3-6.

『本日、福岡県北九州市小倉南区道原どうばるの【私立アリシア魔法学園】の訓練施設内に侵入した中級悪魔【バウンドドラゴン】を、同学園の新入生である神之原志乃さんが魔力測定中に遭遇し、討伐されたとの情報が入りました。前日に、付近の山中で発生したものと見られ、本来の【バウンドドラゴン】の約1.5倍の大きさであったことが判明しました。学園側の発表によると……』



 寄宿舎に戻った女子生徒全員は真っ先に自室に戻る。全員がシャワーを浴びたであろうタイミングで館内放送が流れて女子生徒が大フロアに集合させられ、こんな説明を受けている。


「皆様、本日の魔力測定お疲れ様でした。私、『私立アリシア魔法学園』広報部、高梨祐奈たかなしゆうなと申します。本日の皆様の測定結果を拝見させて頂きましたが、さすがは本校に入学される方々ですね。学園側の設定した規定ラインを全員上回っておられるようです』


 学園広報の高梨さんは、一拍おいて話し出す。


「魔力測定中に襲来し、神之原志乃さんが討伐された中級悪魔『バウンドドラゴン』ですが……先程、県魔法統括機構と当学園、並びにヘクセクラスの討伐組織の検証の結果、当学園訓練施設に現れたのは、上級悪魔の『ガウェインドラゴン』と判明しました」


 その言葉を聞いた生徒達からは、どよめきが起こる。


 そんな中、大フロアの後方でガタッと椅子を鳴らす音がした。全員が振り返ると、そこには呆然と立ち尽くす響希の姿があった。



「バカなっ……上級悪魔だと……」



 その表情は驚愕以外の何ものでもなく、ただ立ち尽くす響希に広報の高梨さんはマイク越しに声をかける。


「いかがいたしましたか? ……えぇ……斑鳩さん。質問が無ければ着席して下さい」


 そう言われた響希は、ゆっくりと……ゆっくりと驚愕のまま腰を下ろしていった。


 いやまぁ、あたしも『バウンドドラゴン』にしてはデカすぎるかなぁ……とは思ってたけどね。



 ちなみに、『へクセクラス』とは高魔力保持者のレベルの事で、ゴメンですけど、そこの所の話しは後程と言う事で。



 本来、中級悪魔は大きなもので10メートル以下、10メートル以上25メートル以下までが上級悪魔に分類される。


 ただ、中級悪魔最長の『バウンドドラゴン』は、12メートルまでの大きさが確認されるも動きの鈍さから中級悪魔に分類されていた。


 だからあたしもあれが『バウンドドラゴン』と言われても、そうなんだとしか思わないし。


 それに、響希が驚くのも無理はない。


 普通なら上級悪魔ともなると、ヘクセクラスの討伐者が最低でも5人以上で討伐するものだし。


 分かりやすく言えば、いくら高魔力保持者の集う『私立アリシア魔法学園』の生徒が寄ってたかったとしても、上級悪魔を討伐する事は容易では無いって事で。



 響希が席に座ったのを確認し、広報の高梨さんの話は続いた。


「この事実を、本日午後8時より緊急記者会見を開いて発表することになりました。現在、夕方のニュース速報により、当寄宿舎近辺にマスコミ関係者が数人確認されています。寄宿舎並びにアリシア学園関係の施設内には、一般人は立ち入り出来ません。ですが、様々な手段でコンタクトを取ってくるやも知れませんので、生徒の皆さんは寄宿舎の外に出ないようにお願いします」


 そう言った後、広報の高梨さんはスマホを取り出して何かを確認。難しい顔をしてから視線を此方に戻し、声を出した。


「たった今、当学園の生徒の御実家に、マスコミ関係者が訪れたとの報告が届きました。恐らく、此処にお集まりになった生徒の皆様にも、御家族からメール等で連絡があると思います。この事件を殆どの方がモニターでご覧になっているとは思いますが、見たこと以上の憶測を仰るのはお控えください。御家族の方には当学園が対応しておりますので、これ以降の御家族や親族、地元の友人の方々との連絡には過剰にならない様にお願いします」



 昨今のマスコミは、SNSの発展で情報の先行放送が難しくなったと。そんな状況下でこぞって新鮮な情報を求める為、少々行き過ぎた行動に出る傾向があるとか。


『報道の自由』を傘に、24時間体制で張り付いたり等。


 まぁ、割と『神之原家』もそんなやからが家の周りをうろつく時もあったらしい。今では『神之原家専門家』のオッサンを通して報道各所に情報を提供している為に、最近ではその様な事は無くなった。


 ただ、そんな『神之原家』の長女が世間から隔離された日本三大魔法学園のひとつである『私立アリシア魔法学園』の入学前の魔力測定会で、上級悪魔をひとりで仕留めてしまった。


 そんな情報をいち早く仕入れるために、外堀である各生徒の実家におもむき情報収集に勤しむのも分からないでもないが。


 それに、仕留めたのが『神之原』の娘なんだから我が家に行けばいいものの……


 まぁ行ってるんだろうけど、アリシア学園の生徒だからとか、新入生だからとかで、我が家とは関係ない人達の所に行くのは如何なものか。


「緊急記者会見の模様は、特別にフードコート内の大型モニターで視聴出来るように許可を貰いましたので、御自由にご覧になって下さい」



 現在午後7時55分



 広報の高梨さんの話が終わり、全生徒はフードコートに移動して、ビュッフェディナーを楽しんだ。


 各々が記者会見の始まる前のひと時を過ごしている最中、あたしは寄宿舎に電話してきた世界魔法統括機構の理事長に当時の状況を説明する。



 まぁ、あたしの叔母さんなんだけど。



 その後、スマホに電話をしてきたお母さんに同じ説明をしてフードコートに戻る。と、真ん中辺りの円卓でハヅキチがあたしを見つけ、右手をブンブン振っているのに気付く。


 その仕草がつい1週間前まで馬鹿みたいに遊びまくった中等部時代の親友のひとり、ルナっちの姿と被り妙に懐かしさを覚えてしまう。


 円卓にたどり着くと、そこにはハヅキチとツクとカノっち、マイマイとさくらが座っていた。その右隣の席に須藤ツインズと、たわわな七瑠ちゃん他3人が座っていた。


 あたしは、空いているツクとカノっちの間の席に座ると、大型モニターに記者会見会場が映し出される。


 フードコート内には殆どの生徒が大型モニターを見ていたのだけど、あたしが辿り着いた時には響希の姿は見えなかった。


 だけどモニターに記者会見会場が映し出されて直ぐ、フードコートの入口付近に現れ立ったままモニターを見ている姿が確認出来た。


 程なく記者会見が始まった。


 まず県魔法統括機構の代表がその場に立ち、悪魔発生時からの説明と中級悪魔と上級悪魔の見解の誤ちを謝罪。


 次にアリシア学園の代表が席を立ち、今日の訓練施設での出来事と『ガウェインドラゴン』出現時の状況と、討伐の経緯を説明して着席する。


 その後に、ヘクセクラスの討伐組織が検証の経緯と結果を説明した。


 ここまでは何の変哲もない記者会見だった。しかし、出現当時の話題に変わるとアリシアの担当者である広報の高梨さんがこんな事を言い出した。


 どうやらこの記者会見の会場は、アリシア学園の施設内で行われているようだ。


「『ガウェインドラゴン』が、当学園の訓練施設内に出現し、当学園の新入生である神之原志乃さんが討伐するまでの時間は1分も満たない僅かな時間です。そこで本日、当学園の入学前魔力測定会に挑んだ神之原志乃さんの、スタート地点からゴール地点までの5分間の映像を流させていただきます』


 そう言って切り替わったモニターの画像には、スタート前に両手両足に赤い魔力を纏わせて佇むあたしの姿が映し出された。

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