3-7.

 すると、フードコートの至る所でざわめきが起こり始め、あちらこちらで声が聞こえる。


「わぁ……神之原さん……綺麗……」

「ほんとだねぇ……」

「神之原さんカッコよすぎでしょ」

「スタイルいいねぇ……羨ましいぃ」

「いくらでも見てられるよぉ……」

「付き合って欲しいなぁ……」


 そんな声にあたしは苦笑いしながら思う。



 いやいや、そんないいもんじゃないッスよと。


 あたしゃかなりのゲス女だし、かなりのエロエロ女だし。



 実は、測定が終わった待機所で響希とすったもんだがあって押し倒した時なんかマジでチューしてやろうかと思ってたくらいだし。


 なんなら本気でやっときゃ良かったかなと後悔してるくらいだしと思いつつ、モニターを見ながらあたしは思い出す。



 あの時、スタート地点に立った時から森の中に違和感は感じていたなと。



 それから直ぐにモニターの中のあたしはスタート地点から飛び出し、土埃を上げながら森の中に突っ込んで行った。


 至る所から出現する召喚獣を倒しながら、激走するあたしの画像が画面を切り替えつつ流れていく。だけど、スタート地点や森の中にカメラマンがいて撮影していた訳では無い。


 なのに何故この様な映像があるのかと言えば、森の中には高さ1.5メートルくらいのポールが何十本も立てられていた。その先端部に稼働する小型カメラが仕込まれているらしい。


 人感センサーで反応して、魔力測定の様子を録画すると前日に説明されていた。


 それに先程、1時間前に広報の高梨さんにも映像使用の許可を求められたし。



 モニターの中では打撃ポイントに迫ったあたしが魔力を纏った右手でパンチを叩き込んだ途端、ポイントが根元からへし折れる。そして、そのまま地面にめり込んだ映像が映し出された。



「「「「「おおっ!!!」」」」」

「「「「「おおっ!!!」」」」」

「「「「「おおっ!!!」」」」」



 いや、あんたら待機所のモニターで見てたでしょうが!!!


 何んで初めて見たような反応になってんのっ!!!



 全くもう……と思いつつ、あたしはモニターに視線を戻した。



 モニターの中のあたしは召喚獣を薙ぎ倒し、また隣の男子生徒が打ち漏らした召喚獣も倒しながら激走している。


 そして、蹴りポイントに差し掛かかりジャンプして2回転目でポイントに蹴りをぶち当てた。その瞬間、再びポイントが根元からら薙ぎ倒され地面にめり込んだ。



「「「「「おおおっ!!!」」」」」

「「「「「おおおっ!!!」」」」」

「「「「「おおおっ!!!」」」」」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!


 歓声と同時に拍手まで沸き起こった。



 いや要りませんって、それ……


 マジ勘弁ッスわ。



 その後もあたしの進撃は止まることなく召喚獣を倒しつつ、最後の放出ポイントに辿り着いたあたしは右足に魔力を込めて振り抜いた。


 右足から放たれた炎の魔法は急速に膨張し、放出ポイントである魔法消石を丸呑みにして大爆発した瞬間に魔法が魔法消石に吸い込まれていく。


 放出ポイントの真横を通過したタイミングで炎の魔法は完全に吸い込まれた。横目にしか見ていないけど、さすがにこれは壊れないだろうと思って駆け抜ける。


 ただ計測が終わって待機所の中で聞いたけど、実は放出ポイントも破壊してしまっていたとの事だった。


 確かにモニターには走り去っていくあたしの後ろ姿の横に、上半分が地面に崩れ落ちる瞬間の放出ポイントが映し出されている。


 結局、全部のポイントを破壊いてしまったのかと苦笑いしながらあたしはモニターを眺めた。


 放出ポイントを通過した後に現れてくる召喚獣は、此方に襲いかからず左から右へ移動していく。その中にあたしが飛び込んで根こそぎ叩き落としていた。


 そして、全ての召喚獣を倒し終わったその時、突然左側から『ガウェインドラゴン』がモニターの中に出現する。


 その時のあたしには自覚は無かったけど、モニターの中では『ガウェインドラゴン』が出現した瞬間だった。


 あたしは移動のスピードを若干緩めていたところを見ると、多少なりにも驚いている様に見えた。



「どこがやねんっ! 全然驚いとらんやんけ! 普通は止まるっちゅうねん!」



 っと、ハヅキチに突っ込まれる。


 さすがは浪速っ子だけあって突っ込みの間とキレが、ひと味違うなと感心してしまう瞬間だった。


 そう褒めると、ハヅキチは後頭部を掻きながら「いやぁ、それほどでもあるけんどもなぁ」と言って照れ笑い。



 チョロい娘である。



 モニターには、あたしがドラゴンの顎の下に潜り込み、魔力を纏った両足で地面を蹴ってジャンプ。魔力を纏わせた拳を思いっきり叩き込んで15メートル級の巨体を仰け反らせ、宙に浮かせている。


 あの時の感触は今でも覚えていて、下顎を殴ったにも関わらず頭蓋が砕けた感覚が拳に伝わっていた。


 多分それだけで致命傷だったろうけど確実に仕留めなければと思い、あたしは仰け反って宙に浮くドラゴンの首をホールド。


 ジャンプ後の降下の勢いそのままに、着地と同時に一本背負いで地面に叩きつけた。


 モニターの映像には音が全く入ってなく少し画面が揺れているだけだったけど、実際は地面に叩きつけたときの音は凄まじかった。


 それに、ドラゴンをホールドしている両腕にはドラゴン族特有の硬い皮膚や骨の砕ける感触と音が、あたしの耳にはハッキリと聞こえていたし。


 一本背負いを決めたあたしの映像を見ながら、フードコート内から再び感嘆の声が聞こえ始めた。



「すごぉい……」

「カッコイイ……」

「美しすぎる……」

「神之原さん……綺麗……」

「わたしもああやって押し倒されてもいいかも……」

「いっそそうして欲しいかも……」

「もう結婚して欲しいなぁ……」

「さすがは『神之原』だな」



 なんか後の方は願望になっちゃってるし、最後の言葉は真中だなと思いつつ視線を巡らせ真中と目が合うと、ニヤリと微笑まれた。



 モニターの中のあたしは仰向けになった『ガウェインドラゴン』の胴体を、首をホールドしたまま駆け抜けている。


 あたしの移動に合わせて起き上がる巨体を引き連れ、尻尾の辺りで高くジャンプ。


 ドラゴンを強引に持ち上げて森の木々を飛び抜けると、瞬時に画面が切り替わる。そして、あたしが『ガウェインドラゴン』を持ったまま降下してくる映像となった。


 着地した後に再び一本背負いで地面にめり込ませる。


 仰向けにしたドラゴンの顎に右足をのせ腕組みをしてニカッ!と笑う、ドアップのあたしの映像が固定された。



「「「「「わぁぁっ!!!」」」」」

「「「「「わぁぁっ!!!」」」」」

「「「「「わぁぁっ!!!」」」」」

 バチバチバチバチバチハチバチバチバチバチバチバチバチ!!!



 歓声と共に一段と拍手が大きくなるのが、とてつもなくハズい。


 計測のタイム的には、最初に一本背負いを決めた時点で走り抜けても良かった。だけど、そのまま放置してると15メートルものドラゴンの亡骸を移動させるのも時間がかかるだろうと思い、戦利品がてら持ち帰ったに過ぎない。



「へっ? ついで? あれ……ついでだったの?」



 と言って、ツクが画面とあたしを交互に見ながら苦笑い。


 そんなツクにあたしは右手親指をクイッと立て、モニター同様にニカッと笑ってあげる。



 その後でモニターの中で色んな解釈が飛び交う中、フードコートではドリンクバーに行ったりスイーツを取りに行ったり。


 各々が各々の行動を始め、それ以降はモニターの中の記者会見に興味を無くして円卓ごとにお喋りを楽しみ始めた。

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