4-4.

 そんなカノっちに、あたしは声を出す。


「あたしはね、カノっちに戦い方を改めろって言ってるんじゃないよ。むしろ本当に激情型を極めたいなら、暫く封印した方がいいんじゃないかなって提案してるの」


 すると、カノっちは眉間の皺を解いて不思議そうにあたしを見つめ、そして言葉を出した。


「それって……どういう事ですか?」


 そんな彼女の表情を堪能しつつ、あたしは説明する。


「さっきも言ったけど、激情型は相手の急所を的確に仕留める一撃必殺の戦い方なんだよ。それにはまず洞察力と観察力で瞬時にウイークポイントを見極め、的確な判断の元に打ち込まなきゃならないの。今のカノっちに足りないのはそこだよ」


「洞察力と観察力……」っと呟くカノっちに、あたしは言葉を続ける。


「カノっちは今まで『神楽坂家』の為に頑張って来たんでしょ? じゃあこれからは自分の為に頑張ってみたらいいんじゃない?」


「自分の為……」


「そっ! 自分の為に頑張ってたらきっといつか『神楽坂家』の為になるだろうし、あたしはカノっちなら出来ると思うよ。出会ってたった4日しか経ってないけどカノっちって気が利くし感が鋭いところもあるし、それを生かして洞察力や観察力を訓練をすればきっと今よりももっと強くなるし、それを突き詰めていけば激情型の本領発揮は間違いないよ」


「そうかな……」と呟くカノっちの表情は少しづつ晴れやかになっていき、そんな彼女にあたしは言った。


「リカリぃは言ってたよ、カノっちは努力家だって。だからきっとカノっちならアリシアにいる間に自分なりの激情型を習得出来るんじゃないかなってあたしは思うけどね。だから少しの間だけ激情を封印してみたらいいんじゃない?」


 その言葉でカノっちは少しづつ目の色を輝かせ始め、そしてあたしに視線を戻した時は決意を新たにした表情で言ってくる。


「私、やってみます。志乃の……世界屈指の魔力を持つ『神之原』のアドバイスを無下にしたくはありません。そしてこのアリシア学園に在籍中に私は私の戦い方を構築し、激情型を完成させたいと思います。志乃、これからもアドバイスよろしくお願いします」


 リカリぃの言ってる言葉は本当に正しい。


『私立アリシア魔法学園』に来るような子は国内でも上位の魔力スコアの持ち主ばかり。だから、自分が今までやってきた努力の結晶である戦い方を指摘されて腹を立てない子なんてまずいないだろう。


 でもカノっちは自分の意見は言っても人の話にしっかりと耳を傾け、自分の足りないところをアドバイスとして捉えて努力すると断言した。


 そんなことは簡単にできることでは無いのに、この子は自分を変えることに躊躇いが無い。


 リカリぃの言う通り、カノっちは真の努力家なんだなって思った瞬間だった。



 それからあたし達はリカリぃの話しでたっぷり2時間ほど費やし、寄宿舎最後のディナーを一緒にとツクの部屋に移動した。


 ただ部屋の扉をノックしても返事はなく、チャットを送っても既読はつかない。


 9人で作ったグルチャに送ると直ぐに6つの既読が付いて、「ウチら6人はもうフードコートや」の文字が送信されてきた。


 その間、カノっちはツクに電話するけど話し中で出ないらしい。


 でもまぁ話し中なら生きてるのは間違いないねぇと言うと、カノっちに叱られてしまった。


「それはあまりにも不謹慎というものです」


 そうピシャリと言うイントネーションは若干違うけど、なんだかリカリぃに言われたみたいでちょっと懐かしかった。


 とは言え、離ればなれになってまだ1週間しか経ってないんだけど。


 それでも電話中なら終わればチャットを見るだろうからそこまで心配する必要もないし。こんな山奥の場所にある寄宿舎から今更逃げ出す事も無いし、外は真っ暗だし。


 とりあえずあたし達もフードコートに向かおうと歩き出し、エレベーターで3階まで降りてフードコートに入ろうとした時だった。カノっちが窓の方を見ながら言ってくる。


「外に誰かいるみたいですね。電話中でしょうか?」


 そう言うカノっちが見ているガラス窓を眺めると、寄宿舎入口の門の辺りで小さな光が中途半端な高さで不規則に瞬いていた。


「こんな真っ暗な中で、しかも外はかなり寒いのに何であんなとこで電話なんてしてんのかなぁ」


 っとあたしが呟いて暫し、あたしとカノっちは双方の顔を見合って直ぐに動いた。



 カノっちはハヅキチ達の方に行き、あたしはエレベーターに向かって移動してエレベーターの扉を開いたままカノっちを待つ。


 それから直ぐにパタパタと足音がしてカノっちが現れ、エレベーターに乗り込んで一階に向かう。そして、誰もいないロビーを通り抜けて寄宿舎の外に出た。



「いい加減にしてっ!!!」



 外に出るとツク怒鳴り声が聞こえてくる。


 寄宿舎の入口前にはバスがターン出来るほどの広さがあり、寄宿舎入口から20メートルくらい先に門がある。その門の左側にスマホを持ったツクが、寄宿舎の明かりで確認できた。


 あたしもカノっちもツクの怒鳴り声にただならぬ雰囲気を感じ、入口から一歩も動かなかった。と言うより動けなかった。


 そしてまたツクの怒鳴り声が聞こえてくる。


「アリシアに通うのは私なんだよっ! お母さんじゃないんだからもう関係ないじゃないっ!!!」


 どうやら電話の相手はツクのお母さんみたいだ。


 あまり言い争いになるのはどうなんだろうと思っていると、カノっちがあたしの制服の背中を摘んで小声で声を出してきた。


「盗み聞きみたいで罪悪感に苛まれてしまいます。一度戻りましょう」


 確かにこれは完全にプライベートな事みたいだし、あたしも同意して寄宿舎に戻ろうとふたりで踵を返す。と、再びツクの声が聞こえてくる。


「勝手なこと言わないでよっ! 神之原さんは……志乃はそんな人じゃないっ!!! 志乃の事を知らない癖にそんな事言わないでっ!!!」



 いやぁ……親子喧嘩にあたしの名前が出て来るとか……


 マジっすかぁ……



 何とも言えない子持ちになるし、電話の内容が気にならないでも無いし……


 いやメッチャ気になるけど、それでもあたしとカノっちはフードコートに戻って行った。



 さすがに今日で寄宿舎最後の夜とあってフードコートはほぼ全席埋まってるし、当然皆んなアリシアの制服に着替えてるし。


 胸元がリボンの子やロングネクタイやショートネクタイ。カノっちの様に帯状のベルトをブラウスの上でしっかり留めている子も居れば、バックルから両端を垂らしている子もいるし。


 皆んな創意工夫してて、オシャレに飢えてたんだなって思いながらハヅキチ達の元に行き、席をキープして貰ってあたしとカノっちは料理のテーブルに向かう。


 カノっちはポテトや唐揚げ、サンドイッチを多めにお皿に乗せ、あたしはパスタやピラフを山盛り乗せてテーブルに戻ろうとして。


 そしてあたしはあの『資』の旗を見つけてしまった。

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