3-3.

「あちゃぁ、やっぱきよったかリュウのやつ。相変わらず強いやっちゃなぁ」


 そう驚くハヅキチに視線を送ると、肩を竦めて苦笑いしながら答えてくれた。


「あれ、有坂龍ありさかりゅうちゅうヤツで、ウチの幼なじみやねん。ジャリん時からいかつくて無口で、何考えとんのかよう分からんヤツでなぁ。でも根ぇは優しいヤツなんや。犬が大好きな男でなぁ、1度に6匹の大型犬を散歩させんのが日課ちゅうとったな。それに腹立つほどメッチャ強いねん」


 と言いながら、悔しそうな表情に変わる。


「いつか絶対しばいたる」っと言うハヅキチを見ながら実は仲がいいんだなと思っている。と、ハヅキチが「ほんじゃそろそろ行くわ」と言ってニカッと笑いながら移動して行った。



 ホント色んな人がいるんだねと、センターモニターを見ながら話していると、今度は有坂龍と斑鳩さんの間に新たな名前が割って入った。



 剛堂牙門(481P)



 斑鳩さんが5位に転落する。


「……あの人………」


 と、今度はツクが呟く。あたしとカノっちがツクに視線を送ると、ツクはプクッと頬を膨らませて言った。


「大っ嫌いな人!!!」


 と言い、さくらも「私も大っ嫌い!!!」と、同調する。


 聞けば愛媛県の有名学園の粗暴者で、四国で強いと噂される子がいたら男女構わず何処へでも喧嘩を売りに行くヤツとか。


剛堂牙門ごうどうがもんって名前で、とにかくもうしつこくてしつこくて、ホント大っ嫌いなの! 優しさの欠片すら見たことも聞いたこともないんだよ!」


 っと、思いっきり憤慨するツク。


「アイツがアリシアってだけで虫唾が走る」


 と、さくらがモニターに映る剛堂牙門の名前に牙を剥くのだけど、そのふたりの怒った顔が可愛らしいやらなんやら。



 その後、あたし達は待機所に並べられたおにぎりを数個頬張り、ハヅキチの測定や結果を見ていた。すると、さくらが「行ってくる」と言って退室する。


 Aモニターでさくら見つけ、ゴール後の結果をセンターモニターで見ながらお喋り。そろそろ待機所の中も少なくなって来た頃に、あたし達のスマホのメール受信音が鳴った。


 スタート時間が近いのでスタート地点に集合せよとの連絡を確認し、あたし達は待機所から退室する。



 あたしとツクとカノっちと共に、七瑠ちゃんともうひとりの女子生徒5人でコースに向かった。程なくコースに辿り着くと、そこには11人の女子生徒と16人の男子生徒が男女に別れて立っていた。


 あたし達の存在に気づいた女子生徒は全員話したことは無いけど、此方を見ながら大きく手招きをしている様子は分からないでもない。


 少し離れた場所でも男子のチラ見は耐え難いものがあるし、男子よりも少ない人数なのもすこぶる嫌なのだろう。


 あたし達は小走りに女子生徒の元に行く途中、男子生徒の方から声が聞こえてきた。



「見ろよ、神之原だぜ」

「あっ、ホントだ。神之原だ」

「すっげぇ……初めて見た」

「スマホ持ってくりゃ良かったぁ」



 なんだか無性に放出魔法を食らわせてやりたくなった。


 あたし達が女子生徒の中に入った時、その中の4人がスタート地点に移動。あたし達は皆んなでその子を応援する。



「頑張って!」

「男なんかに負けるな!」

「男子に放出魔法食らわして!」



 そして、スタート音と共に主要魔力を纏った生徒達が駆け出して行く。


 その後、スタート地点には男子生徒4人がアルファベットの書いてある地点に立ち、女子の方は遠目から動かないでいる。


 待機所のモニターではゴール地点からスタート地点に戻ると、全員が魔力を纏ってスタート地点で待機している映像だった。


 だけど、実際は女子生徒は離れた場所で主要魔力を纏い、スタート前ギリギリで地点に移動しているみたいだった。


 スタート地点にも各コースにモニターがある。前に出た生徒が放出魔力をポイントに撃ち込んだのを確認したところで女子生徒達がそれぞれの地点に立ち、その様子を男子生徒がチラ見攻撃。


 そしてまたスタート音が鳴り、生徒達が駆け出して行った地点に次の男子が立つ。らけど、女子生徒は待機しているその場で主要魔力を取り込みながらモニターを見る。



 そんな様子を2度ほど見ていよいよツク順番となり、ツクの身体に緑色の魔力が纏わり始めた。


 やがてスタート地点に立ったツクの表情は真剣そのもので、こう言っては何だけどめちゃくちゃ可愛かったりする。


 スタート音と共にツク達のグループは森へと駆け出し、あっという間に見えなくなった。


 すると、男子最後の4人が地点に立つ。カノっちや七瑠ちゃん、そしてもう1人の女子生徒は、その場で主要魔力を纏い始める。


 カノっちは黄色、七瑠ちゃんは青、もう1人の子も青の主要魔力を全身に纏い、あたしは赤い魔力を両手と両足にのみ纏わせた。


 そんなあたしの様子に気づいた七瑠ちゃんが、言葉を出してくる。


「神之原さん、それで大丈夫なん?」


「志乃でいいよ」と言って、七瑠ちゃんに右手でOKマークを作って見せた。


 苦笑いの七瑠ちゃんの横で、カノっちは静かに魔力を高めていく。そして、いよいよあたし達は男子のチラ見を他所にスタート地点に立つ。



 一番左端のA番地点のあたしは男子に挟まれる事が無かったのは良かったんだけど、右横の国木田なんとかが恐る恐る声を出してきたのがイラッとくる。


「あ……あの……神之原さん……魔力それだけで大丈夫なのか……」



 うっざ……



 っと、言いそうになったあたしは国木田なんとかに視線を向けず、短く答えた。


「問題ないよ」


 そう言ったあたしは眼下に広がる森の中に何となく違和感を感じるものの、今は集中しなきゃと思い直して前を向く。


 その5秒後にスタート音が鳴り、最終組は一斉に飛び出して行った。



 スタート地点から出て直ぐにゴツゴツした土を駆け抜け10メートル程で森の中に入ると、直ぐに低級悪魔に模した召喚獣が飛びかかってくる。



 総数30体。



 召喚獣が縦に重なる場所に拳を一振で5体叩き落とすを2度。


 流れるように回し蹴りひとつで7体蹴り飛ばすを2度繰り返し、残った6体を移動しながらラッシュで叩き潰す。


 更に現れて襲いかかる召喚獣50体を移動するスピードに乗せて一体残らず蹴りやラッシュで撃破する。と、最初の打撃ポイントが見えてきた。


 あたしは地面に右足をめり込ませて一蹴りで加速し、ポイントに魔力を纏わせた拳をぶち込む。



 バッゴォォォォォォンッッッ!!!!!



 直立していた高さ2メートル弱の打撃ポイントが、根元から派手な音を残して地面にめり込んだ。

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