「お母さんも物心ついた頃からずっと、『神之原』に負けるなって言われてそ育ってきたらしくて……それってもう洗脳だよね。結局はお母さんも、アリシアにいる間はずっとランキング2位ばかりだったのを悔しがってるの」


 そこまで言ってため息を吐き、そして話を続ける。


「それでね、私も子供の頃からずっと『神之原』に負けるな、『神之原』にさえ勝てば『神凪家』は強いと証明できるって、言われ続けてきて……」


 そこまで言うと黙ったツクだけど、ゆっくりあたしに視線を合わせて言葉を出してきた。


「実家の近くにね、救護所でひいおばぁちやまに治癒魔法を掛けてくれたおばさんが居てね。実は、ひいおばぁちゃまに悪口を言った人達は『悪魔』に意識を乗っ取られてたらしく、ひいおばぁちゃま達が救護所を出て直ぐに救護所内で暴れ始めたらしくって。多分、あの中で一番魔力の高かった『神凪家』を追い出したかったんじゃ無いかなって、そのおばさんは言ってた。そのおばさんも直ぐに救護所を出たから無事だったけど、救護所の中は大変なことになったらしくて。犠牲者は出なかったみたいだけど、重傷者がたくさん出たって言ってた」


 そうなんだ。


 でも、それってツクのひいおばぁちゃん達には言ってないのかなって聞くと、複雑そうな表情で答えてくれる。


「ちゃんと伝えたらしいけど、ひいおばぁちゃまもおばぁちゃんも『ざまぁみろ』とか『いい気味だ』とか言って、それよりも『神之原』に勝つって……それこそ何かに取り憑かれたように、繰り返し繰り返し言ってたっておばさんに聞いたの」


「はぁぁぁっ……」と、大きくため息を吐き、そしてツクは言葉を続けた。


「逆恨みもいいとこだよ、勝手に恨んで勝手に憎んで。それで私に勝て勝てって、『神之原』に絶対勝てって言われ続けて……私まで『神之原』を憎まなきゃならないのかなって思った時、去年の8月に全国のニュースで志乃の事をを知ったの。『基本魔力』が『闇』属性で、310年振り2人目で、しかも魔力数値が計測不能だったとかで」



 いやぁ、あの時はセンセーショナルな話題だったみたいで……



 まぁ今でもそうだけど、ニュースの後から取材対応におばぁちゃんもお母さんも、お母さんの姉さんで叔母さんも大変そうだった。


 あたしは当時を思い出しながら、苦笑いしつつツクの話を聞いている。


「その月の終わりの初期魔力計測会で、世界一の魔力スコアを出したってニュースを見て、画面の中の志乃が……その……えっとね……」


 と言って、今度は頬を赤らめて恥ずかしそうに俯いて声を出してくる。


「とっても綺麗で美人で、かっこ良くって笑顔が可愛くって。思わず見とれちゃって直ぐに録画して、何度も何度も繰り返して見ちゃってて」


 そして、あたしと視線を合わせたツクは目尻をふにゃっと下げて話してくれる。


「こんな子と学園生活を送れると、とっても楽しいんだろうなあって思ったら、家の事関係なくアリシア学園に行きたいなあって思っちゃった」


 っと、デレた顔で言うけども、いやまぁあんな画像はテレビ局で編集したやつを報道するだけだし。真のあたしはゲスなエロ親父の皮を被った変態女なのになって思う。


 こりゃぁ、カミングアウトが大変なことになりそうだ。


 そこでまた表情を曇らせて、俯きながら声を出してきた。


「そのニュースをね、ひいおばぁちゃま達も見ててね。『神之原は必ずアリシア学園に行くから月詩も絶対にアリシア学園に行きなさい』って言われてね。それ自体は嬉しかったけど、その後から特訓させられて、西日本での各地の大会に出場させられちゃって……」


 それは一昨日さくらに聞いた。


 なんでも、『解縛式』を終えた西日本の魔法武術大会で負け無しだったとか。


「いやぁ、それ程でもぉ」っと言って、テレッテレになるツク。


 ホント、この子はコロコロと表情を変えるけど疲れないものなのかなぁと思ってしまう。


 暫くテレテレしてたけど、「はっ!」と我に返り再びため息を吐いて話し出す。


「西日本最大の大会の結果、なんとか無試験でアリシア学園の推薦を貰ったのに、ひいおばぁちゃまもおばぁちゃんも、お母さんも喜んでくれずにずっと『神之原』に負けないようにって。特にひいおばぁちゃまには『三代続けて負けるな』って言われ続けてね。でも私は嫌で……全く関係の無い『神之原家』を恨むのも、画面の中でしか知らない志乃を憎むのも嫌でね……」


 と言ってツクは俯き、そして言葉を続ける。


「ひいおばぁちゃま達の悔しかった気持ちも分からない事も無いけど、でも救護所で起きた事は結局『悪魔』の仕業だったのに、逆恨みをするのは間違いなのに、その時に産まれてなかったお母さんまで一緒になって『神之原家』を悪く言うのもおかしいのに。なのに実家を出る時までずっとずっと『神之原』に負けるなって言われ続けて……」


 俯いたまま眉間に皺を寄せ、でも直ぐに落ち着いた表情に戻って声を出す。


「ようやく実家から離れて此処に来て、志乃と出会って……初めて見た時は舞い上がっちゃってあんな事言っちゃって……ごめんなさい」


 ツクは申し訳なさげな表情で、上目遣いに言ってくる。



 いや、その表情はいけないぜ月詩ちゃん!



 そろそろあたしの理性もクラウチングスタートの構えで飛び出して行きそうな所を、必死に堪えるのが大変なのだが。



「こっちに来てからも、お母さんから毎日電話で『神之原』には負けるなって言われてて。特に昨日のガウェインドラゴンのニュースの後も『あれくらいの上級悪魔なら月詩でも勝てるでしょ』って言われて。それでまた『神之原』に負けるなって。さっきの電話もそうだったんだ。明日からの学園生活で絶対に『神之原』に負けるなって。もうそればっかりで……」


 そこでツクは、何故か悔しそうな表情になって言葉を出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る