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「そゆこと。どう考えたってあたし達はまだまだお子ちゃまなんだからそこまでしっかりする必要も無いし、今は存分に学生を楽しまなきゃならないしね。その時その時出来ることを一生懸命頑張ってたら、きっと周りが助けてくれるし。助けてくれた時にちゃんと、有難うって言えたらそれでいいんじゃない?」
カノっちは考え込むように俯いて暫し、それから全身の力を抜くように深い溜息を吐いた。
「ふぅぅぅっ……やっぱり白鳥様の言った事は本当だったのですね」
「ふぇっ?」とマヌケな声を出したあたしにカノっちはクスッと笑い、本来の口調で言葉を続ける。
「私が入院したのが二月に入って直ぐの事でして、その日のうちに白鳥様がお尋ねになられまして、先程の志乃のように思いっきり叱られてしまいました。聞けば白鳥様は『私立稲葉白兎学園』の入学手続きに青森県まで行き、その帰りに私の入院先に来られたようでした。白鳥様は私を見るなり、まくし立てるように責められ、それなのに私の両手をしっかり握ってくれまして……」
そこで一旦言葉を切ってお紅茶を啜り、そしてまた語り始める。
「元より頑張りすぎていることは承知の上でした。『神楽坂家』は男子を授かる事が出来ず、ならば私が頑張らねばと意気込んでおりまして。家族からも度々注意を受けておりました」
そこまで言うと寂しげな表情を作り、だけど軽く微笑んで言ってくる。
「ですが、やはり伝統ある『神楽坂家』を衰退させる訳にはいかないと思い、同年代で入学の決まっていた神之原さんと同じ学舎に行く事が出来たとなれば『神楽坂家』の名前も衰えないと思いました。それが無試験合格ならば尚のことと思って朝から晩まで1人で修練に励み、合格通知を見た瞬間に力が抜けて、気付けば病室で横になっていたと言うことです」
そして恥ずかしそうに俯いた。
「その時に白鳥様がこう仰られてきました。『その様な考えでアリシア学園に行けば必ず神之原さんに叱られてしまいますよ。あの方は、ひとりよりも多数を重んじ、協力と感謝を常に心掛けているお人なのです。そして何より笑顔を好み、笑顔の素敵な女性なのです。神之原さんが居ればどの様な所でも決して、ひとりにはならない不思議な力の持ち主なのです。きっと神楽坂様にもお分かりになると思いますよ』と……そしてそれは事実なんだとこの4日間で思い知らされました」
その言葉にあたしは首を傾げるけど、カノっちは微笑みながら言ってくる。
「神凪さんが孤立しそうになった時に、海治さんと岬さんを説得なされたのでしょう?それに斑鳩さんとの騒動も上手く納めましたし。私が存じている斑鳩さんは決して人の言うことを聞かないお方でした。孤高で気高く荒々しく、独りを好む狼のようなお方が、まさか乃木さんと同部屋になるなんて未だに信じられません。でもそれは全て神之原さんの魅力がそうさせたのでしょう。確かに不思議な魅力です、私ですら綻びを繕うのも忘れて作ってきた口調が戻りませんし」
と言ってニコッと笑った。
マズイ……理性が気を失いそうだ。
「あの日、白鳥様は仰いました。『いくら取り繕っても神之原さんには通用致しません。そして神之原さんはそんな神楽坂様を放っておいてもくれません。ならば神之原さんと共に歩み、自然体の神楽坂様のままで切磋琢磨致してはどうでしょうか?そうすれば、きっと神楽坂様は今よりもずっと素晴らしいお方になられると私は確信します』と……私の手を握りしめて『絶対に無理は駄目です』と追加されました」
カノっちは再びお紅茶を含み、コクんと飲み干してから続ける。
「それでも、半信半疑な私に白鳥様は『案ずるより産むが易しです』と言って、口調を変える事を提案し、私も同意致しまして神之原さんにお声を掛けさせて頂きました。もちろん騙そうなどとは思っておりません」
と言って軽く黙礼するあたり、確かに良家のお嬢様のそれはリカリぃと同じ雰囲気を醸し出していた。
「でも、真中や響希や須藤ツインズとは面識があったんでしょ? 何も言われなかったの?」
そう言うと、カノっちは少し照れたように話してくれた。
「乃木さんや須藤さん達にはイメチェンと言って誤魔化しておきました。斑鳩さんには無視されましたけど」
「なるほどね」と言ってあたしが微笑むと、カノっちは俯きながら言ってきた。
「同部屋を提案して下さって同意したまではよかったのですけど、このままでは神之原さんを騙しているような気になり、打ち明けに参ったのです。本当に申し訳ございませんでした」
と言って、頭を下げるカノっちにあたしは言う。
「前までの様に、志乃って呼んでくれたら許してあげる」
その言葉を聞いたカノっちが、あたしに視線を戻した瞬間にニカッと笑ってサムズアップ。
「分かりました」と言って、フワッとした笑顔を見えてくれたカノっちをベッドに引き込もうかと思いつつ、肝心な時に出ていかない理性に憤りを覚える。
ただそこで、話したいことを思い出したあたしはカノっちに言葉を出す。
「昨日の魔力測定の時だけど、カノっちって戦い方が『激情型』なんだね」
するとカノっちは、虚をつかれた表情になって言った。
「どうして……志乃とは同じ組でしたけど、姿は見ていないハズでは……」
まぁ確かに魔力測定の時は全く見てないし、終わった後の記録映像で確認しただけだし。
でも、あの声は同じ組の人なら全員聞こえてたハズだけどね。
そう言うと、カノっちは赤面しながら言ってくる。
「そう……ですね。ああいった時には気持ちが高ぶってしまってつい……声に出てしまいまして……変でしょうか?」
変では無いけど勿体なかったかなって言うと、カノっちは不思議そうに首を傾げる。
「カノっちの記録映像を見て思ったんだけどね、かなりダイナミックでギャップが凄かったけど、召喚獣の倒し方が雑だったかなって思ったんだ。あれが測定用の召喚獣だったから良かったけど、もし試合とか討伐とかだったら反撃を許しちゃうよ」
すると、カノっちは真剣な表情に変わり反論してくる。
「そうでしょうか? 激情型は感情が力となり、相手の一部に触れれば予想以上のダメージを与えることが出来るのです。それに斑鳩さんも感情を昂らせて魔力測定に望んでいましたけど」
カノっちの言葉に、あたしは答えた。
「響希の戦い方は激情型じゃなくて直感型だよ。あの子は生まれながらに五感が研ぎ澄まされてるんじゃないかな? 記録映像を見たけど、響希は召喚獣を目で追わずに感覚で追ってたしね。だからきっと響希は感情よりも先に身体が反応してるんじゃないかな? 音は聞こえなかったから、身体と声のどちらが先かは分からなかっけどね」
そう言ってあたしはお紅茶を啜り、そしてまた声を出す。
「本当の激情型ってのはね、対戦相手や敵の急所を的確に見定めて確実に仕留める戦い方なんだよ。適当に当たれば激情のパワーで何とかなると思っても、それは昨日までの話だね。これから先の試合や戦場では通用しない、絶対に」
カノっちは言葉を出すことは無かったけど、眉間に皺を寄せて床に視線を落としている様は明らかにイラついている様だ。
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