3-4.

 やっちまったと思いながらもその場を駆け抜けると、直ぐに召喚獣が60体現れた。


 移動するスピードを今度は緩めて召喚獣を仕留める。ついでに国木田なんとかが撃ち漏らした20体の召喚獣を仕留め終わった瞬間、国木田なんとかの向こうから気合いの篭った大声が聞こえてきた。



「ウォォォォォォォッ!!!」

「ハァァァァァァッ!!!」

「タァァァァァァッ!!!」



 その声は十中八九カノっちのもので、その雄叫びは進むにつれて大きく猛々しくなっていく。



 あたしは再びスピードを上げて迫り来る60体の召喚獣を全て仕留めると、今度は蹴りポイントが見えてきた。


 右足で力強く地面を踏み込み、そのまま地面を蹴って加速させる。


 ポイントの手前でジャンプし、2回転してから左の足の甲からスネの下部分をポイントにヒットさせて振り抜く。



 ボッゴォォォォォンッッッ!!!!!



 再び2メートル弱のポイントが根元からへし折れ、地面にめり込んだのを苦笑いしながら通過した。


 今日1日で魔力を纏った拳や蹴りを60人分食らったら最後にああなってもおかしくは無いだろうと思いつつ、次から次へと湧き出す召喚獣を叩きのめす。


 どうやら、ひとつのポイントを通過する事に召喚獣は増えていくようだ。


 蹴りポイント以降からは一気に100体が襲いかかってくる。その全てを叩き落としてBコースに残された50体の召喚獣を殴り落すと、最後の放出ポイントの魔法消石が現れる。


 その魔法消石に急接近し、5メートル手前で急停止して左足を軸に右足を魔法消石に目掛けて振り抜いた。



「ファイヤァ━━━━━━━━━━━ッッッ!!!」



 あたしの掛け声で右足から放出され膨張した炎が、魔法消石を丸呑みし大爆発た。しかし、放出された炎は急速に吸い込まれていく。


 その様子を横目にダッシュで駆け抜けると、森の左側から150体の召喚獣があたしを襲わずに横切ろうとする。


 かなりの違和感を覚えつつも、素早く召喚獣の進行方向に回り込み全滅させた瞬間だった。


 突然、左前方から真っ黒い巨大な何かが現れたかと思うと、大きな口を開けてあたしに襲いかかってくる。



 グッガァァァァァァァッッッ!!!!!



 その様子を見て、あたしは瞬時に寄宿舎の放送で聞いた『バウンドドラゴン』の事を思い出す。


 福知山ふくちやまで発生した『悪魔』が、山繋がりの、この訓練施設のある道原どうばる地区の奥深い山中に現れてもおかしくは無いかと思うに至る。けど、『バウンドドラゴン』って、こんなにデカかったっけ?っと、首を傾げた。


 それに、中級悪魔である『バウンドドラゴン』が魔法陣の中に入って来れている事にも疑問だったし。


 それでもあたしは、襲い来る『バウンドドラゴン』の顎の下に身体を潜らせる。そして魔力を纏った足で一気に地面を蹴ってジャンプ。


 真っ赤な炎の魔力を纏わせた拳を顎にぶち込み、10メートル以上もある巨体を宙に浮かび上がらせ自らもジャンプの勢いで上昇した。


 空中に舞い上がったあたしは、やがてやってくる降下に合わせて『バウンドドラゴン』の首をホールドし、そのまま地面に着地。



 「ハァァァァァァッッッ!!!!!」



 そのまま上体を丸めるように、一本背負いで思いっきり地面に叩きつける。



 ドォォォォォォォォォォォンッッッ!!!



 激しい音を辺りに響かせながら、山肌にめり込ませた『バウンドドラゴン』の首を離さず仰向けになった腹の上を駆け抜けた。


 尻尾の端までたどり着くと、尻尾の先を力強く踏みつけ先程よりも高くジャンプする。


 その勢いのまま強引に『バウンドドラゴン』を持ち上げ、森の木々を飛び越えた。


 高々と宙を舞うあたしは、眼下に見えるゴール地点に目標を定めて降下する。


 そこには宙を浮くあたしの存在に気付いた人達が、一緒に降下して来る巨大な『バウンドドラゴン』を見て驚愕の表情を向けていた。


 すると、一緒にスタートした7人の生徒が森から抜け出してくるのが見える。


 宙を舞うあたしと森から出てきた7人の生徒は、ほぼ同じタイミングでゴール地点を踏んだ。


 その後、あたしだけが掴んだ獲物を担いだまま着地の勢いで前方にジャンプ。再び全力の一本背負いで『バウンドドラゴン』の巨体を地面に叩きつけた。



 「っっっせいっっっ!!!!!」



 バァァァァァァァァァァンッッッ!!!



 けたたましい音をたてて地面にめり込ませ、辺りに地響きと砂ぼこりを撒き散らす。そして絶命した『バウンドドラゴン』の顎に足を乗せ、あたしは腕を組んでニカッと笑う。


 あたしの横にあるタイム計測器はピッタリ5分を表していた。



 こうしてあたし達の魔力測定は、周りの人間に驚愕の表情を固定させたまま修了したのだった。


 ただ、1メートルそこらの召喚獣も、この『バウンドドラゴン』も同じ1ポイントなのかなぁって思ってしまう。



 戦利品の後処理を大人達に任せ、口を開けっ放しのカノっちと七瑠ちゃんの手を取る。そして、もうひとりの子に声を掛けて女子生徒用の待機所に小走りで入り込んだ。


 その中では殆どの女子生徒がワッと沸き立ってあたしの方になだれ込み、そして一斉に声を上げた。


「神之原さん、凄い!」

「神之原さんホント強すぎだよっ!」

「神之原さんって本当に強すぎて訳わかんない!」

「お願い!一緒に写メ撮って!」


 そんな大勢の中を掻い潜ってマイマイとさくら、須藤ツインズにハヅキチとツクがやって来て、あたしとカノっちに抱きついた。


 そして、ハヅキチが嬉しそうにモニターを指さして言ってくる。


「見てみぃ志乃、あのモニター! やっぱ『神之原』はひと味ちゃうんやなぁ、恐れ入ったわぁ」


 っと言って、指さすモニターに映し出された表示を見た。


 1・神之原志乃(999P.over+)

 2・仮屋島輝星(491P)

 3・乃木真中(489P)

 4・神凪月詩(488P)

 5・有坂龍(481P)

 6・剛堂牙門(480P)

 7・斑鳩響希(479P)

 8・神楽坂歌音(478P)

 9・須藤安娜(470P)

 10・那須裕二(469)

 以下略…



 いや、オーバープラスって何? そんな数値があるって言ってなかったよねぇ!



 そう突っ込んだあたしに皆んなが笑っていると、突然、怒号が待機所の中に響き渡る。



「喧しぃ━━━━━━━━━━━━━━━っっっ!!!」



 その大声が聞こえた場所付近から左右に道が開き、そこからひとりの女子生徒が目尻を釣り上げながらあたしを睨みつけながら向かってきた。



 斑鳩響希さんだった。



 あたしはツク達の前に出て斑鳩さんを迎える。と、彼女は表情をさらに険しくし、あたしの1メートル前で立ち止まり怒りのまま言葉をぶつけてきた。


「たかが召喚獣を倒し、ポイントを稼ぐだけの測定でいい気になるなよ神之原っ!」


 と言って拳をギュッ握りしめる斑鳩さんの後ろから、真中が仲裁するように斑鳩さんの肩に手を当てて言葉を出す。


「辞めるんだ、響希! これは学園公式の測定だ! その結果に物申したいならば、志乃では無く学園側に意見するのが筋と言うものだろう。それに志乃はたったひとりであの『バウンドドラゴン』を倒したのだ。お前もモニターで見ていただろう」


 すると斑鳩さんは真中の手を乱暴に払い除け、あたしをキツく睨みつけながら言い放つ。


「ふんっ! あんなノロマの中級悪魔など、お前だって殺れるだろうが! もとより物の数になど入れてはいない! それに、学園公式の測定だと? ふざけるなっ! ならば何故私のコースには召喚獣が少なかったのだ! こんなものが公式と言えるのかっ!」


 すると、あたしの後ろでハヅキチが声を出した。


「いんや、あんさん、そりゃ違ごうとるで。ちゃんとコースには何処も同じ召喚獣が出るて資料にも乗っとたしな。それに、志乃は隣の男子が打ち漏らした召喚獣まで叩きのめしとったやんけ。他所のコースの召喚獣をやってもええって、これも資料に載っとたしのぉ。それもこれも、アンさんがバカ正直に自分のコースだけの召喚獣しかやらんやったのが、結果に出とるんちゃうんけ」

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