4-2.
カノっちには机の椅子に座って貰い、あたしはベッドの上に座ってから暫し。って言うか、割と直ぐにあたしはこう提案した。
「ねぇ、カノっち。フードコートに行ってドリンク持ってこない? どうせならゆっくりお話したいし」
カノっちも、「私もそう思った!」と言って同じタイミングで立ち上がる。と、互いにクスッと笑い合い、あたし達は部屋を出てフードコートに向かった。
色んな所で制服を見せあってる子達を眺めながら、あたしはドリンクバーでポットを取り上げお紅茶のパックを4つほど持ち上げてトレイに。
ポットにお湯を入れ紙コップをふたつ持ち上げてからカノっちを探すと、カノっちはクッキーやマカロンを紙箱に丁寧並べている最中だった。
考えてみれば、この寄宿舎に初めて来た時以降フードコートに食べ物が置いてなかった所を見たことがない。
朝・昼・晩と食べ物の景色は変わるし、スイーツも並べられてたし。
さすが有名私立校だなと、この寄宿舎に来てからずっと感心しっぱなしだった。
カノっちを待ってフードコートの入口付近まで移動し、そこに置いてあるアンケート用紙に文字を書き込んでBOXに入れて移動する。
「志乃って必ずアンケートを書いておりますけど、そんなに気になる事があるのですか?」
不思議そうに首を傾げながらカノっが聞いたから、あたしは頭を左右な振りながら答えた。
「ううん、気になることなんて全然無いよ。ただ、『いつも有難うございます』って書いてるだけかな」
これだけ思春期の胃袋を満たしてくれたし、あたし達がいない所で食材を補充してくれてる職員の方にお礼を残したかったしね。
あたしの言葉を聞いたカノっちは「ちょっと待ってて」と言ってフードコートに戻り、暫く後に戻ってきて言った。
カノっちもアンケートを書き込んで来たらしい。
「やっぱり、白鳥様の仰られてた事は本当だったのですね」
と言って直ぐに口元を隠し、その後で悪戯っぽく舌をチロっと出して言ってくる。
「駄目だなぁ私って、白鳥様の事を思い出すだけで自分を隠せなくなってしまいまして。あの方といる時は本当にリラックス出来て、お喋りが止まらなくて、お別れのときまでずっとお話ばかりして両親によく叱られていました」
そんな思い出話を聞きながら、あたしの部屋に戻ると先程の場所に落ち着く。
あたしは紙コップにお紅茶を注ぎ入れ、カノっちは紙箱を開けて双方取りやすい場所に置く。すると、あたしに視線を向けて話し始めた。
「別に隠し遠そうなんて思っていませんでした。ただ、幼い頃から『神楽坂』って名前だけで世間の視線が厳しくて……だから、『神楽坂』である為に頑張って勉強もスポーツも社交界も色々と頑張って……一生懸命頑張って、ずっとずっと頑張ってきて、そして去年アリシア学園の推薦を貰ってさらに頑張って、無試験の合格通知が届いて……入院しまいました」
そこで一度、恥ずかしそうに微笑んで言葉を続けた。
「昔からお爺様やお祖母様、お父様やお母様に頑張り過ぎだって言われておりまして。でもそこで力を抜いたら変な風に言われる気が致しまして……私は良いのですけど、家族にまで言われるのは嫌だったものですから」
なるほど、それは分からないでもないかな。
あたしも子供の頃から『神之原』のクセにとか、散々言われてきたしね。
すると、あたしの言葉を聞いたカノっちが前のめりに言葉を出してきた。
「それで、志乃はそんな時どう致しましたか? 何と言い返しておりましたか?」
そうだなぁ……
と、考えてから直ぐに答える。
「あんまり気にしなかったかなぁ。別に狙って『神之原家』に産まれた訳じゃないし、それに『神之原』じゃなきゃいけないなんて思ったこともないし。でも産んでくれたことはすっごく感謝してる」
そう言って紙コップを口元に持っていき、お紅茶をひと啜りして話を続ける。
「あたしや兄妹達は自分の出来ることを一生懸命頑張ってるだけで、『神之原』の為に生きてる訳でもないし、おばあちゃんにもお母さんにも『神之原家』なんだから! なんて言われたこともないしね。ただ、周りの事なんて気にしなくてもいいよとは言われ続けてるかな」
すると、カノっちはあたしの言葉に驚きながら言ってくる。
「でも……やっぱり気になりませんでしたか? 『神楽坂家』は旧家だし、『神之原家』も何代にも渡る歴史を持つ家柄でしょう? 色んな人から見られてる家系だから、恥ずかしくないようにしなけれぼと思いませんでしたか?」
その言葉に、あたしは両手を後頭部に押し当てて答えた。
「全く考えたことないなぁ。元より『神之原家』の初代がどんな人かなん分かんないし、今の『神之原家』が初代の時の『神之原家』とは思わないし。あたしが知ってるだけで、13代目のおばぁちゃんと14代目のお母さんじゃ全然違う方針だしね。それに、これは御先祖様の言葉だけど、自分が『神之原』になるんじゃなく周りの人が『神之原』にしてくれてるって言ってたみたいだし。まぁ、2人の兄貴達がどう考えてるのかは分からないけど、少なくともあたしと妹はそんな事を思ったことは無いよ」
カノっちはあたしの言葉に驚愕の表情で聞き入り、そして言葉出した。
「周りの人が……してくれる……」
その言葉にあたしは返答する。
「うん、そだね。人は1人じゃ誰も生きていけないから、色んな人の助けがあって人は成長して行けるんだしね。それに、いくら頑張っても1人で出来る事には限界があるんだし、無理に1人でやる必要も無いし。だったら誰かに助けてもらった方が全然いいしね。もし、初代の頃から受け継がれている物があるなら、そしてこれからも受け継いでいくものがあるとするなら、感謝の気持ち……かな」
あたしの言葉に、それでも困惑するようにカノっちは言葉を出す。
「感謝の気持ち……でも、それでも自分が頑張らないといけないのではないのでしょうか?」
そんな言葉に、飄々と答える。
「そだね、でも『頑張る』のと『頑張りすぎる』のは全然違うんじゃない?それに自分が頑張るんじゃなくて、自分も頑張るって事じゃないのかなぁ。あたしのお母さんは、お母さんのお姉さんと一緒に頑張ってるし、おばあちゃんも妹のおばさんと頑張ってたし。聞いた話ではひいお婆ちゃんも、お姉さんと妹さんと一緒に頑張ってたって聞いてるしね」
そこまで言って一旦お紅茶を啜り、そして言葉を続けた。
「まぁ頑張るのニュアンスの違いかも知れないけど、頑張りすぎて駄目になるくらいなら最初から頑張らない方がいいんじゃない? それでも一族の為に頑張りたいなら『皆んなで頑張ろう!』って言った方が全然楽なんじゃないかな?役割分担みたいな?」
「役割分担……」と、呟くカノっちにあたしは話し続ける。
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