3-2.

 魔力測定の終わった生徒の情報はセンターモニターに映し出されていて、撃破ポイント数と通過タイムのみで順位付けされている。


 その結果、現在ゴールした生徒12人中マイマイは総合3位、女子では2位と好位置に付けていた。


 ちなみに、午前中の計測までに先程終わったマイマイに続き、なぁちゃんとねぇちん、ハヅキチとさくらの順番で行われる。


 全体の最終前にツクで、あたしとカノっちが最後となっていた。



 あたしのスマホの画面には、スタート位置と名前が表示されている。


 A・神之原志乃

 B・国木田真也

 C・神楽坂歌音

 D・東堂海斗

 E・寺本七瑠

 F・坂東隆之介

 G・時坂優花

 H・安東彰


 見事なまでの男女交互にうんざりしながら、あたしは5番目Eの名前に見覚えを感じて思考する。と、背後から声をかけられた。


「あの……神之原さん、この間は一緒に写真撮ってくれてありがとね。あの画像は待ち受けにしてるんよ。今日は最後の組同士みたいだからよろしゅうね」


 と言って、軽く首を傾げてニコッと笑う……反動でたわわが揺れる。


 そうかそうか……確か初日にハヅキチとの撮影の時にいた子で、後で撮影したとき確か名乗ってた子だ。


 せっかく名乗ってくれたのに名前で思い出せず、たわわで思い出すなんて。やっぱあたしってゲスだわぁと実感してしまった。


「うん、よろしくね。後、志乃でいいよ」


 と言うと、七瑠ちゃんは両手とたわわをブンブン振って拒否ってくる。


「ムリムリムリムリッ! ムリですっ! ウチなんかが呼び捨てなんてとてもとても……」


 そう言いながら顔を赤くして後ずさり、そのまま駆け出して行った。



 いや……


 そんな逃げなくても……


 軽くショックなんですけど。



 あたしが呆然と七瑠ちゃんの去っていった方を見ていると、なぁちゃんが「行ってくるねぇ」と言い、その横でねぇちんが無表情で右手を振ってふたり揃って待機所を出ていった。



 あたしとカノっちとツク、ねぇちんとヅキチとさくらでCモニターを見ながら雑談を交わしていると、ゴール地点からスタート地点に戻った瞬間に見知った顔が映し出される。



「次は斑鳩さんなんだ」



 と、カノっちも画面を見ながら呟く。


 画面の中には、赤い魔力を纏った斑鳩響希さんが鋭い目付きでスタート地点に立っている。そして、素早く飛び出して森の中に突入していく。


 Cモニターの中では、召喚獣を拳で蹴りでなぎ払い、打撃ポイントには重そうなパンチを打ち込んで素早く移動し召喚獣を貫いた。


 移動のスピードを加速させ蹴りポイントでも重厚感のある蹴りを食らわせた後、召喚獣の群れに飛び込む。


 斑鳩響希さんが通過した後の地面には、叩き落とされた召喚獣が転がり、めり込み、そして消えていく。


 最後の放出ポイントでは拳に纏った赤い魔力を巨大な炎に変え、まるで隕石のように放出した。



 放出ポイントは『魔法消石』という物が使われており主要魔力で転換された放出魔法を吸収し、吸収された魔法を大気中に戻す効果を持っている。


 放出魔法の計測や訓練の為に、全世界で使用されている天然石だ。


 大きさは縦2メートル横1.5メートルで、『世界魔法統括機構』が定めた全世界共通のサイズらしい。



 そんな魔法消石にド派手にぶつけられた斑鳩さんの魔法は、魔法消石に衝突した瞬間に大爆発を起こす。


 次の瞬間、爆発そのものが魔法消石に吸収されてあっという間に消滅した。


 その後も、召喚獣を消滅させながら森から飛び出した斑鳩さんがゴール地点を駆け抜けたところで画面がスタート地点に切り替わる。



 待機所内では、計測終了者の結果を映し出すセンターモニターを見た女子生徒からざわめきが走る。


 魔力測定が始まって1時間半、測定終了者140中ダントツトップに斑鳩さんの名前が表示されたからだ。


「やっぱり凄いなぁ、斑鳩さん」


 そう呟くカノっちを眺めると、驚きもしない表情の中に対抗心が見え隠れしている。その隣のツクは感心する様に口を開けて「ほへぇ……」と、息を漏らしていた。


 すると、ツクの隣にいるハヅキチが両手を後頭部に押し当ててツクに声を出す。


「なんやなんやぁ、香川の豪腕っちゅう異名を持っとるあんさんが驚く数字ちゃうやろぉ。みっともない顔したらアカンでぇ。西日本の力、見せたってやぁ」


 そう言われたツクが、今度は恥ずかしそうにアワアワと声を出した。


「や……やめてよハヅキチ、豪腕だなんて……可愛くないよぉ……」


 涙目で訴えているツクの横で、さくらも「ホント期待してるよ」と言って、クの肩をポンポンと叩く。


 ホント、表情が豊富な子だ。



 するとその直後だった。



 センターモニターのトップの名前が斑鳩さんから見知らぬ名前に変わった。


「輝星君…」


 そう呟いたのはカノっちで「知ってる人?」っと、あたしが聞くと、カノっちは直ぐに答えてくれた。


「うん、仮屋島輝星かりやじまらいと君って言ってね、お父さん同士が仲良くって昔はよく遊んでたんだ。中学の時に海外の学校に行っててね、高校は海外の強豪校の誘いを断ってアリシア入学を決めたみたいなの。初期魔力スコアは神之原さんと一緒で、昨年度男子では世界一だったんだよ。知らなかった?」


 っと聞かれても、男子なんてミトコンドリア程度も気にならないもんだから全く知らなかった。


 あたしがそう言うと、ハヅキチもさくらも苦笑い。


「志乃っぽいね」と、カノっち。


「アハハっ…」と、苦笑うツク。


 まぁ、どうせ一緒に生活していくでもあるまいし、今はこっちを応援しようと言ってGモニターに映し出されているなぁちゃんを見る。


 モニターの中のなぁちゃんは、緑色の魔力を全身に纏い、普段のふわふわな顔つきから真剣な眼差しとなって前方を見つめている。そして、素早い身のこなしで森に飛び込んで行った。


 召喚獣を打倒し、ポイントをこなし、ゴール地点に滑り込む様に到達したなぁちゃん。その真剣な表情を最後に画面が切り替わり、そこには見知った顔がふたつ目に飛び込んできた。



 ひとりはねぇちん、もうひとりは乃木真中だった。



 あたしはなぁちゃんの結果を見ずに2人の映るモニターを見ている。と、なぁちゃん同様に緑の魔力を纏うねぇちんと、真っ赤な魔力を全身に揺らめかす真中が森の中に飛び込んで行った。


 背の低いねぇちんは、その低さを活かして体制低く召喚獣に回り込み、回転の反動を使って次々と召喚獣を打倒していく。


 対して真中の方はまさに帝王の振る舞いの如く、召喚獣に一直線に迫りよって一撃粉砕。


 計測ポイントでも身体の小さなねぇちんはスピードを活かし、真中の方はフルパワーを叩き込み、ほぼ同時にゴール地点を駆け抜けた。


 そこでようやくあたしは結果モニターに目をやると、こんな順位が表示されている。


 1・仮屋島輝星(491P)

 2・乃木真中(489P)

 3・斑鳩響希(480P)

 4・須藤安娜(470P)

 5・須藤安寧(462P)


 6位から下の生徒は430ポイント以下なんだねぇと呟くと、突然真中と斑鳩さんの間に知らない名前が飛び込んできた。


 有坂龍(483P)


 必然的に、斑鳩さんが4位に落ちた瞬間を目撃した直後、ハヅキチが声を出す。

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