3-8.

 まぁ、待機所で散々質問攻めにあって細やかに返答したから記者会見の内容に新鮮味が無いと判断したのだろう。


 何よりあたし自身の口から既に聞いた内容以上の発言も無かったから、興味が無くなるのも当然だ。


 あの時、待機所から出て行った響希にすら寄宿舎に戻って部屋に上がる前のエレベーターで呼び止められ、人気のないところで説明を求められた。


「チューさせてくれたら教えてあげる」と言ったらマジギレされそうになったもんで、落ち着かせるように説明してあげたしね。


 そんな響希も既に姿が無かったし。



 フードコートから退出して行く生徒も多く、移動する生徒から「お休み、神之原さん」「また明日」「じゃねぇ」と、声をかけられる。


 新入生とは仲良くやって行けそうだと思つつ、声をかけてくれた子達ひとりひとひりに返事をして見送った。


 その後、フードコートに残るあたし達を含めた約60人の生徒は消灯時間ギリギリまでお喋りを楽しんだ。


 皆んなでお休みの挨拶を交わして部屋に戻り、ポケットに入れっぱなしのスマホを持ち上げてチェック。


 画面には親友グルチャと由乃チャット。天照院中等部の同級生からのチャットがあり、同級生の分は適当にスタンプで対応してから由乃とリモ電を開始する。



「今日のしぃちゃんの映像の部分だけ切り取ってスマホに入れたんだ。これで何時でもしぃちゃんが見れるようになったよぉ」


 まぁ由乃らしいなと思いつつ、おそらくお父さんなら各局で放送された分を記録してるだろうなと言うと、由乃は短く答えた。


「うん! もちろんっ!」



 30分程のリモ電を楽しんだ後、あたしは親友グルチャに文字を入れ込む。20分くらいやり取りをしてスマホを手放したのが午後10時50分。


 寝る前恒例の『こんにゃろうタイム』に入ろうとした時、スマホのチャット着信音が鳴った。その画面には親友のひとり、リカリぃの名前が表示されていた。


 直チャットとは珍しいなと思ってスマホを取り上げタップすると、こんな文字が目に飛び込んでくる。



【神楽坂様とはもうお話しされましたか?】



 それからリカリぃと20往復くらいチャットをしてからスマホを置き、あたしは早急に『こんにゃろうタイム』を終わらせてベッドに落ち着き眠りに落ちたのだった。



 翌日も午前9時には大フロアに集められ、その後に寄宿舎内の様々な会場で身体測定を行った。


 お昼前には全ての身体測定が終わり、4日間の入学前試験の日程の終了を告げられたあたし達は、フードコート横のフリースペースでマッタリしている。



「終わった……」と呟いて、ねぇちんがチマチマと紅茶を啜る。


「せやなぁ……あっちゅう間やったなぁ」と言ってハヅキチが緑茶を飲んでまどろむ。


「ホントやねぇ……」と言いながらハヅキチに同調するなるピョンは、ほうじ茶を口元に持っていく。



 いや、年寄りの集会かっ!


 ティーンズの潤い皆無だわっ!!!



 いつの間にかあたし達と共に行動するようになった、たわわな寺本七瑠ちゃんを『なるピョン』と呼ぶようになった。何故そうなったかと言えば、動く度にぴょんぴょん跳ねるたわわだからと言うことで。


 なるピョンは兵庫県の淡路島出身だから、香川県のツクと大阪府のハヅキチの事を知っていたため直ぐに打ち解た。


 あたしとハヅキチが初めて出会った時、その傍になるピョンが居た。なるピョンはハヅキチに声をかけようと思っていたところでスマホを渡され、撮影する羽目になったらしい。


 あたし達は、あたし・ツク・カノっち・須藤ツインズ・ハヅキチ・マイマイ・さくら・なるピョンの9人でグルチャを作る仲までになったのだ。



 昨日の一件から寄宿舎にいる全員の生徒と個別に撮影をと言われて写真を撮ったし、全員と言うからにはもちろん響希とも撮っている。


 朝ご飯が終わって自室に戻る手前で呼び止められて撮ったんだけど、どうやら響希のおばあちゃんがどうしてもあたしとのツーショットが見たいと言われての事だった。


「私は祖母を喜ばせたいし、祖母の頼みだけは叶えてやりたい。だから一緒に写れ……かみ……志乃」


 っと、頬を赤らめてそっぽを向きながら言う響希に対し、「だったらチューを……」っと言ったところでギロリと睨まれる。


 まぁ響希の赤面を見られたからいっかと思い、ふたりでなるべく寄り添うようにして撮影した。


 あたしの横に写る響希は、彼女なりの笑顔を見せている。


 粗暴者なイメージの響希ではあるけど、割とクールな笑顔も見せる子だから無理をした作り笑顔でも無かったし。


 あの画像を響希のおばあちゃんに送った後はどうなるのか……


 あのまま響希のスマホの中に残っててくれたらいいなと思う、朝の出来事だった。



 そんなこんなで女子生徒全員と打ち解け、明日の入学式やクラス分けや入寮の話で盛り上がっている。と、マイマイがこんな事を言ってくる。


「その前に制服だよねっ! やっと着れるね、制服!」


 その言葉にさくらも同意する。


「ホントだよぉ、寄宿舎に来たら直ぐに着れると思ってたのにぃ」



 『私立アリシア魔法学園』の制服は、全国高校生制服ランキングの上位に上がる程人気が高い。コスプレの商品にもアリシア学園の制服を模したものが売られているほどだ。


 その制服は、白いブラウスに赤と金のチェックが細めのラインで縁取られている。


 首元は、赤と金色のチェックのネクタイかリボンのどちらかを選び、『アリシアブルー』と言う紺色を基調にしたブレザーは腰よりも上の位置までの短めな物になっていた。


 スカートもブレザーと同色で、こちらも赤と金のチェックが縁どりされている。


 そして、この制服最大のポイントが幅広な帯ベルトなのだ。


 ブレザーが短い分、この帯状のベルトがお腹周りのアクセントとなっていてネクタイと同じデザインとなっている。


 レイアウトとしては、腰にピッタリ締めるのも良しだし、バックルにクロスで通して両端を垂らすのも可愛い。


 制服は全て採寸通りのオーダーメイドだけに、帯びベルトが無くてもスカートが落ちることも無い。その為に、あえてベルトを締めないのもカッコいい。


 ブレザーの裾が腰上までしかない為に、寒い時期は学園指定の薄いグレーに赤い縁どりのベストや、ベストと同色のカーディガンを羽織ることが出来る。それに、学園指定のダッフルコートがとっても可愛い。


 逆に、夏はブレザーを着ずに半袖のブラウス姿がこれまた良しだし。


 靴下は、白か黒であればニーハイであろうが何であろうが自由で、ワンポイントとしてアリシア学園の校章が施されている。


 ローファーだけはごく普通のデザインになっていた。


 学年の見分けとして、1年生はブレザーの袖のボタンがひとつ、2年生はふたつ、3年生は三つとなっている他は全学年共通デザインだ。


 ちなみに体操服だけは1年生はショッキングピンク、2年生はパステルブルー、3年生はレモンイエローと決まっていて、持ち上がり制となっている。


 夏冬共に胸元のアリシア学園の校章が付いていて、これまた巷の人気となっているようだ。



「3時には届くと聞いていますぅ。楽しみですねぇ」


 と、なぁちゃんが言うと隣のねぇちんがカクンと頷く。


「私はあのローファーのデザインが好みじゃないなぁ。まるでお嬢ちゃんみたいだし」


 と、カノっちが言った後にツクが驚いた様に声を出し、その後でフニャと破顔した。


「ふえっ? お嬢ちゃんみたい? そんなに可愛いんだったら私、嬉しいぃ!」


 本当に表情の豊かな子で、知らず知らずのうちにホッコリが滲み出てしまう。

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