ツク.

5-1.

 そうなってしまえばもう、あたしの中の北九州市民のDNAが小躍り&ブレイクダンスをし始める。


 先ずはパスタとピラフをテーブルに持っていく。


 そしてドリンクバーに向かうカノっちにコーラを頼んで、意気揚々と『資』の旗が眩しい『資さんうどん』ブースに辿り着く。


「いつものお願いします!」と言って暫し、やって来ました肉ごぼ天うどん。


 甘いお肉に細長いごぼ天が5本も乗っかるそのビジュアルは、北九州市民の胃袋を鷲掴みにする事間違いなし。


「有難うごさいまぁすっ!」



 いやもうテンション上がっちゃいますわぁ。



『プリズン』と悪名高いアリシア学園において、『資さんうどん』の共済は北九州市民である神之原志乃にとっては力の源。


 特にこの『肉ごぼ天うどん』は、15歳のあたしにゃ贅沢の極み。


 上機嫌でテーブルに戻ると、そこにはツクも輪に加わっていた。けど、その表情は無理矢理普通を装っているのがよく分かる。


 あたしが席に戻り「遅かったね」と言うと、慌てた表情で言ってくる。


「ふぇっ……えっと……あぁ……うん、ちょっとトイレ……かな……あはははっ……」


 そう言いながら苦笑いするツクだけど、すこぶる嘘が下手な子である。


 すると、ドリンクをお盆に沢山乗せて戻ってきたカノっちがツクに言った。


「随分長く姿がみえなかったのは、おトイレに行かれてたからなのですね。大丈夫ですか?お腹でも壊されていたのですか?」


 と、お嬢様口調をカミングアウトしたカノっちにツクは口をポカンと開けて驚いている。


 その口調を、傍で聞いたなぁちゃんが言葉を出した。


「まぁ、イメチェンはもうお終いになられたのですねぇ。やっぱりカノちゃん……カノっちはそちらの喋り方の方が安心しますぅ」


 その隣で、ねぇちんも言う。


「その方がいい、物凄い違和感だったから」


「お騒がせしました」と、カノっちが微笑みながら須藤ツインズに会釈して席に着く。そしてツクやマイマイ、さくらやハヅキチやなるぴょんに自分の素性をカミングアウトした。



「ほらみてみぃ! ウチの言うた通りやん。絶対カノっちはええとこの育ちやゆうたやろぉ」と、ハヅキチがなるぴょんに言う。


「ホンマやったんやなぁ。でも確かにお嬢様っぽかったわぁ」


 なるぴょんがそう言うと、マイマイは驚きの表情で言葉を出す。


「私、全然分からなかった。都会の子は分からんわぁ」


 そしてさくらも同調する。


「ホントびっくりした。カノっち演技上手すぎだよ」



 ただひとり、状況を把握出来てないツクは、ひたすらポカンだった。



 そんなツクにハヅキチは視線を向け、不思議そうに声を出す。


「でもツク、ホンマにトイレやったんけ? それにカノっちも、さっきツクが外にいるさかい呼んでくる言うてたやん」



 そぉおぉぉぉいっ!!!!!


 なんちゅう爆弾投下しとるんじゃぁぁぁいっ!!!



 っと言葉に出来ず心の中で突っ込んでいると、今度はなるぴょんがぶっ込んでくる。


「言うてたねぇ、たしか長電話してるみたいだからって言っとったしなぁ。志乃と一緒に迎えに行く言うて外に出たんちゃうの?」



 おぉぉぉぉいっ!!!


 ちょっと黙っててくれるかなぁ関西人!


 せっかく気を利かせてツクに合わせたカノっちが固まっちまったじゃないかっ!!!



 恐る恐る視線をツクに持っていくと、自分の嘘がバレて今にも涙を零しそうな表情であたしを見てた。



 そしてあたしは考える。


 考えて考えて考える。



「そ……そうだツク、ほら! ほら見て、肉ごぼ天うどんだよ! 外、寒かったでしょ! 暖まるから早く食べて!」


 涙をいっぱい溜めたツクに、あたしは持ってきたうどんを差し出す。


 だけど、ツクはうどんをジッと見つめるだけで何も言わず動かずで1分少々……


 その間あたしやカノっちや他の6人もハラハラしながら見ていると、おもむろに箸を持ち上げて丼に突っ込み、うどんと共にお肉をつまみ上げて口元に運んだ。



「…………美味しいぃ」



 涙を溜めた目尻がふにゃっと下がり、幸せそうな表情に。再びうどんをつまみ上げて啜り、今度はごぼ天に齧り付いて笑顔で咀嚼する。


「やっぱり天ぷらの衣はふにゃふにゃがいいよね、味が染みるから」


 ………………!


 そうだった、ツクは天ぷらの衣がグズグズなのが好きだって言ってたっけ。


 すると、マイマイがツクに同調するように言ってきた。


「分かるぅそれ、あたしもふにゃふにゃ派だからねぇ」


 すると、さくらも同じように言ってくる。


「だよねぇ、それよねぇ。衣がふにゃふにゃになるのが嫌なら別皿に頼めばって事よねぇ」


 四国3人娘は天ぷらの衣はふにゃふにゃ派なんだと判明した瞬間だった。


 まぁ、『資さんうどん』も暫く前から別皿で出される天ぷらもあるし。


 とりあえず、ツクがうどんを啜ってる間に余計なことを言いそうな関西人ふたりにコソッと釘を刺す。


 その後、あたしやカノっちが持ってきた食べ物や飲み物で測定会の打ち上げをし……って言うか何処のテーブルも同じ様な感じだったし。


 フードコート全体が最高潮に盛り上がったのは、真中が突然立ち上がってこんな事を言い出した時だった。


「皆んな、聞いてくれ。私達は今日まで同じ釜の飯を食べた仲ではあるが、まだ名乗りを上げていない者も多くいるようだ。せっかくこうして同級生になれるのだ、ここはひとつ自己紹介でもしようではないか。名前と出身地だけでもいい、一言添えるもいい。我々は明日から共に競い合い、そして共に生活し、3年間切磋琢磨し合う同胞だ。その3年間を全員で乗り越え、今よりも更なる力を付け、世界でも優秀な魔法使いになる為に高らかに、声を挙げあおうじゃないか」



「「「「「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」」」」」

「「「「「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」」」」」



 雄叫びが上がった後に、1番に立ち上がったのは意外にも響希だった。


 後で真中に聞いた事だけど「どうせやらねばならんのなら1番に終わらせる」と、言っていたらしい。


 そして響希の、こんなひと言であたし達の自己紹介が始まった。


「千葉の斑鳩響希だ。絶対に志乃を、『神之原』を倒す」



「「「「「「「「おぉっ!」」」」」」」」

「「「「「「「「おぉっ!」」」」」」」」

「「「「「「「「おぉっ!」」」」」」」」



 歓声が上がり、拍手の最中で響希は着席し、その近くの子から席を立って自己紹介をする。


 そして、いよいよあたし達のテーブルで、最初に立ち上がったのが……



「福岡県出身、神之原志乃。究極、目指します!」




「「「「「おぉぉぉぉっ!!!」」」」」

「「「「きゃあぁぁぁっ!!!」」」」

「「「素敵ぃぃぃぃぃぃっ!!!」」」

「「「「綺麗ぃぃぃぃぃぃっ!!!」」」」

「「「「カッコイイっっっ!!!」」」」

「「「「結婚したぁぁぁぁいっ!!!」」」」



 いや、出来んでしょ!!!



 っと言って突っ込むと、フードコートは大笑いで包まれた。


 それから巡って最後は真中の自己紹介で締める。


「神奈川県出身の乃木真中だ。個人的には私も志乃に勝つ。全体的には歴代最高の年代を築きたいと思っている。皆んな、よろしく頼む」



「「「「「おぉぉぉぉっ!!!」」」」」

「「「「「おぉぉぉぉっ!!!」」」」」

「「「「「おぉぉぉぉっ!!!」」」」」



 こうしてあたし達は結束力を高め、あまり話をしていなかった子達とも会話を交わす。そして、明日の為にと何時もより早くフードコートから人が減って行った。


「それじゃ私達もぉ、お休みさせて頂きますねぇ」と言って須藤ツインズが退出し、「ウチ等も上がろうや」と言って、ハヅキチとなるぴょんも後に続いて行く。

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