5-2.
あたしも席を立って「どうする?」と聞く。と、マイマイとさくらはもう少しお話していくと言い、カノっちは退出すると言って立ち上がった。
「私も」っと言って、ツクも立ち上がる。
マイマイとらさくらに手を振って移動し、あたしはいつもの様にアンケート用紙に感謝の気持ちを書き込んでBOXに入れ込む。カノっちも同様に書き入れてツクもそれに習った。
時刻は午後9時
あたし達はエレベーターに乗り込み6階で扉が開くとカノっちがエレベーターから出て此方に振り返る。
そして無言で俯くツクに視線を向けて暫し、「それじゃあ後で」と言って自室の方に歩いて行った。
それからエレベーターは上昇して7階に着き、あたしが出た後にツクもゆっくりと着いてくる。
あたしはツクと対峙して眺めるけど、ツクは動こうとも口も開こうともしない。だから、あたしが声を出した。
「あたしの部屋、来る?」
その言葉を聞いて、「うん……」と呟くツク。
その後ふたりで部屋に入り込みツクにはカノっちが座っていた場所に座ってもらって、あたしはベッドに腰を落ち着かせた。
その間もツクは俯いたままで口を閉ざしていて、消灯時間を考えればこれ以上の沈黙は……と、思ったところ声を出してくる。
「あの……私が電話してた時……どの辺から私の声、聞こえた?」
と言って上目遣いでこちらを見るけど、なんだかシリアスな展開になりそうなのにツクのその表情……
押し倒してあげた方がいいのかな?
「えっとね……『いい加減にして!』のとこだったかなぁ……」
その言葉でツクは目を見開いて真っ赤な顔になり、目元にはうっすらと涙が浮かんできている。
いやぁ……
そんな表情されても、聞こえて来ちゃったもんはどうしようもなくって。それに聞きたかった訳でも無いんだけどなぁって思ってると、ツクが言ってくる。
「それじゃあ、電話の相手も知ってるんだね」
そう言って俯いた。
「あぁ……うん……まぁ……」と言うしかないあたしに、ツクは俯いたまま語り始めた。
「私の家は……って言うか『神凪家』はね、昔から四国では有名な討伐者一家だったんだ。私が産まれるずっと前、ひいおばぁちゃまの頃までは四国全体で慕われてたらしくって、凄く頼りにされてたらしいの」
ツクはゆっくりとあたしに視線を向け、こんな言葉を言ってきたきた。
「『四国三県支点地区『原点』消滅作戦』って知ってる?」
そう聞かれたあたしは「ふえっ?」と、マヌケな声を漏らした後に考える。
考えて考えて考える。
「いやぁ、『原点』消滅作戦は知ってるけど、それは聞いたことないかな。『原点』って言うことは『悪魔』に関わる事って言うのは分かるけど」
『原点』とは『悪魔』が湧き出す地域の事だ。
『悪魔』の大きさや、強さのレベルや規模で危険区分が行われていて、世界各地の人気の無い場所に存在している。
元は大昔に飛来した『幻獣(ビースト)』が、『光の魔法使い』と『闇の魔女』によって瀕死の状態に追い込まれて大地に溶け込んだ。
それにより世界各地で『悪魔』が出現し始め、その場所には真っ黒な沼地が発生したらしい。
その沼地が大きければ大きいほど危険度が増し、24時間体制での警戒が必要となってくる。
特に大きな『原点』のある地域は『特級危険区域』に指定され、『世界魔法統括機構』という組織が常時監視しているのだ。
先程も言ったけど『原点』は人気のいない場所に出現し、長い月日を掛けて広がっていくものらしい。
ただ、初期段階で発見すれば速やかに消滅させる事が可能で、大きな『原点』でも時間を費やせば対処出来る。
ただ『悪魔』の活動時間である夜中に広がる傾向にあってなかなか規模を小さく出来ないが、成果は出せてると言う。
当然この国にも『原点』は数多くあり、日々監視されていて出現する『悪魔』と戦っているのだ。
「その『原点』が四国にも当然あって、特に大きな『原点』が四国三県、愛媛県と高知県と徳島県の県境の支点にあるの。その『原点』の消滅作戦に香川県の神凪家が参加することになってね……」
『原点』消滅作戦とは、力のある魔法使いが『原点』に応じた規模と人数で上空に魔法陣を張り巡らせ、その魔法陣を『原点』に被せて封印するものだ。
封印が成功すれば、その『原点』から『悪魔』は出現する事が出来なくなり、やがて『原点』は枯れ果てて大地が浄化される。
四国三県に交わる県境の『原点』に香川県の神凪家が関わるとは、余程四国内で頼りにされてたんだねって言うと、ツクは再び視線を床に落として話し始める。
「今からもう55年前の事だけど、その当時は香川県以外の3県の県境の『原点』だっただけに、その3県の仲が凄く悪くて。そっちの県の方に『原点』が広いから、そっちが何とかしろとか。そっちの県の方で『悪魔』が湧き出したんだからとか、そっちの県の方が危険度の高い『悪魔』が多く湧き出すとか。そんな感じで、ずっと上手くいかなかった消滅作戦に仲裁役も兼ねて香川県の神凪家が主導して進められたの」
そう言ってため息を吐き、そしてまた語り始めた。
「その時に取りまとめたのが私のひいおばぁちゃまだったんだけど、最初のうちは上手くいってたらしいんだよ。湧き出す『悪魔』の討伐班の500人と、魔法陣を施す班の3500人を上手くまとめていよいよ魔法陣が『原点』を覆いかぶらせる直前に魔法陣の一角が弾けちゃって……」
魔法陣が弾けたって……
本来魔法陣とは複数の担当術士で張り巡らせ、全員の意識を揃えて『原点』の上に魔法陣を降下させ覆い被すことで封印する儀式だ。
その際に体調を崩す人が出ると、直ぐに担当術士を交代させて儀式を続行させなければならない。
その担当術士の前では討伐者が、湧き出る『悪魔』を倒すという役割分担で進行される。
『原点』にも規模があって、中級悪魔が湧き出す程度の広さ、テニスコート2面くらいの大きさで3日から5日を30人程度。
ミクニワールドスタジアムくらいの広さになると1000人体制となり、1ヵ月はかかる。
規模が大きくなれば瘴気が濃くなり、それに伴って熟練の術士や人数も必要となる。そして、さらに日にちが掛かるようだ。
そんな消滅作戦だが、稀に魔法陣が弾けて失敗する事がある。
『魔法陣が弾ける』とは、魔法陣を作りあげていく担当術士が何らかの理由で魔法陣が維持できなくなり、補充術士が居なくなった場合と、討伐者が倒されて担当術士にまで危害が及んだ場合。
それと、担当術士が何らかの理由で放棄した場合に魔法陣は弾けると聞いたことがある。
ツクの話によると、討伐者が500人、魔法陣担当術士が3500人って結構な規模の『原点』みたいだけど、それだけの人数をコントロール出来るなんて神凪家は本当に頼りになる一族だったんだなって思った。
でも何で魔法陣が弾けちゃったの? と言うと、ツクは眉間に皺を寄せて話し出す。
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